諸橋大漢和辞典 初版縮写版→修訂版間の差

(追記:戦前版→初版、初版→初版縮写版、修訂第1版→修訂第2版 の差についても網羅しました。また重複文字のリストとeKanjiのバグリストも付けました。)

まえがき

 あいにく、「しろ〜と」の私には新品の大漢和(修訂版)を購入する財力も、置き場所もないので、古本で比較的安価に流通している縮写版を購入しました(それでも、購入にはけっこうな勇気が必要だった^_^)。
 JIS X 0208:1997の公開レビュー資料は、縮写版の大漢和コードで番号を振ってあるのですが、正式規格の方は修訂第2版を使っています。また、e漢字プロジェクトも修訂第1版を使っています。
 諸橋大漢和辞典の漢字番号(いわゆる“諸橋コード”)についてで「欠番」とされている文字のリスト(171文字)のうち、私の持っている、初版の縮写版(昭和四十三年一月二十日縮寫版第一刷、昭和四十六年五月一日縮寫版第三刷発行)で「欠番になっていない」文字のリストを作製しました。全部で17文字(そのうち本文14文字、補遺3文字)です。上記リストは、修訂第1版を元に作ったとのことなので、17文字が修訂版発行時に削除されたということになります。また、それ以外の153文字は縮寫版が出る以前に(または、初版の時点から)欠番だったことになります。
 この欠番リストを利用して、初版縮写版と修訂版の差異を調べてみました。
 大漢和は下記の版が存在するようです(特装版(本革装)などを除く)。

重複文字を削除したもの(4文字+1文字)

M18682((黔-今)|沓)水部
(修訂版)(M48133黒部と重複したため、M18682を削除)
M19135((尸<二<火)|寸)火部
(修訂版)(M7451寸部と重複したため、M19135を削除)
M19779(爿|酉)爿部
(修訂版)(M39789酉部と重複したため、M19779を削除)
M48509(嬶)鼻部
(修訂版)(M6849女部と重複したため、M48509を削除)
M27932(糸|(白<井)/廾)糸部12画(本当は糸部11画?)
(修訂版)(M27755糸部10画(白<夂)と重複のため削除?)

画数の数え間違い、部首の変更のため、移動したもの

M11388心部14画→ M11400'(修訂版) 心部15画に移動
M28093(纛:糸部19画)→ M28080(修訂版) 糸部18画に移動
M31337(艸/毒):艸部9画→ M31330(修訂版) 艸部 8画に移動
M31887(艸/(さんずい+毒)):艸部12画→ M31885(修訂版) 艸部11画に移動
M34563(吝/木/(衣-亠)) 衣部11画→ M34470'(修訂版) 衣部 9画に移動
(亠のない衣部の文字は、画数-2で配置する)
M49511(縮写版)羊部→ M49626'(修訂版)艸部に移動

上記にともなう、番号の変更

M28080(縮写版)(糸|聶)→ M28080'(修訂版)
M31330(縮写版)(艸/枕)→ M31330'(修訂版)
M31885(縮写版)(艸/勹<(艸/田))→ M31884'(修訂版)

削除のみ?

M15779(木|(登/几)) 木部14画(この文字は補助漢字37区45点に収録されている)
M29557(月|矢|卩) 肉部 7画
M41796 阜部10画
M48877(亀部)(黽部:M48307(ひきがえる)を誤って転写したか)
M49878(革|匡<屮)(革部) (M49757'(車|匡<屮) 車部10画を誤って転写したか)
M49901(首|頁)(首部)

修訂版でのダッシュ付き番号の追加(縮写版になし)

M44037'((飮-欠)|千) 食部3画
M49757'(車|匡<屮) 車部10画

修訂版での字形の変更

M2577(縮写版)→ M2577(修訂版)
M2581(縮写版)→ M2581(修訂版)
M2582(縮写版)→ M2582(修訂版)
M4692(縮写版)→ M4692(修訂版)
M4888(縮写版)→ M4888(修訂版)
M9591(縮写版)→ M9591(修訂版)
M26456(縮写版)→M26456(修訂版)(簍)

付録:修訂第一版→修訂第二版での差

 修訂第1版(A4判)と修訂第2版(B5判)(新装普及版)との間でも差があることがわかりましたので、まとめておきます。
修訂第二版で追加:(修訂第2版)M26494'(簗) 竹部11画
親字番号の変更 :(修訂第1版)M32477'→(修訂第2版)M32477''(蘭) 草部16画
親字番号の変更 :(修訂第1版)M9384→(修訂第2版)M9392'(广+建) (广部8画→广部9画へ。画数の数え間違いの訂正か。)
親字番号の変更 :(修訂第1版)M32629→(修訂第2版)M32477' 草部16画2002年8月28日修正「修訂第二版で追加」ではなく移動でした。(工藤祐嗣氏の私信による。感謝。)
親字番号の変更 :m3662610画(修訂第1版)→m36628'(修訂第2版)12画(画数の訂正による移動)2002年8月28日追加(工藤祐嗣氏の私信による。感謝。)
画数の変更   :m3262820画(修訂第1版)→(修訂第2版)21画(画数の数え間違いの訂正)2002年8月28日追加
 和製漢字の辞典(大原 望 著)の編集作業中に、「JIS漢字字典」には「大漢和にある」とされている「簗」(M26494')が、手元の縮冩版と図書館の修訂第1版になかったことが、発端です。
 池田証寿先生に「蘭」の番号変更とともに、「JIS X 0208:1997と「JIS漢字字典」の編集に使われた「修訂第二版第三刷」では「簗」が収録されている。また、「修訂第二版第四刷」でも収録されている。」と教えていただきました。
 後日、修訂第2版第1刷の全文字をチェックしてみたところ、M9384の番号変更も発覚しました。他にはないと思うのですが…

