水族館に関する雑感

 いくつかの水族館を見て回って、水族館に関していろいろ思うところがありますので、ここにまとめておこうかと思います。 もちろんこの考え方は私個人のもので、一般的な話ではありませんし、こうしなければならないと言うものでもありません。

 ここに書かれていることに、水族館関係者が何か感じるものがあればと思い、書きました。

水槽について

水槽ガラス面について

 まず、水槽のガラスは曇っていないことが大切です。 ガラスが曇っていると、いくら中の生物の飼育状態が良くても見ることが出来ません。 また、低温水槽などではガラスに水滴が付かないような設備にしてもらいたいと思います。 特に特設展示で低温水槽などを設置するときは注意してください。 どうしても水滴が付いてしまう場合は、水槽ごとにタオルなどを置いてガラスを拭きながらでも快適に見ることが出来るような配慮が必要です。

飼育生物について

 水槽の大きさ、生物の大きさなどによって飼育適正数が変わってきますので一概には言えませんが、基本的に少ない方が状態が良いことが多いです。 ただし、少なければ少ない程良いというものではありません。 ある程度数が揃っていないと、個体ごとに見比べたり出来ませんし、群の行動や縄張りなどの行動を見ることが出来なくなります。

 淡水、海水で見た場合、淡水の方が状態が悪いことが多いように見受けられます。 海水、淡水で水槽を使い分けるときなどは特に濾過や生物密度に注意するようにしてください。

生物状態について

 生育状態はベストであることが望ましいのですが、全ての生物をベストの状態に保つのはまず難しいでしょう。 そこで、状態の悪い生物は展示から外すなどの処置を取ってもらいたいです。 これは状態の悪い生物は余り見たくないと言うこともありますが、その生物を知らない人にとっては状態の悪いものをその生物の普通の状態と思ってしまう可能性があるためです。 これは水族館側にとってもマイナスですし、見に行く方にとっても余りよいことではありません。

 もちろんこのためにはバックヤードに治療室などが必要でしょうし、その設備もあると思います。 治療を行って展示するにふさわしい状態になってから、再展示を行うようにして欲しいです。

 ただ、その生物が居ないと展示が成り立たないような場合は、状態が悪いことを明示して展示するのが良いと思います。

水槽環境について

 水槽に本物の水草などを入れる場合、生育環境を整えてください。 そうでないと、枯れたりコケが付いたりして余りにもみっともない展示になってしまいます。 もし管理の手間や生育環境が整えられないような場合などは、いっそのことイミテーションで状態を再現するなどの手法を取った方がよいかもしれません。 ただしその場合は、水草がイミテーションだと(展示パネルなどに)はっきり書いておいた方が良いです。

水槽設置について

 水槽が高い場所や低い場所にあるときは、展示内容に工夫をしてください。 子供向けの生き物を高いところの水槽に入れても見てもらえませんし、大人が見て面白いようなものを足下の水槽に入れても見逃す可能性があります。 一概に子供向けや大人向けなどは分けられないと思いますが、それでもなるべく興味がある内容を見逃すことのないような水槽設置方法を考えてください。 水槽の数に余裕があるのなら、最上部の水槽と最下部の水槽は同じ生物を入れるなどしても良いかもしれません。

 中程度の位置に水槽がある場合でも、子供からすると高すぎる場合が考えられます。 そういう場合は、子供用の踏み台を用意するのが望ましいです。 その場合は水槽の一個所で子供一人分だけのスペースで十分だと思います。 奥行きもそんなに必要ありません。 余り大きなスペースの踏み台を作ると、今度は大人が見るとき邪魔になったり、つまづいたりする可能性があります。

展示、掲示などについて

生物説明について

 最低でもその水槽に入れられている生物の和名だけは表示してください。 緊急時などの場合も、手書きで十分ですので和名表示だけ入れて欲しいと思います。 水槽の中に興味がある生物がいても、名前が表示されていないと後で調べたりすることもできませんし、ストレスが溜まります。

 常設の場合は、和名、種別、写真、その生物の特徴などの説明は欲しいです。 それ以外にあれば望ましいものは学名、英名、生育場所(淡水、汽水、海水:海域、回遊、海底など)、食べ物、毒があるなどの注意点などです。 また、親と子の色や形がまるっきり違う場合は、両方の写真があることが望ましいです。 学名などはいらないとか思われるかもしれませんが、やはり正しい展示を心がけるのなら学名表示があった方が望ましいと私は思います。

