沖縄市外局番098の秘密

 ◎電話番号って?

 毎日何気なく使っている電話。この電話番号にこだわってみることにした。 電話番号はどのような決まりで決められているのだろ う。

 素朴な疑問ほど奥が深い。調べてみるとなかなか複雑な決まりがあることがわかる。

 電話番号には国際的な規約がある。『国際通信協会(ITUTS)』の勧告により、番号として使える桁数が国番号を含めて12桁である。日本の国番号は「81」であるため、国内の電話番号として許される桁数は10桁ということになるのである。

 現在国内の市外局番の一桁目は「0」で共通である。実はこの先頭の「0」はプレフィックスと呼ばれ、市外局番には含まない。これは市内通話区域外であることを区別するためだけにある番号である。つまり先頭の「0」を除いた残りの9桁が現在使われている番号なのである。市内局番と加入者番号のみでかけることのできる区域を「閉番号域」という。これは通常我々が「市内電話」と呼んでいるものである。したがってこの閉番号域の電話には、必ず異なった番号がついていることになる。このうち加入者番号はどこの地域でも4桁である。この制限から、市外局番+市内局番の桁数は5桁ということになる。まとめると次のようになる。

0−市外局番−市内局番−加入者番号

 閉番号域内の加入者が多い大都市では市外局番を短く、市内局番を長くして加入者の収容能力を上げる必要が出てくる。逆に閉番号域内の加入者が少ない地域ほど市外局番を長く、市内局番を短くして市外局番を数多く確保できるようにしている。これは広範囲な地域・市町村にに及ぶためである。

◎素朴な疑問

 市外局番を全国規模で見てみる。

 市外局番(プレフィックスの「0」を除く)の一桁目に注目してみる。(一九九三年二月現在)

 1の地域……北海道、青森、秋田、岩手

 2の地域……宮城、山形、福島、新潟、長野、群馬、栃

       木、茨城の北半分

 3の地域……東京23区

 4の地域……東京、茨城の南半分、埼玉、千葉、神奈川、

       静岡の東半分

 5の地域……山梨、静岡の西半分、愛知、岐阜、三重

 6の地域……大阪市、尼崎市

 7の地域……富山、石川、福井、滋賀、奈良、京都、和

       歌山、大阪、兵庫

 8の地域……岡山、鳥取、島根、広島、山口、徳島、高

       知、愛媛、香川

 9の地域……福岡、佐賀、長崎、大分、熊本、宮崎、鹿

       児島、沖縄

 予想通り北から順に数字が大きくなっている。郵便番号の拠点は東京永田町の「一〇〇」であった。しかし市外局番の拠点は北海道、それも札幌「11」であることは間違いない。

 では市外局番の最後の番号はいくつだろうか。「11」が始めの番号であるなら「99」が最後の番号である。「99」の該当地は当然沖縄で・・・ないのである!

 「99」は鹿児島県に該当し、沖縄県は「98」なのである。

一つ目の謎】  なぜ沖縄が最後の番号「99」ではなく、h98」な  のだろう。

◎「98」の謎

 「98」地域は、宮崎県と沖縄県の両県にまたがって該当している。  同じ市外局番が二つの県にまたがっていること自体は別に不思議なことではない。例えば、「55」は山梨県と静岡県にまたがっており、石川県と富山県は「76」である。

 もう少し詳しく市外局番の3桁目まで注目してみることにする。

 鹿児島県の市外局番は

 992……鹿児島市

 993……指宿市、加世田市、枕崎市

 994……鹿屋市、垂水市

 995……大口市、国分市

 996……阿久根市、出水市、串木野市、川内市

 997……名瀬市、西之表市 である。

 それに対し「98」地域は

 982……延岡市、日向市

 983……西都市

 984……えびの市、小林市

 985……宮崎市、現王島

 986……都城市

 987……串間市、日南市 までが宮崎県、

 98 ……石川市、糸満市、浦添市、沖縄市、宜野湾市、

      具志川市、那覇市

 980……名護市、石垣市、平良市 の二つが沖縄県である。 鹿児島県・宮崎県とも同じ「9*2」〜「9*7」の市外局番を使っている。このことからさらに謎が深まる。

j二つ目の謎】 なぜ沖縄を「99」と「990」にしなかったのだろ う。

◎市外局番から沖縄戦が見えた

 これら二つの謎を解くには市外局番を決めた時期にまで、時間をさかのぼる必要がある。

 最初の交換機は手動式のものであった。一八九〇年のことである。この年に導入された東京−横浜感の磁石式手動交換機が第一号である。通話の申し込みを受けたオペレーターが手動で交換機を切り替えていたのである。

 現在のようにダイヤルすればすぐにつながる「全国自動即時通話網」が完成したのはそんなに昔のことではない。一九六二年である。この年から今のような全国自動即時通話網が使われるようになった。ということは当然のことながら、この前までに全国各地の市外局番の割り振りが終わっていることになる。

 一九六二(昭和三七)年といえば、沖縄は当時アメリカの占領地であった。復帰運動は盛んであった。しかしその見通しが立たない時期に当たるため、実質上日本の最南端の県は鹿児島であった。そのため最後の市外局番である「99」は鹿児島に割り振られたのである。これで一つ目の謎が解けた。

 次に二つ目の謎である。

 これには鹿児島県・宮崎県・沖縄県の人口が密接に関わってくる。

 前述の通り、電話番号は9桁(プレフィックスの「0」を除く)の数字の組み合わせである。加入者が多くなりすぎると番号が足りなくなる場合がないとも限らない。したがってある番号が込み合い、ある番号は全く使用者が少ないというアンバランスな状態は避けなければならない。そのため、高度な先の見通しが必要になる。

 たとえば現在「6」の1桁だけの市外局番を使用し、全体で8桁の電話番号となっている大阪市と尼崎市は、将来の加入者増を見越して1桁余らせてあるわけである。

 沖縄本土復帰の七年前である一九六五(昭和四〇)年の国勢調査によると、

 鹿児島県…一八五万四千人

 宮崎県……一〇八万一千人

 沖縄県……九三万四千人 である。

 最後の番号「99」をそのまま沖縄に割り振った場合、約二八〇万人の人口となる。これでは将来番号がパンクする恐れがある。そのためできるだけ沖縄に近い県で、人口の少ない県とミックスさせる必要がでてくる。それが宮崎県だったわけである。

 ちなみにそのほかの近隣県のその当時の人口は次の通りである。

 大分県……一一八万七千人

 熊本県……一七七万一千人

やはり宮崎県と組み合わせるのがベストだったわけである。

 一九四五年〜一九七二年までアメリカ統治下にあった沖縄。この市外局番「98」から当時の沖縄、そして日本の現実の一面が見えてくるのである。