【大連からの風 ナンバー32 1998.9.3】

◎大連2度目の夏休み

 今回の夏休みは、前半はあこがれのシルクロード旅行、後半は一時帰国という二本立だった。

*シルクロード旅行
 今回訪れたのは蘭州、敦煌、吐魯番(トルファン)、烏魯木斉(ウルムチ)、喀什(カシュガル)、タシコルガンの6ヶ所だった。
 その昔、NHKで放送した「シルクロード」のイメージが頭の中にあった私は、今回の旅行をとても楽しみにしていた。シルクロードにあこがれを持っている方も多いと思うので、最初にはっきり申し上げておく。現実のシルクロードには石坂浩二の語りも似合わなければ、喜太郎のシンセサイザーも似合わない。蘭州、敦煌は思い切り拝金主義だし、新彊ウイグル自治区に位置する吐魯番、烏魯木斉、喀什は中国からの独立運動が盛んな安全とはいえない土地である。
 新彊ウイグル自治区は漢民族の数が少なく、ウイグル族、タジク族、キルギス族などの少数民族が多く住んでいる土地である。喀什では、8月にウイグル族が漢民族の警察官を8名殺害するという事件が起っている。タシコルガンだけは平和な空気が流れていたように感じた。ここはパミール高原に位置するパキスタン、アフガニスタンとの国境の高度3400mの田舎町である。田舎町だけあって、ホテルの部屋にはテレビ、電話、お風呂はもちろん、カギもなかった。
 安全ではないとはいえ、やはり新彊ウイグル自治区はおもしろかった。漢民族が少なく、少数民族が大多数を占めるという今まで見慣れた中国ではない空気が目新しかったからだ。吐魯番や烏魯木斉では少数の漢民族と多数の少数民族(多くはウイグル族)が一緒に生活している。しかし決して心を許し合っているわけではない。漢民族はウイグル族に対して良い感情を持っていないように見受けられた。実際、生活する場所、住む場所が完全に分れている。「お互いに理解し合って生活すればいいだろうに」などというのは単なるお題目に過ぎないということがよくわかる。
 ガイドの話によると、漢民族とウイグル族の結婚はまずあり得ないという。生まれながらに言葉も学校も完全に分れているのである。唯一大学だけは異なる民族が一緒に机を並べる機会があるらしい。しかしその時にはお互いの民族に対する考えがほぼ固定されており、交際には至らないとか。
 中国には時計が一つしかない。もちろん家にある時計ではなく、標準時間の話である。これだけ東西に広い国で北京時間一つしか採用していないのだから、新彊ウイグル自治区ほど西に来るとおもしろいことが起ってくる。夏の日の入りは9時すぎ。10時すぎにやっと暗くなる。
 たとえば吐魯番の学校の時間は以下の通りである。
 午前10時……始業。
 午後 1時……午前の授業が終わり、一時帰宅。
 午後 5時……再度登校、午後の授業開始。
 午後 8時……授業終わり、放課。
 小さな子どもが夜10時すぎに外を歩いている。彼らの感覚では日没直後の夕方なのだから、当たり前といえば当たり前である。
 一般企業もこの時間で動いているという。勤務時間6時間! これはいいかもしれない。しかし念のため……、夏は最高49度、冬はマイナス30度の土地である。それでも良ければどうぞ。
 12時間の夜行列車、7時間ぶっ通しの砂漠ドライブなど、シルクロード旅行はサバイバルである。私も妻子を連れていかなかった。小さな子連れではおそらく無理だろう。

*一時帰国
 1年4カ月ぶりに帰った日本で感じたこと。
1 日本人は背が低い。
  大連人を見慣れてしまったせいか、日本人の身長の低さがとても印象的だった。
2 どこのトイレに入ってもきれい。
  中国のトイレは……。
3 水道の水が飲める!
  本当はまずいであろう東京のホテルの水を喜んでごくごく飲んだ私と息子。
4 北海道はそれほど不景気なの?
  拓銀、トマムリゾート、デリーズの倒産など、暗いニュースばかり聞いていた私であったが、今回それほどは感じなかった。デパートには人がたくさん出ており、ススキノにもお客が一杯だった。
5 札幌は寒い、東京は暑い。
  札幌生まれの私は大通公園が大好きだ。特に大通公園がビアガーデンになる夏が最も好きだ。しかし今回あまりの冷夏のため、外でビールを飲む気にはなれなかった。毎日の最高気温が20度ぐらいであった。しかし東京は暑い。それも思い切りいやな暑さである。どうしてこんなに住みずらいところが日本の首都なのか、素朴な疑問を持ってしまう。
6 東京ドームはやっぱりいい。
 今回も東京ドームの巨人戦を見た。8月16日の巨人−阪神戦である。村田の逆転スリーラン、松井、清原、石井のヒット、三沢・西山のリレーで10−2で大勝の実に気持ちのいい試合だった。あんまりうれしくて帰りに背中に「33 NAGASIMA」とプリンとされた長島Tシャツを買った。
7 中途半端なファッション
 キャミソールやジャージが流行だと聞いていたのだが、見てみるとなんだかパッとしない。ファッションの街大連のように、シースルーワンピースで見せるときはとことん見せるという潔さが必要だと思った。
8 タラバガニはやっぱりおいしい
 タラバガニをたくさん食べた。もちろん毛ガニもたくさん食べた。毛ガニは大連でも食べられるので、タラバガニを食べたことがうれしかった。タラバガニだけでお腹がいっぱいになるなんて、なんて贅沢なんだろう!
9 テレビで中国語を結構聞く
 烏龍茶のコマーシャルはもちろんだが、ニュースステーションで台湾の歌手、陳恵妹の特集をしていたり、ニュースで長江の洪水を取り上げていたりで、テレビで中国語をかなり聞いた。そしてだいたいの意味が日本語字幕を見なくても分かるのがうれしかった。ところで今、日本でサントリー烏龍茶のCMソングを集めたCDが人気になっている。私も買った。
10 浦島太郎になっていなかった
 1年4カ月も日本に帰っていなければいろいろと知らないことがたくさんあるものだと覚悟していた。しかしそんなことはなかった。相変わらず「笑っていいとも」はやっているし、私の好きな「世界不思議発見」「ブロードキャスター」は出演者まで全く同じだった。