説明内容について

 説明文章は大人を対象に書いたものでよいと思います。 子供が一人で水族館に来るとは思いませんし、一人でくるくらいの年齢なら大人向けの説明文章も読めるでしょうから。 説明はその対象についてよく知らない人にとっても分かりやすいような説明を行うことが重要です。 全ての人が対象について詳しいわけではありません。

 説明内容は詳しければ詳しい程良いです。 ただし、一個所に余り詳しく書くと読む人がうんざりしてしまいますので、大まかな説明をパネル掲示にして、詳しい内容を説明卓にするなどの工夫が必要です。 その場合は、パネルに詳しい説明場所を書き込む(もしくはアイコン表示する)などが必要になります。

説明、掲示場所について

 水槽のガラス下面が大人の腰程度の場合(でガラス面が引っ込んでいる場合)はガラス下が説明場所としては良いと思います。 よく見かけられるのは、2mより高いガラス上面などの説明パネルです。 これでは子供が読めないだけでなく、視力の弱い大人ですら読めないことが多いです。

 ガラス面が天井から床までの場合は、水槽脇の壁面が説明場所になると思います。 その他に、ガラス前に角度を付けた説明パネルを天井と床に設置するという手もあります。

壁面掲示について

 水槽脇の壁面の説明パネルは、余り高すぎる所に設置しないようにしてください。 また、余り低すぎるのも大人は読みづらいですが、こちらは読めないことはないので(かがむなどすれば読める)、場所がない場合は仕方がないでしょう。 低い説明パネルは子供向けにするなどの工夫があれば良いと思います(設置場所の問題で難しいとは思いますが)。

 水槽脇に説明表示を行うときは、左右に分断しないようにしてください。 特に大きい水槽の場合は、中にいる生物の種類が多いこともあって両側に説明を分けていることがありますが、片側の説明パネルを見て説明がないと思いこんでしまうことがあります。 両側に同じ説明パネルを設置するか、最悪でももう片側に違う生物の説明パネルがあることを明示するようにしてください。

順路、展示グループ掲示について

 天井には順路や展示グループのエリア分けの説明はしないでください。 普通に歩いているときも天井は注目しないところなのに、水槽を注目しているときに天井などは誰も見ないと思います。 また、非常時などは天井にある非常誘導灯をたよりに避難路を見つけると思いますが、その時に余計な表示などがあると非常誘導灯が探し辛くなってしまいます。

 多くの人は水槽側の壁面を見ていますので、その場所に順路や展示グループの掲示(展示グループの場合はそのグループの説明などがあればなお良い)をした方が分かりやすいです。 順路の場合は通路面に矢印を入れるのも分かりやすいでしょう。 ただその場合は余り威圧感がないようにしてください。 大きい矢印などは結構威圧感があって、その道順から外れるのは禁止と受け止められやすいです(道路標識などが頭にあるためだと思いますが)。

 水槽と反対側の壁面は余り注目されていないようですが、場所が空いているのなら何かの説明や綺麗な海の生き物たちの写真パネルなどを飾ってもらいたいです。 また、展示グループのエリア分けなどを壁面の色やデザインで分からせるのも有効だと思います。 壁面が多くある場合は、必ず気付きますから。 ただ、余りにもはっきりした色分けは水槽側への色の反射もあるるし、色の違いによる感じ方の違い等もありますから、しない方が良いと思います。 色分けなどは、あくまでも控えめに補助的なものとして行ってください。

屋外、タッチプール、ショーについて

屋外展示について

 屋外の展示の場合、屋外にあることを生かした展示にしてもらいたいです。 せっかく屋外にあるのに、屋内と同じ展示なら屋外にある必要性はありません。 また、屋外の場合説明パネルなどは設置しづらいとは思いますが、説明パネルがないとせっかくの展示が生きません。 説明パネルには、なぜ屋外展示をしているかの説明もあれば、また違った目で見ることが出来ると思います。

