◎献血
おもしろい話を聞いた。それは献血についてである。
中国では献血は大変体に悪いものだと信じられている。一度献血をすると体に大変ダメージを受け、2ヶ月は体が元に戻らない。その間はできるだけ休まなければならないと信じられている。あんなもの、好き好んでやる人がたくさんいるなんて信じられないというのだ。
N先生の家庭教師の話によると、「中国人と日本人では体のつくりが違う」のだそうだ。「日本人はいつもいい物を食べている。中国人はいい物を食べていない。それで体のつくりが違っている。この間、日本人留学生チームとサッカーをした。中国人チームが負けたのもそのせいだ」ということらしい。
ところで中国では売血を行っている。一度の献血(200t)で300元(4500円)もらえる。これは北京の平均月収の4割弱である。しかしそれでも献血をしたがる人はいないのである。
そこで大学や職場で強制的に何人かを割り当て、献血させている。おもしろいことに献血をする場合、前の日の夜から食事をとってはいけないことになっている。強制的に割りあたってしまった人でも「つい、うっかり」いろいろと食べてしまい、献血ができなくなる場合もある。多くの場合、献血逃れの手である。そこまでしてでも献血はしたくないのである。
社会人の場合、なぜか会社が100元取ってしまい、本人には200元が手渡される。しかし、いいこともある。献血をした本人は何と一ヵ月の休暇をもらえるのである。もちろん給料はそのまま支給される。さらに社長が御見舞の品と金一封を持って家に来るという。一ヵ月の休みが終わって出社したとき、その人はみんなから羨望の眼差しで見つめられ、英雄になっているのだそうだ。
一方、怪我などでもし輸血が必要になった場合、患者は1600元(=24000円)で血液を買うのだそうだ。
この話を一緒に聞いていた校長先生に聞いてみた。
私 「日本人学校でも一ヵ月休みをもらえることにしましょう」
校長「ええよ。でも夏休みな」
◎天天漁港
あんまり外食のことを書くものだから、「工藤家では外食しかしていないのでは?」という疑問を持つ方がおられるかもしれない。基本的に外食は土、日の夕食だけである。街に行って、食事をして帰ってくるというパターンが多い。いろいろな店に入り、そのたびにどきどきしたり、発見したりというのが楽しくてしかたがないのである。
さて。
「刺身が食べられる大連」。大連派遣が決まったときにインターネットで情報を集めた話は前に書いた。その際に「刺身が食べられる大連」という情報を知り、ほっとしたのを覚えている。
来てみて驚いた。
刺身どころではない。ラーメン屋、お好み焼屋、居酒屋、寿司屋、回転寿司まである。蕎麦を出す店もたくさんあるが蕎麦の専門店はまだない。しかしこれも時間の問題かもしれない。
これらはいずれも日本人向けの店であり、値段も「日本よりはちょっと安いかな」というぐらいの設定になっている。
ところがである。中国人向けの店にもしっかりと「生で食べられる」ことを売り物にしている店がいくつもある。その多くはウィンドウに「生鮮猛食」という、一見「こっちが生で食べられてしまうのかしらん」という気分になる文字を掲げている。
そんな店の一つに「天天漁港(ティエン ティエン ユゥー ガン)」がある。この店は大連市内にいくつものチェーン店を出しており、結構繁盛している。
北海シマ海老のような海老を生きたまま出してくる。テーブルの上を跳ね回って、なかなかおもしろい。しかしその首をもぎりとるのは、ちょっと勇気がいる。首を取り、殻を剥いて、何とワサビ醤油で食べる。ここは決して日本人向けの店ではないのである。中国人がごく普通に入る店なのである。やはり生の海老を一番おいしく食べられるのはワサビ醤油ということになるのだろう。世界にその名をとどろかす中華料理の国がこういう選択をするのである。何となくうれしかった。
ここの店のもう一つの売り物がウニである。北海道でもあまり見ないような大きなウニを殻ごと出してくる。日本のウニは温州みかんサイズであるが、大連のそれはネーブルオレンジぐらいの大きさがある。スプーンですくって食べるのだが、非常においしい。感動してしまった。
◎ネムノキがきれい
7月に入り、見たことがないとてもきれいな花が咲き始めた。これが「ネムノキ」の花なのである。北海道では見たことがないが、愛知県にはたくさんあるらしい。香りも非常に良い。アカシアもあちこちに生えているが、ネムノキもとても多い。アカシアよりもネムノキの方が絶対にきれいである。
しかし、もしかすると中国人にはそうは映らないのかもしれない。そう思った私は家庭教師の学生に(日本語で!)聞いてみた。
私 「この花はアカシアよりもきれいだよね」
学生「アカシアは普通の花。この花はとてもきれい」
私 「アカシアの大連じゃなくて、ネムノキの大連にすればいいのに」
学生「私もそう思います」
やっぱり中国人もそう思っていたのである。
前に中国語の学習の時に花の話題になったことがあった。
学生「先生の一番好きな花はなんですか」
私 「きっと知らないと思うけど、福寿草という花。」
