落ちものゲームの王道

落ちものゲームとは、上から降ってくるブロック(駒の集合体)を 回転や移動させて盤面に積み上げるアクションパズルゲームの総称です。 この種のゲームでは、盤面に特定の条件が整うと 盤面上の駒が消えることによって、ゲームが成立します。 面白い落ちものゲームには王道が存在します。 ここではそれを紐解くことにしましょう。

■ まとめて消すことに高得点を与える

消すという行為は、人間に生理的な快感を与えます。 特に、消せるものをわざと消さずに残しておいて、後でまとめて消すと、 人間は非常な快感を覚えます(インベーダーゲームを思い出してください)。 盤面に駒を積み上げて窮屈にすることによって(被)攻撃欲を満たし、 まとめて消して盤面の解放に成功することで(被)支配欲を満たします。 落ちものゲームは、盤面が駒で積み上がることへの恐怖が 基本的な情動作用となっているため、 この恐怖をコントロールするようなプレイを提供することが必要となります。 つまり、まとめて消すことに対して最も高い得点を与えることが、 面白い落ちものゲームを作るための王道となります。 以下、全てはこの原則に基づいて語られます。

■ 読みを育てるために、素早さには得点を与えない

もちろんこの逆で、積み上げないことに対して高得点を与えることが 王道となるジャンルも存在します。 行消しテトリスはそのジャンルに含まれるゲームの例です。 これは、ひたすら行数を稼ぐテトリスの遊び方です。 おそらくテトリスの原作者はこの遊び方だったのでしょう。 しかしこのジャンルのゲームは、 素早く消すことを維持することが目標となるので、 そのために必要な知識を暗記する能力と、 その知識を使いつづける精神力を競うものになってしまいます。 暗記力と精神力を数値化するために、 素早さに対して多くの得点が与えられるようになります。 こうしてゲームから「読み」の楽しみが消えます。 読みの存在しないゲームは、奥が深くないように見えるため、 飽きが早いのです。まとめると、飽きの来ないパズルゲームを作るには、 素早さに過大な得点を与えないことが王道となります。

■ 逃げを許すが、逃げには得点を与えない

さて、連鎖中にプレイヤーがブロックを操作することができて、 それによって連鎖を広げることができるゲームが存在します。 このルールによって楽をして盤面を解放すると、 逃避欲が満たされます。逃避欲は、支配欲の一種です。

逃避欲は、複数ステージ構成にすることによって、 どんなゲームでも提供することができます。 ステージを通常より速く終えることができれば、 いくらかの逃避欲が満たされるからです。 しかしどのステージも似通っていると、逃げたいという 気持ちも起こらなくなり、飽きてしまいます。

逃げることは攻撃の正反対なので、 逃げると(被)攻撃欲が減少してしまいます。 したがって、逃げに得点を与えることは、 盤面に積み上げないことを奨励することになってしまいます。 言い換えれば、逃げに得点を与えないことが王道となります。

■ 一気に逃げることに対しては得点を与える

簡単に逃げられるのにわざと逃げずにいて盤面を窮地に追い込むことは、 (被)攻撃欲を満たします。 そして一気に逃げることは(被)支配欲を満たします。 つまり、原則に従えば、一気に逃げた場合のみに対して 得点を与えることが王道となります。

こうして、盤面を一気に消す行動と、 追い込まれてから逃げるために必要な行動とが 異なっていれば二種類の快感を得られることになります。 ところが多くの落ちものゲームは、これらが同じ行動となっているため、 一種類の快感しか得られません。

■ 確率的に得られる超高得点と、危険回避のための安全策の独立

普段はどれだけ努力しても取れないような超高得点が、 運がよければこれから取れるかも知れないという場面があるとします。 このとき、成功する確率が半々ならば最も緊張します。 ここで失敗を避けるために、読みや定石によっていつでも安全策で 逃げることができれば、安心してゲームができます (麻雀を思い出してください)。 このように、超高得点を取る動作と、逃げる動作が独立していることが 王道となります。

連鎖を組むか、逃げるか。このどちらを取るかの瞬時の判断こそ 落ちものゲームで最も面白いところです。 しかもその選択によって成功時に得られる快感の種類が変わることが、 落ちものゲームの醍醐味なのだと言い切ることができます。 しかし、繰り返しになりますが、 この醍醐味を味わえるゲームは滅多にありません。

■ 読みを発達させるために、一時停止は有効にせよ

読みがいつでもできるように、一時停止の機能が標準的に 装備されていることが必要です。 理想的には一時停止は、ブロックが高速落下するように なってからは使いにくいように、少し操作しにくい方がよいです。

■ チャンスを逃すと窮地に立つようにせよ

確率的に降ってくる駒は、ほとんどの場合何らかのチャンスを持っています。 それを技術不足のために逃すと、 盤面が窮地に立たされることが理想的です。 これによって、読みを育てることができます。

■ 読みが定石に昇華するために必要な盤面の安定

読みによって確認された一連のアクションは、定石となります。 その定石を使うと、さらに高度な読みが可能になります。 この高度な循環は、盤面が安定してこそ存在し得ます。 盤面の安定は、集中して高度な連鎖を組むための必須条件です。 そのため、落下点の下にある駒と同じ駒を盤面から全て消してしまう 「爆弾アイテム」や、落下した列にある駒を全て消してしまう 「10トン アイテム」は、出現しないことが王道となります。

対戦で相手の盤面に降らせる「おじゃま駒」が存在すると、 その対策のために連鎖の形が制限されてしまいます。 例えば対戦ぷよぷよは、「相殺」ができるように連鎖の形が 制限された結果、挑戦的な連鎖を組むことができません。 連鎖を制限することは、原則に反します。

■ 対戦やタイムトライアルは、二次的な楽しみに留めよ

以上をまとめると、素早さを競うタイムトライアル、 そして連鎖を組むことに対する妨害を回避する技術を競う対戦は、 定石の発表会に過ぎないことになります。 つまり、そこには再び「読み」が存在しないので、 飽きやすいわけです。 したがって落ちものゲームで最も面白いのは、 読みによって定石を育てるプロセスであって、 これをゲームの一次的な楽しみとすることが王道となるわけです。


Last Updated: 2000.9.30

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