おまけ:そのほかの版での大漢和の差

 台湾で作られたという「海賊版」では、「毛沢東」と「トウ小平」の項目が伏せ字になっている(というか、四角く空白になっている)らしいです(^^; 複数の方からうかがったので、その筋では有名な話なのかもしれません。

後記:初版→初版縮冩版の差

 縮寫版の卷十二の後記に、「縮寫版の発行の際に鎌田/米山氏により誤字・誤植の修正を行った」旨の記述があるため、縮寫版は単なる初版の縮刷版ではないことがわかります。また、修訂版の序文に、「縮寫版の製作の際に諸橋先生が鎌田/米山氏に親字の誤りを中心に改訂するように依頼した」というような記述もあるので、親字が大幅に変わっていることが予想されます。とりあえず、欠番・ダッシュ付き番号のチェックだけ行いました。後日、全文字の字形の変化も含めて再チェックしなければならないと考えています。

字形と親字番号の変更

(初版)M19702(爪部11画)→(初版縮冩版)M19705'(爪部12画)
(初版)M31332(艸部9画)→(初版縮冩版)M31329'(艸部8画)

親字番号の変更

(初版)M2051(刀部8画)→(初版縮冩版)M2076''(刀部9画)。画数の数え間違いの訂正か。

新しい親字の追加

(初版縮冩版)M7550'(尢部3画)
(初版縮冩版)M35218'(言部2画)
(初版縮冩版)M39542'(邑部10画)

後記:戦前版→初版の差

 図書館で戦前版(昭和18年9月10日 10,000部 發行(発行日からすると「戦中版」と言った方が正確かもしれないが…))の第1巻を閲覧できましたので、差を調べてみました。親字番号がかなり変わっているので、親字番号の対応表を作りました。これから主要な部分を抜き出しておきます。
戦前版で欠番(4個)
79,90,179,1285(戦前版の親字番号)
戦前版にのみ存在し、初版にはない漢字(1個)
139(戦前版の親字番号)
戦前版になく、初版にはある漢字(9個)
84, 366', 462', 628', 629', 927',1042',1080 ,1368'(初版の親字番号)
 なお、戦前版の話を含めた、大漢和の編集作業などに関しては、 に詳しい(というか、これ以外の情報はないはず)。戦前版からの校正原稿などを研究できれば、大漢和の編集意図などを知る上で得られるものが多いように思うが、ムリだろうなぁ。

