「トショカン」という文字

はじめに

[国−玉+書] 「和製漢字の辞典」で、「[国−玉+書]」という文字を知りました。これ一文字で「図書館」を表す漢字です。新JIS漢字の公開審議の際に、この漢字が収録されないという話を聞いたので、典拠となる資料を集めてJCSに送付しました。参考までにこのページに集めた用例を上げておきます。

文字についての情報

●「[国−玉+書]」(「国かまえ」の中に「書」と書いて「図書館」を1字で表す)
 諸橋大漢和 4829', 補助漢字 23区09点, UCS 5715
 大正15年7月に、来日した中華人民共和国の少年団の通訳として同行した杜 定友(当時 南洋大学図書館主任)氏が、大阪市北区木幡町21番地(当時)の間宮不二雄氏宅に宿泊した際に発明した文字。「圖書館」の三文字40画を書くのが、手間がかかって不合理的だというので、提案されたものであるという。(文献2)

用例

 文献1)が文献2)を引いています。『[国−玉+書]研究』は、全巻を通して「図書館」は[国−玉+書]と表記しています。また1号しか出なかった雑誌『[国−玉+書]』も、あるようです(文献3):未入手です。慶応三田図書館と東大にあるようです。)
 大阪府立中之島図書館で中国の資料での用例を見つけました(文献4))。これも全面的に、この字を使っています。
 『[国−玉+書]研究』を出していた版本の本で、タイトルに[国−玉+書]が入った単行本も見つけましたので、神戸市立中央図書館でcopyしてきました(文献5),6))。また最近の本(1969年)でも、同一人物が作った別会社で領布した本(文献7))で、こちらはタイトルでだけですが使っている例を見つけました。
 また、間宮不二雄の論文集(文献8)9))のタイトル、本文にも使われています。この字の発明を助けた本人の本なのですが…彼は日本のNDCの開発を主導した、図書館界での有名人のようです。
 立正佼成会の図書館が出していた雑誌『佼成[国−玉+書]通信』もありました。No.10〜No.47でこのタイトルを使っているとのこと。本文でも一部で[国−玉+書]を使っています(文献10))。この雑誌は間宮不二雄との直接の関係はないでしょう。
 『広辞苑』の第1版に「図書館関係の人々の間で、「図書館」をあらわす文字として「[国−玉+書]」が用いられている。」とあります(文献11))。(ちなみに第2版以降には収録されていません。)
 また、『日本十進分類法』の第8版でも[国−玉+書]を使用しているのを見つけました(文献12))。

結論

 このように、現実に図書館に収蔵されていて、書誌データベースに載っている本のタイトルとして使用されている以上、新しいJIS漢字に収録する意味は十分にあると考えます。実際、これらの本を出庫してもらう際に、司書の方に「見つかりません;_;」などと言われることがたびたびでした。この字が書誌データベースで使えれば、そういうことも少なくなることが期待されます。JCSでは、「[国−玉+書]書館研究」と表記した用例をお持ちのようですが、これは単なる誤引用として処理してかまわないはずです。たった1つの誤引用ならば、下記にあげた複数の典拠があれば無視できるはず。

文献リスト

1)『位相文字の性格と実態』,笹原 宏之,1993,早稲田日本語研究,vol 1,40-52p
2)『「[国−玉+書]」ト言ウ文字ノ生立記』,間宮 不二雄,1934,[国−玉+書]研究,vol X,513-514p
3)『A Statement from Mr. Ding U Doo』,1926,杜定友,[国−玉+書],vol 1,3p
4)『廣州特別市立第三小學校 兒童[国−玉+書] 六週年記念特別刊』,呉謹心,廣州市惠福西路市立三小兒童[国−玉+書],中華民国19年5月10日出版
5)『[国−玉+書]ト成人教育』,中西喜代造 譯,間宮商店,昭和5年4月25日發行
6)『町村,學校[国−玉+書]經營ノ實際』,伊藤新一,間宮商店,昭和6年1月20日發行
7)『函館[国−玉+書]創立60年記念 岡田健藏先生論集』,岡田健藏,図書裡会,昭和44年2月11日発行
8)『[国−玉+書]とわが生涯・前期』,間宮不二雄,間宮不二雄,昭和44年6月26日発行
9)『[国−玉+書]とわが生涯・後期』,間宮不二雄,不二会,昭和46年6月26日発行
10)『佼成[国−玉+書]通信』,佼成図書館,No10〜No47,昭和39年〜昭和52年
11)『広辞苑』,新村出,岩波書店,昭和30年5月25日第1版第1刷・昭和42年4月1日,第1版第24刷発行
12)『日本十進分類法』,森清,寶塚文藝圖書舘,昭和24年3月1日第8版発行

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