◎洪水 ニュースの内容

 夜、暇があるときには7時から中央電視台の「新聞(シンウェン=ニュース)」を見るようにしている。このニュースでは事件、事故の報道がめったにない。「今日、江沢民が誰々に会った」というニュースが毎日流される。その他に「高速道路が完成」とか「農作物の成育状況が例年になくいい」などという、一言で括ってしまえばいいニュースばかりである。ここら辺はかなり徹底している。
 日本に行った中国人留学生が日本の事件、事故ばかりのニュースを見て「日本はなんてひどい国なんだ」と思うとか。さすがに「中国では事件、事故が全くない」と信じている中国人はいないが、それでも「かなり少ない」と思いこんでいる人はいるだろうと思う。
 最近6時台や夜中に「悪いニュース」を特集して放送する番組ができた。たとえば殺人、大きな交通事故、汚職などである。それらの事件、事故で逮捕された本人に刑務所内でインタビューし、それをそのまま放送するのだから、こちらのやり方も徹底している。人権云々などという話どころではない。
 最近のニュースは洪水一色である。長江と哈尓濱(ハルビン)の洪水のニュースで30分間のうちの15分を使っている。江沢民が洪水被災地を訪れ激励している画像と、解放軍が土嚢を積み、全速力で走っている画像が繰り返し放送されている。香港の鳳凰衛視では、洪水被災者救済キャンペーンソングを毎日放送している。大連の街中のいたるところに募金箱がおかれ、国を挙げて洪水対策に取り組んでいるように見える。
 ところで先日の大連日報には、各企業が募金高をデカデカと書いたプラカードを持って嬉々と記念撮影に応じている写真が掲載されていた。プラカードに書かれている金額の中には「800万元(=1億4400万円)」などという途方もない数字も見える。あるところにはあるということなのか、それとも「白髪三千丈」式なのかは私にはわからない。

◎タクシーの中での会話

 手を挙げてタクシーを止める。
私   「付家庄」
運転手 「(無言でうなずく)」
私   「付家庄的S酒店」
運転手 「S酒店? (ちょっと考えてうなずく)」
私   「[イ尓]去過[口馬]?」
 普通タクシーに乗り込んだときに、こういう会話(?)を交わす。たまにやたらと話好きな運転手に出会うことがある。
 「[口那]国人? (どこの国の人?)」と聞かれれば胸を張って「日本人!」と答える。向こうが「[イ尓]是日本人[口馬]? (あなたは日本人ですか?)」と当ててくる時もある。私は妻とは全く違い、ほとんどの場合「日本人」といわれる。ただ、たまに「[イ尓]是韓国人[口馬]? (あなたは韓国人ですか?)」といわれることがある。こんな時、「対(そう)」と言っておいても別にいいのだろうとは思いながら、瞬間的に「不是。日本人(違うよ。日本人だよ)」と言ってしまう。
 それほど愛国心があるわけでもなく、今まで日本人であることを意識することはあまりなかった私だが、別の国の人に間違えられるというのはやはり面白くないのである。これを愛国心と呼ぶのかどうかはわからないのだが。

◎ヘビを食べた

 大連のど真ん中、中山広場のすぐ近くに「阿福(アフー)」という下手物料理の店がある。下手物といってしまうのは日本人の感覚で、中国人にはそれほど奇異には見えていないのかもしれない。店の前に各種ヘビ、タヌキ、クジャクを入れたかごを置いてあり、それぞれに値段がついている。もちろんペットにするわけではなく、全部食べてしまうのである。 先日とうとうこの店に行った。ヘビを食べたのである。
 ヘビといってもそこらのヘビではない。中国語では「眼鏡蛇(イエンジンシャー)」と表現する正真正銘の日本名「コブラ」である。コブラのスープ、コブラとカエルの炒め物、コブラの皮の炒め物、コブラの肝、コブラの生き血という豪華5品。しかし、はっきりいっておいしいものではない。これで値段が結構高い。お客は満員で外で待っている人もいるのだからわからないものである。私はたぶんもう行かないだろうと思う。
 私は中国に来て、犬、サソリ、ウサギ、鳩も食べた。このうちおいしかったのは、ウサギと鳩である。ま、話の種ってとこですな。

◎大連日本人学校ホームページ完成

 大連日本人学校はとうとう園児・児童・生徒数が100名を越え、102名になった。そんななか、二年来の念願だった大連日本人学校のホームページが完成した。内容は、
・大連日本人学校入学案内
・大連で生活するために
・大連写真館
・大連日本人学校の一年
・大連リンク集である。
 このうち「大連で生活するために」は、今までにないくらい細かいことも書いてある。旅行者はもちろん、生活する人には必読の文章になっている(と思う)。
 是非一度ごらんいただきたい。アドレスは、
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad/3674
 まもなくYahooなどでも検索可能になるはずである。

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