それはサーチエンジンの検索結果から始まった!




令状執行の正確な日時は聞いていませんが、真夜中の国語辞典コンテンツに対する
著作権法違反
著作権法第119条第1号(著作権侵害)
著作権法第23条(公衆送信権等)
に関する事件で被疑者は逮捕され、5月14日に送検されました(公衆送信権等の侵害状況は、確認したところ1件をのぞきunknownになっていますが、サーチエンジンで検索結果としては出ます)。
発覚から1年を要したこの著作権侵害事件について報告します。
この事件がきっかけとなって、「まずは警察へ相談」が当たり前のこととなり、インターネット上でやられ損になりながらどうしようもないと諦めている方々が減ることを期待しています。



本件でお世話になったみなさまへ

総理官邸、文化庁、国家公安委員会、警察庁、大阪府警ハイテク犯罪対策室のみなさま、そして、前例のないWEBコンテンツの著作権侵害(公衆送信権侵害)事件にも関わらず、粘り強く捜査し検挙された大阪府警本部生活安全部生活経済課生活経済第七係の担当者殿には深く感謝の意を表する次第です。

真夜中の国語辞典に対する著作権侵害(公衆送信権侵害)事件は、5月14日に被告訴人が大阪地検へ送検されましたことご報告申し上げます。
本件がインターネット上に星の数ほどある著作権侵害に対して警鐘となれば幸いです。


読売新聞社
http://www.yomiuri.co.jp/04/20020519i301.htm
Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020519-00000301-yom-soci
インターネット業界トラブルニュース
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-SanJose/1394/



慣例に基づく引用ではない
無断使用の語彙数は半数以上
表示上の隠蔽という手口を許せるか?




いつものサーチエンジン登録状況の確認…おや?

コンテンツ更新を終え、infoseekで「真夜中の国語辞典」を検索すると、見なれない検索結果が並んでいた。
リンク集や辞典系サイトからのリンクなら疑問も抱かなかったし、気に入った被リンクなら「こんにちは」とこちらから出向いて挨拶でもするところだが、そのサイトはチャットサイトだった。なんでチャットサイトに辞典コンテンツが関係あるんだ、とのぞきに行くのは当たり前。


著作権侵害事件発覚!

表示されたページは単なるリンクだけだった。リンク数を増やせばgoogleは黙ってチャットの項目の上位に持ってくる。目的はそれかとそのときはそう考えた。しかし読み込みは100KBを超えている。
ちょっと待てよ、とソースをのぞいた瞬間、逮捕まで1年以上を要した著作権侵害事件が発覚した。
出るわ出るわひとつの項目(ひとつの項目だけで語数は200前後ある)のみならず、丸丸何項目にもわたって真夜中の国語辞典コンテンツがコピーされていた。しかも、ディレクトリをひとつ上がると同じ手口のファイルが並んでいるじゃないか。

 補足:真夜中の国語辞典は国語辞典の形式を取っており、「あ」〜「ま」まで、あの項目、いの項目の順番で
    「あ」から始まるもの、「い」から……「ま」から始まるものまで個々ひとつのファイルとなっている。

    あんぜんせんげん【安全宣言】〈名詞〉

     --が安全であるかどうかの--が出るまで信用できない様子。


    の語彙表示をひとつの語彙、または一語としている。

手口というのは、まず後ろに真夜中の国語辞典コンテンツを含むファイルがあり、フレーム100%で前にリンクだけのファイルを表示するという古典的紙芝居パターンだ。ぱっと見はリンクとしか思わないが、読み込みのサイズが異常なら誰だって気がつく。初心者だから気がつかない? 読み込みに時間がかかり過ぎたらちょっとは疑えよ。
調べてみるとそのサイトだけではなく、geocitiesや海外サーバーにも同じ手口でほぼ同じディレクトリ構造の設置がいくつも見つかった。悪質ってレベルじゃなかろう、明確な著作権侵害じゃないか。
とりあえずファイルを保存した時点で考えた。ただサーバー管理者に「違法行為だから削除しろ」と連絡したところで、「電気通信事業法」の規定からこいつが誰か教えてくれるわけがない。被疑者不詳で告訴しなければならないし、ゲームソフトやビジネスソフトの著作権侵害事件の逮捕例は刑事なら多々ある。民事が先か刑事が先か、考えるまでもない。
それに日本国内では、ソフトウェアの複製販売など、ソフトウェアの著作権者の利益を保護している前例しかなく、インターネットに蔓延している著作権侵害行為すべてに影響を与えるような前例を作らなければ、法の恣意的運用だと思う。自分が当事者なら黙っている必要はない。著作権は排他的な権利なのだから。


まず大阪府警ハイテク犯罪対策室へ連絡

この時点で見つけたページは7つあった。これらが登録されたサーチエンジンはinfoseekだけでなく、gooやLycosなど国内主要サーチエンジンにはもれなく登録されている。まぁサーチエンジンは登録依頼があれば、(登録依頼がなくても)それが、著作権侵害であるのか否かを判断して登録しているわけでなく、ロボットがうろうろするだけでどんどんサイトやページを拾っていくわけだから、責任どうのこうのを問う必要もないだろうが、その本体となる部分がなくなれば登録もなくなるわけだ。そう、まずは通報だ。
一番最初にハイテク犯罪対策室へ送信したメールのタイトルは「著作権侵害を訴えたいのですが」。
タイムスタンプは「Tue, 13 Mar 2001 10:44:28」。
ここからが長かった。