学生「えぇーーー??? 桜じゃない?」
私 「桜も好きだけど、福寿草の方が好き。スズランも好きだね」
学生「えぇーーー??? 日本人は桜が一番好きなんじゃないですか?」
まあ、それもステレオタイプの見方ではある。
◎習い事
大連の子どもも習い事をしている。といってもその種類、目的は日本とずいぶん違う。
子どもの習い事は、コンピューター、キーボード、踊り、伝統的な楽器、歌など多岐に渡っている。土曜日や日曜日にそれらを一手に引き受ける「少年宮」「青年宮」という建物もある。ただし学習塾はない。
この理由を学校の通訳に聞くと「学校で十分に勉強しているから」ということだった。それはそうだ。毎日朝6時30分から夕方5時まで勉強するのである。これ以上する必要はないだろう。と思ったら上には上がいるもので、5時まで勉強したあと、家で10時まで家庭教師をつけている家もたくさんあるとか。これも「目指せ北京大学!」ということなのである。
◎JETROの資料 1996年の9都市住民収入一覧表
広州 9379元
上海 7721元
北京 6885元
天津 5525元
西安 4712元
武漢 4703元
重慶 4642元
瀋陽 4006元
哈尓濱 3745元
残念ながら大連は出ていなかった。一番高い広州で一月約782元(=11730円)。
しかしである。街で売っている服は安いところでもジーンズが150元、Tシャツが50元、スーツが500元ほどする。高い店では1000元を超える物を売っているところもたくさんある。
どちらが実状を反映しているのだろう?
◎中国共産党に入るのは大変
「大地の子」を読んでいると、陸一心が中国共産党員になるくだりがある。共産党員になるように勧められるのだが、日本人であるということが入党不許可の原因になるかもしれないと悩むという内容である。この話の中では、陸一心が入党申請をし、面接と論文審査を受け、さらに党指名の観察人二人が半年間の観察をし、観察人二人がその観察を上申をし、晴れて共産党員になることができるのである。共産党員になったあかつきに、一心の家族はお祝いをする。共産党員になるということは、それほど晴れがましい名誉なことであるらしい。(関係ないが、この間「大連電視台(大連テレビ)」を見ていたら、一心の奥さん役(月梅)をやった女優がドラマにでていた。「おいおい、一心はどうしたんだよ」と言いたくなったが、一心もサッポロビールのコマーシャルをやっているのでおあいこかもしれない)。
これは昔の話かと思っていたら、現在でもそうなのである。
入党するためにはかなり厳しい選考を経なければならない。入党するための勉強も必要である。主に党の歴史とその思想について、何を聞かれても答えられるようにしておく必要があるらしい。その選考過程は「大地の子」に書かれたことと同じである。
頭脳明晰、品行方正を証明されて初めて中国共産党員になれるのである。それほどまでして入るとどんなメリットがあるのかというと、職場で高い地位につくことができるのである。共稼ぎが当たり前の中国では、男女を問わず働いているため、このような昇進のチャンスには真剣になる。
ある中国人(共産党員ではない)に「共産党に入りたい?」と聞いたところ「自分は入りたいと思わない。魅力を感じる人も確かにいるけれど、自分は感じない」と言っていた。現在の中国では、これぐらい自分の意見が言えるということでもある。でも日本共産党になら誰でも入れるのに……。(私は日本・中国を問わず、共産党とは何の関係もありません。念のため。)
◎秀月に来た助っ人サッカー選手
大連はサッカー熱が大変高い街である。街のど真ん中にサッカーボールを形取ったどでかいオブジェを置いているぐらいの熱の入れようである。中国にはちょうどJリーグのようなプロサッカーリーグもあり、大連チーム「大連万達(ダーリエン ワンダー)」は何度も優勝しており、今季も絶好調で首位を独走している。少し我がジャイアンツに見習わせたいぐらいである。
そんなわけで中国ナショナルチームの中にも大連の選手が半分ほど入っているとか。少し前の全日本女子バレーチームは、日立なのか全日本なのかわからないときがあったが、ちょうどそんな感じである。
先日、その大連サッカーチームがスウェーデンから2人の助っ人選手を呼んだ。この2人が秀月酒店に住んでいるのである。私の家の裏である。秀月酒店の服務員たちはそんな彼らを羨望の眼差しで見つめている。ある日、家に来ていた家庭教師の学生は頬を紅潮させながら「私、今日はこっちを通って帰ります」とか言いながら、わざわざその助っ人選手の横を通って帰っていった。
しかしこの助っ人、なんだかおもしろい。家の周りをユニフォームを着てうろうろしている。決して練習をしているわけではない。ユニフォーム姿で子どもと遊んだりしている。「俺は大連の助っ人選手なんだ!」とアピールしているとしか思えない。たとえば巨人のガルベスが、家の周りをジャイアンツのユニフォームで歩かないだろう。彼はお茶目なスウェーデン人なのか単なる自意識過剰なのかよくわからない。まさかスウェーデンの国民性ということはないだろうと思う。