岡島弘子の世界


 

同窓会

空が剥がれ落ちてくる豪雨の中
 ふりこめられた建物にたどりつく
 いつの間にかポイントを越えていて
 強い雨脚を逆上るエレベーターはタイムマシン
 扉が開くといきなり三年四組の教室で
 花あかりのもと
 制服姿の級友たちがお弁当をひろげている
 堤さん 岩上さんも どうして?
 問うまでもなく私もちゃんと中学生
 制服の胸には名札まである
 いましも
 机の上の私のお弁当に
 高倉君がお茶をじゃぼじゃぼ注いでいる
 お茶はお弁当箱のふちを越え
 しきいを越え
 一九九六年にまで滲み出しあふれしたたって
 「あっ 先生!」
 たちまち教室から逃げ出す高倉君
 追いかける先生
 教室の窓を開けてみると
 神社の大杉の根元を高倉君が逃げていくところだ
 ガッシ ガッシと
 先生は大きな歩幅で追いつめる
 「高倉君がんばってぇ!」
 窓に鈴なりに咲いた女生徒たちの声援が
 豪雨となり
 時間が絡まり落ちてきたかのような吹き降りの中を
 気がつくと私は傘をもぎとられそうにして歩いている
 激しい雨脚の向こうに
 ためいきのように駅がぽつりとうかび上がって
 蛍光灯の下で しずくをはらえば
 たった今別れてきた級友たちの肩幅が
 人生の方へみるみる広がり
 白髪まじりの笑顔と一緒に渡された名刺が
 午後九時十五分の光をはねかえしている
 
予習は済んだか 宿題はまだ山積み
 あれから一度もクラス替えはないままに
 この世は大きな教室
 答案用紙には雨脚の疑問符が並び
 死ぬまで並び?
 

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