本革装本のレッドロット対策

はじめに

 図書館などで古い本革装本を閲覧した際など、装丁の本革が痛んでいて、グズグズに崩れて褐色の粉が発生して、衣服や書類が汚れることがある。それがレッドロット(red rot)と呼ばれる現象。対策についてWebで詳しく書いてあるページが見つからなかったので、ここにまとめておく。

注意

[!]装丁そのものに資料的意味や価値のある本については、以下の処理について、素人が手をだすべきではない。プロに依頼し、適切な処置をしてもらうべきだろう。ただ、その手の本を個人で所有(占有)してよいかどうかは、また別の問題ではある。

レッドロット対策の処理

 文献1)を読むべし。(右図:痛んだ革装本)
 具体的には、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)の1%エチルアルコール溶液を塗布する1)。HPCについてはクルーセルのページに詳しい。HPCの入手方法などについても文献1)を参照のこと。なお、HPCの入手先にあげられている(有)キャットは文献1)の住所から移転しているので電話帳などを調べて問い合わせすべし。(有)キャットで対策マニュアルも提供していた。
 ヒドロキシプロピルセルロースは医薬品の添加物としても利用される物質なので、安全性などには問題ない。また、安定性にも問題ないはず。
 1gのヒドロキシプロピルセルロースを100mLの無水エチルアルコールで溶解して、ハケで塗布する。使用後のハケは水で洗ってきれいになる。粘度は低く扱いやすいはずだが、必要に応じてエチルアルコールで希釈すればよい。なお文献1)ではエチルアルコールのほかにメチルアルコール、イソプロピルアルコールも溶媒としてあげていたが、毒性などの点からアマチュアにはエチルアルコールが安心だと思われる。薬局で簡単に入手できるし。

 なお、この処理を施しても革装が崩壊するのを完全に防げるわけではなく、粉で手が汚れるのをだいぶ防げる程度である。

やってはいけないこと

 紀田 順一郎は『古書の整理と保存』3)で革装本に牛乳を塗布する方法を紹介しているが、絶対に避けるべき処置と考えられる。数10年後にどうなるか考えたことがあるのだろうか。

関連リンク

劣化した革装本の手当
国立国会図書館のページ。写真付きで、ごく簡単な解説がある。

参考文献

 Webcat書誌データへのリンクを参考として付記した。
1) 『シリーズ・本を残す(5) 「治す」から「防ぐ」へ : 西洋古刊本への保存手当て : ダブリン・トリニティ・カレッジ図書館における資料保存』,アンソニー・ケインズ,パウル・シーアン,キャサリン・スウィフト 著,海野雅央,金山智子,木部徹,相澤文子 訳,日本図書館協会,1993年5月31日 第1刷発行
2) 『別冊太陽 日本のこころ 102 古書遊覧 珍本・奇書・稀覯本・ト本』,米沢嘉博 構成,平凡社,1998年7月25日 発行
3) 『古書の整理と保存』,紀田順一郎,1998年,『別冊太陽 日本のこころ 102 古書遊覧 珍本・奇書・稀覯本・ト本』146〜147p所収

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