 出来れば、自然状態を再現した展示などもしてもらえれば、屋外展示する意味はあると思います。 その場合はやはりその水族館がある地域の自然を再現するようにすれば、地域の自然に目を向ける人も出てくると思いますし、管理も難しくはならないと思います。

タッチプールなどについて

 子供が来る機会の多い水族館の場合はタッチプールや触ることの出来る展示は絶対必要です(ほとんど設置してあると思いますが)。 触るという体験は重要ですし、また見るだけに比べて印象に残ります。 テレビやWebなど見るだけの学習機会は多いのに比べ、触ることは余り体験できないですから(特に都市部などでは)。

 またその時には、触ってはいけない海の生物等の説明もあればより良いと思います。 海に行った際にタッチプールなどと同じ感覚で生物に触れる人がいるかもしれません。 水槽側に説明があっても、説明パネルなどは読まない人も多いですし、タッチプールに来たときは多分忘れているでしょう。 そのために、重複になるかもしれませんがタッチプール側にも説明をしてもらいたいと思います。

ショーについて

 ショーは楽しいですが、ショーの出演動物たちは説明パネルがない場合が多いです。 説明パネルがないとその生物について詳しく知ることもできません。 その場合は、ただショーを見るだけになってしまいます。 また、ショーをする場所にショーを行う時間が書かれていないこともあります。 ショーを行う時間が書かれていないとそのことが気になってしまいます。 館内放送を行うとしても、ショーをやる場所にはその時間も書いておいて欲しいです。

環境、知的興味について

水族関連の環境について

 水族館は環境教育にもってこいの場所だと思います。 しかし、特設展示ならともかく常設で環境を考えるような展示が少ないのは気になります。 やはりその生き物たちの生息環境が分かるような展示にしてもらえれば、ひいては環境のことに目を向けるようになるのではないかと思います。

 また、環境教育などと書くと子供向けと思われがちですが、どちらかというと今の子供の方がしっかりした教育を受けていると思います。 ですから、内容は大人向けにした方がみんながより深く知ることが出来ると思います。 内容は説明書き等が多く必要だと思いますから、水槽脇にパネルで説明するか、水槽対面の壁により詳しい内容のパネルを貼るなどをすれば、ある程度の内容を盛り込んだ展示になると思います。

水族以外の環境と水族との関係について

 水族館というと、淡水や海水など水関連ばかりを考えがちになります。 ただ環境というのは水で閉じているわけではないので、その他のこととの関わりが分かるような展示もしてもらいたいと思います。 例えば森林伐採や大気汚染、ゴミ問題、環境ホルモンなど様々なものをテーマとすることが出来ます。 あと、出来れば汚染物質の濃縮に関することや公害問題なども取り上げれば、非常に深い内容の展示になると思います。

個々の生物、グループについての知的興味について

 水族館の場合、個々の生物を水槽で観察するスタイルが多いです。 例え大水槽だとしても、いろんな生物を詰め込んだだけで、見るときはやはり個々の生物になってしまいます(追う、追いかけられるなども見ることは出来ますが)。 個々の生物も大切ですが、やはり分類が分かるような表示をしてもらいたいです。 また、どこで分類分けが行われたか、どんな分類があるか(枝分かれ図みたいなもので)なども表示してあるとひと味違った展示になると思います。

 また、個々の生物に関する説明が少ないです(これはパネルスペースなどで難しいと思います)。 ある生物に興味を持っても、そのことを調べられないのは非常に残念だと思います。 そのため、蔵書などを公開できるのなら公開してもらいたいと思います。 もちろん大切な蔵書でしょうから、無制限に出入りさせるのは危険だと思いますので、係員などに申し込んで公開する方法で十分だと思います。 この場合も、事前申し込みではなく当日申し込みで利用できるようにしないと、利用価値が半減してしまいます。

 もちろんコンピュータやWWWを上手く活用できるのでしたら、それに越したことはありません(こっちは一般に公開しても、データを持っていれば修復できるから問題ないと思います)。

分類について

 少し前までは分類学は時代遅れみたいな雰囲気がありましたが、最近は遺伝子解析などもあって再び分類学に光が当たっています。 水族館は幅広い生物を対象としているのに、分類に関しての展示が非常に少ないように思います(せいぜいで説明パネルに分類と何の仲間などが書いてある程度)。 生物の多様性と分類学は切り離せないものだと思いますので、種の絶滅や環境保護などに絡めてでも分類に関する説明を入れてもらいたいと思います。