諸橋大漢和の重複文字について

 eKanjiのビットマップデータを利用して、諸橋大漢和の重複文字をリストアップしてみました。バイナリデータを文字ごとに16進ダンプしたものをsortして、uniqで検出したものです。「==」は「注釈・典拠も同一であり完全に同字だと判断できるもの」、「=?」は「典拠が異なるが、多分、同字だと思えるもの」、「!=」は「字形が同一だが、大漢和辞典の編集方針として別字としていることがわかるもの」です。
60(一部)== 9608(廾部)
69(|部)== 2775(卜部)
123(丿部)== 1740(几部)
129(丿部)== 2502(勹部),匁
157(丿部)== 7853(屮部)
302(亠部)== 7665(尸部)
310(亠部)==25736(立部)
314(亠部)== 1783(几部)
366'(人部)==1512(冂部)
395(人部)=? 6040(女部)
634(人部)==23937(矢部)
1080(人部)==23878(矛部)
1337(儿部)!= 7542(尢部),兀
字形は同一だが…別字だろう
1505(八部)==23802(目部)
1640(冫部)==29218(聿部)
29218の注釈に「1640と同字」とある。
1727(冫部)=?42580(青部)
42580の注釈に「或は1727に作る」とあるが、字形差はない。『漢語大字典』の記述から考えると、42580は「さんずい+(青−月+目)+見」の字形を誤記したものと考えられる。
1769(几部)==28111(缶部)
1775(几部)== 9200(糸部)
1780(几部)==36670(貝部)
1841(凵部)==23906(矛部)
2135(刀部)=?21693(生部)
典拠が異なるが、同義。同字だろう。
2146(刀部)==47889(麻部)
2254(刀部)==37235(走部)
2463(力部)==19372'(火部)
2526(勹部)==38180(車部)
2979(厂部)==44029(食部)
3104(厶部)=?30340(舛部),同字だろう。
4431(口部)=?36291(豆部)
36291の注釈に「4431を見よ」とある。
4731(囗部)=?13767(日部)
5445(土部)==47530(鹵部)
5544(土部)==30089(臣部)
5700'(夂部)==47718(麥部),麦
5784(夕部)==14871(木部),梦
5812(夕部)==25153(禾部)
6274(女部)==28876(而部)
6450(女部)==19745(爻部)
6879(女部)==48326(鼎部)
6897(女部)=?42681(面部),多分同字。
7403(宀部)==28841(羽部)
7608(尢部)=?45108(骨部),同字だろう。
7705(尸部)==13886(日部),昼
7842(屮部)=?16728(毋部)
8571(山部)==48562(齊部)
8772(巾部)!= 8775(巾部)
8772は巾部1画。8775は巾部2画(市)
9063(巾部)=?30311(舌部)
『漢語大字典』は同字とする。
9548(广部)==48572(齊部)
10202(彳部)==39546(邑部)
13483(文部)==38667(辛部)
13813(日部)!=14287(曰部)
13825(日部)!=16017(欠部)
13825の注釈に「16017は別字」とある。16017にも注釈あり
13928(日部)!=14294(曰部)
13928は「チュウ」、14294が「書」
14330(月部)!=29237(肉部),後者は「にくづき」。
14339(月部)!=29286(肉部)
14342(月部)!=29305(肉部)
14343(月部)=?29291(肉部)
14344(月部)!=29321(肉部)
14350(月部)=?29420(肉部)
14351(月部)!=29373(肉部)
14353(月部)!=29360(肉部)
14358(月部)!=29462(肉部)
14362(月部)!=29440(肉部)
14365(月部)!=29531(肉部)
14365の注釈に「29531と同異の説がある」とある。
14369(月部)!=29555(肉部)
14375(月部)!=29576(肉部)
14379(月部)!=29639(肉部)
14386(月部)!=29726(肉部)
14387(月部)!=29740(肉部)
14390(月部)!=29761(肉部)
14394(月部)!=29821(肉部)
14394の注釈に「29821の譌字」とある
14400(月部)!=29859(肉部)
14401(月部)!=29874(肉部)
14403(月部)=?29927(肉部)
14409(月部)!=29984(肉部)
14411(月部)!=30029(肉部)
14496(木部)!=14681(木部)
14496は「コケラ」、14681は「柿:カキ」
14561(木部)=?19740(爻部)
解説は同一だが、親字の字形が異なる。デザイン差だろう
14570(木部)=?28229(网部)
典拠が『篇海』と『篇海類編』と異なる。
15662(木部)==43880(風部)
43880の注釈に「この字、15662と同字であるが今暫く両存する」とある。
16911(毛部)=?28301(网部)
典拠がそれぞれ、『捜神玉鏡』と『篇海』。『捜神玉鏡』は佚書のため、『篇海』の孫引きである。16911は『篇海』の「毛部」に同一の字形である。28301は『篇海』の「网部」に「あみがしら」を「内」に似た形に作る。
18344(水部)=?30533(舟部)
18827(水部)==46574(魚部)
19098(火部)==48040(黒部)
21351(玉部)=?42497(雨部)
21701(生部)==49328(補遺生部)
21951(田部)==36299(豆部)
22392(病部)=?42056(隹部)
22649(病部)==33923(虫部)
22838(皮部)=?29383(肉部)
23974(矢部)==38069(身部)
25381(禾部)==48869(龜部)
26893(米部)==40118(釆部)
28800(羽部)==46869(鳥部)
30307(舌部)==38638(辛部),辞
30535(舟部)!=46892(鳥部)
46892の注釈に「30535とは同形であるが、その義は異なる」とある。
32593(艸部)==33876(虫部)
33568(虫部)==46837(鳥部)
35497'(言部)=?35537(言部),誠
35537は7画、35497'は6画。字形差がほとんど見えない。新字源はこの2字間に字形差を付けてある。
36601(豸部)==43516(頁部)
37829(足部)=?46965(鳥部)
39212(しんにょう部)=?42410(雨部)
典拠が五音篇海と字彙補。
42081(隹部)=?49854(補遺隹部)

eKanjiのバグリスト

 上記の重複字のチェックをしていて、eKanjiのバグを見つけました。次の12文字の字形が誤っています。2427, 4946, 19072, 19824, 31397, 32177, 33124, 40401, 42475, 46892, 49451(大漢和の親字番号)。また、Unicode 51DFも「冫」のはずが「さんずい」の文字になっています。

このページで使用したフォントについて

 諸橋大漢和(修訂第1版)にある文字は、e漢字プロジェクトのフォントをPlay e漢字経由、または付属プログラム経由で取得して使用しました。

改訂履歴

2002年8月28日 修訂1版と2版の差に2文字追加、1文字修正。

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