女郎蜘蛛 ♀

Nephila clavata


 女郎蜘蛛に近づいてよく見ると、ハッとするような美しいデザインが施されている。
 脚は黒漆の細い棒のようで、関節部には金箔が巻かれているように見える。
 それにしても雌のこの腹部の妖しげな色合いは、いったい誰が何のために彩ったのか ・ ・  この色気に見せられて獲物が近づくとは思えないし、雄クモ君は雌の色彩には無関係に交尾のチャンスをねらっているであろうしネ 


 上左は腹側、右は背中側。それぞれに別個のデザインになっている。背中の絵柄はともかく、腹側や側面の模様にもここまで凝るのは透明なネットを利用して空中に浮かんでいるために、よそ目を意識しているのだろう。


 肢の付け根はシッカリと補強されている。多分これは筋肉組織になっており、この僅かな部分で長い肢に掛かる力を受け止め、またその動作をコントロールしているのであろう。
 右上のこのクモ君は体型のバランスが悪いと思ってよく見たら、肢が一本欠けて7本しかない。ここまで育って来るまでの闘争の記録であろうか?


 突然ネットがパッと揺れ、蜘蛛が走り出した。その先に目を転じると獲物が掛かったところで、彼女はすぐにそれを押さえ込み、クルクルと回転させながら糸を巻き付けている。
 肩が張っているところからしてハリカメムシのようである。この数十秒後にはさすがのハリカメムシもその姿形を確認できないほどの糸玉にされてしまった。
 これで彼女の今日の食事は十分であろう ・ ・ ・


 【追記】(03 Dec. '98)
 このページをご覧になった方から、女郎蜘蛛はどのような形態にて越冬する のかという質問があり、調べた結果を記しておきます。

 その繁殖と越年に関する箇所要約すると下記の通り。
@埼玉県の著者の自宅辺りでは11月に産卵する。
A卵は網巣の近くの木の葉の裏側に巣と同じ糸で卵床を作り、その上に 卵塊を産み付け、その木の葉が地面に落ちないように糸で枝に固定する。
B卵は一粒づつ産み付けるのではなく、白いクリーム状のものの中に赤い 卵が混じった塊を胸の辺りから一気に押し出すような産卵が行われる。
C卵塊には400から1300ほどの卵を含み、その数は産卵する親蜘蛛の 体の大きさ次第であり、それは親蜘蛛が得た餌の量次第である。
D母親は数日間近くに居て卵塊を保護し、やがて居なくなるが、近くで死骸と して発見できる。
E白いクリームは乾燥して冬中卵を保全する一種の巣となる。
F5月頃、卵塊の中で無数の子蜘蛛は孵化し、数日間を過ごしてから1回 脱皮して卵塊の殻を破って散開する。

[出典]
  「庭にきた虫 いのちのドラマを親子でみる」
            佐藤信治  農山漁村文化協会 1997年 \1950

 何と著者は機械設計技術者で、マイホームの庭で息子と一緒に虫を 観察し、写真を写し、ドラマチックな解説を載せている。要するに「虫好き」 のアマチュア研究者の手になるもので、女郎蜘蛛に関しては『わがクモ屋敷 の女王』のサブタイトルで始まる章にまとめられている。
文体は解り易く、感動的な観察ストーリィになっている。

  観て下さってありがとうございます。


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