 その場合、個々の生物の所に書くのではなく(数が減っている等は個々の生物の所に書くしか無いと思いますが)、まとめて説明するコーナーなどがあれば良いと思います。 これは分類学にとどまらず、環境問題や他のテーマも同様です。 私が「お勉強スペース(もしくはお勉強展示)」と呼んでいるものの大規模で網羅的なものが欲しいです。

 もちろん小さな水族館などではスペース的に不可能だと思いますので、その水族館のテーマに沿った展示などにすればよいと思います(小さくて総合的な水族館の場合は難しいですけどね)。

それ以外のことについて

水族以外の生物展示について

 水族館は水に関連する生物を展示するところだと思います。 ただ、それ以外にも水に依存するような生物(例えば餌が魚など)の展示も行われていることが多いです。 そのような展示をするなとは言いませんが、余り脈絡もなくいろんな生物を展示するのはちょっと気になります。

 水族以外の展示は何か関連性を持たせて展示するようにしてください。 そうでないと水族館ではなくなってしまいます。 私個人としては水族以外を増やすより、水族関連を充実してくれた方が余程嬉しいです。

水族館の規模と性格について

 水族館は大規模なら良いと言うものではありません。 確かに大規模ならいろいろな展示は出来るでしょうし、大水槽も置くことが出来ます。 小さい水族館は小さいなりに専門的な展示を心がければ大規模な水族館と張り合うことが出来ます。 大規模の水族館はいろいろな生き物を見たという感想が残りますが、個々の生き物のことは余り印象に残らなかったりします。

 小さい水族館でも、うちはこのことについては日本一という部分を持っていれば、そのことに関して興味のある人は見に行くと思います。 逆に大規模水族館と同じような構成にすると、余り面白くなかったりします。

 あと、ショーや珍しい生き物を集めるなど見せ物メインで行くか、飼育対象を詳しく解説したり関連のパネル設置など学術メインで行くかなどの方向性があります。 私としては学術メインで少しのショーというバランスが好きですが、さすがにそれだと来館者は少なくなるかもしれません。 見せ物メインで行く水族館が多いようですが、その場合でもなるべく学術的なものを取り入れるようにした方が、水族関連に興味を持つ人が出てくると思います。

グローバル性と専門性について

 グローバル性と専門性は相対するものです。 グローバルにいろいろな生物を集めると、個々の種類や生活圏の内容が少なくなります。 逆に専門性を持たせた展示では専門外のことが少なくなります(もしくは全く無くなります)。

 グローバル的な水族館ばかりでは、どの水族館を見に行っても同じ様なものです。 それならみんな大きな水族館に行こうとするでしょう。 また、専門的な水族館ばかりだと、全体像がつかめなくなります。

 私の感覚では大規模なグローバル的水族館は数県に一つの割合であるくらいでよいように思います。 あとは県によって専門的な水族館や半グローバル半専門の水族館があればと思います。

 小さな水族館は集客が難しそうですが、大規模な水族館と連携して宣伝して貰うようにすれば(割引券などがあればなお良い)、ある程度集客が望めるのではないかと思います。 結構小さな水族館って知らない人が多いんです。 知らないために行かない人が結構いるのではないかと思います。

地域性について

 水族館の展示の中に、その地域の展示(もちろん水族関係)を含めてもらいたいと思います。 そうでないとその水族館がそこにある必然性がないと思います。 また、旅行等で水族館に寄ったときに、その場所ならではの展示があるとやっぱり嬉しいものです。 他の地域のことはなかなか手に入れ辛いものですし、その地域に住んでいる人にはより一層その場所のことに詳しくなります。

 専門的な水族館の場合は生物と共に展示するのはスペース的にも難しいと思います。 そう言うときは剥製と説明パネルとか、ジオラマみたいな展示でも良いと思います。

最期に

 いろいろと書いてきましたが、全て実現するのは不可能だと思うし、一部矛盾等もあると思います。 ただより良い展示を目指しているのは水族館の人たちも同じと思います。 私なりの「こうあったら良いな」と言うものを書き出してみました。 何か参考になれば、私にとって非常に嬉しいことです。


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