大阪府警ハイテク犯罪対策室からの最初のお返事は「所轄署へ相談してはどうか」だった。所轄署かぁ、だからよくある逮捕報道で大阪府警となんとか署は、ということになるんだなと思いつつ、打ち出しましたよ、相手側と著作権侵害されているうちの分、関連資料一式。その時は写真画質になる前のプリンタしかなくて、インクを消費する消費する。ブラウザで表示した状態ではなく、ソースとして打ち出すわけだから、相手側がだいたい終わった頃に1カートリッジ、こちらで1カートリッジ。刑事告訴する側も手間隙かかるもの。
所轄に持参したのは小分けしたファイルと、うちのサイトがどんなサイトかといった参考資料に掲載誌あれこれ(結局、告訴状や被害調書などが終わったときにはダンボール1箱分になっていた)。


住吉区内に作家はいないのだろうか

所轄署は南海のチンチン電車が目の前を走っている住吉署。
刑事課の斜め向いの生活安全で一通り説明すると、年配の班長さんは「ハイテクと相談して進める」と説明してくれ、年の若い刑事さんは「勉強させてもらって」ということに(確かにこの刑事さんはしっかり勉強していたようで、その次行ったときには関連書籍に付箋をいっぱい付けて「確かにやってますね」のお言葉)。
ソース上では一目瞭然だが、ブラウザで表示させると相手のリンクページしか出ないし「よーわからん」は当然だし、「やったことがない」も仕方がないことかもしれない。これがコピーソフト摘発経験のある秋葉原や日本橋なら話は早いだろうけど、「相手はそれを販売してるのか?」が質問に追加されていただろう。
しかし何回か行ってると、手錠に腰紐のひとが目の前を連れられて行ったり、身長表示を貼り付けた壁の前で写真を撮ってたりと、やはり警察。一般市民がうろうろしていいところではない。


大阪府警ハイテク犯罪対策室登場!

ここでやっと登場するのが大阪府警ハイテク犯罪対策室。
いかにも私がパソコン担当です、といったタイプのvaioを操る刑事さんや、よくある刑事ドラマの年中レインコートの主役とは趣きの異なる、いかにも本部から来ましたというカンジの刑事さん達に、紙を2枚重ねて著作権侵害の方法やソースの確認方法をあれこれ説明した後で、逮捕するには「悪性」が必要という結論になった。
侵害された側は侵害行為そのものが「悪性」だと考えるが、証拠をがっちり固め、積み重ねる必要があると言われれば、捜査のプロにお任せする以外にない。一般的には悪性腫瘍というように使う「悪性」という言葉が名詞表現となり、この事件の大きな要素となったわけだ。


捜査進行待ち

それから進んでいるのか進んでいないのか、こちらも忙しくて確認できないままお任せしておいた。
もう蝉が鳴き始めるたなという頃に、再度、大阪府警ハイテク犯罪対策室を交えて進捗状況を聞いた。こちらの主張は問答無用、即時検挙だが、やはり前例がないとやりにくかったのだと思う。
さらに時間は経過して…。
通常、半年くらいで検挙なら検挙と白黒つくものと思っていたので、いくら時間がかかるにせよ、9ヶ月はかかりすぎだと警察庁と総理官邸にメールを送信してしばらくした頃に、家の近所まで専従になった刑事さんふたりがやって来た。
某管財事件の捜査が片付いたからやっとかかれるとのこと。こちらの事件は大阪府警が大活躍だったし、「ほったらかしにしたわけではない」の釈明を聞くまでもなく納得してしまった次第だ。


いよいよ本格捜査へ

すでに大阪府警ハイテク犯罪対策室とやりとりがあった頃に、相手方のサーバー管理会社へ連絡して、ディレクトリ構造やその時点の現物ファイルなど証拠となるあらかたを保存してもらい、警察からの照会があれば協力してもらえると返事をもらっていたので、メインとなる著作権侵害部分は照会待ちの状態になっていた(某大手無料サーバー運営会社は、「あんたが著作権者か?」というような返事を送ってきた。うちもその会社にアカウントがあったので、「このサイトの運営者は私だ。確認してくれ」と返事をすると、とたんに公開停止になった)。
ここはこういう返事をもらっているから照会して欲しい、ここは停止になっている、から始まって、相手の更新状況や著作権侵害はいつの時点のファイルから抜いているのか、それをどこに置いているのか、グループなのかアカウントを持っている本人だけなのか、など証拠固めが着々と進んだ。


これじゃない、これでもない

うちの各項目ファイルは更新の際にだいたいは保存してあったのだが、MOから照合してもどちらかが何語か違うという状況に立ち至ってしまった。微妙に違う。確かにある時点のファイルだし、特徴的な部分があるので、どこにアップロードしていたものかはわかっていたが、htmlのフッタ部分の更新日時や著作権表示が削除されていると総当りしかない。これじゃない、これでもない、と目の前に山と積んだMOが減っていく中で、ふと思い出したのがあのDOS/V USER11月号だった。


これだ! しかも丸々同じ!

DOS/V USER11月号の収録日時はよくわかっていたので、試しに照合したところこちらが呆れるほど完全に合致した。相手の追加した改行連打やサイト名などの部分と、うちのフッタ部分をのぞく本文ではまったく差異がなかった。まったくとんだところで役に立ったよ >編集長と編集部のEさん
このタイムスタンプから推定して、特徴のあるファイルの方も日時が特定できた。感想は「まんまやんか」というところか。
告訴状とこの著作権侵害の照合の回答書を手渡した時点で、こちらのできることはやり終えたといっていい。
ただし割り印をのぞけば、だったが。全ページの表と裏にぺたぺた押すだけだが、量が量だ。刑事告訴する側も手間隙かかるもの、に力も加えたい。


難関なのか? 文化庁

こちらのオリジナルと相手の複製を文化庁へ送りますと刑事さんから聞いたとき、「嗚呼、真夜中の国語辞典も著作物として国の折り紙付きになるのか」とは思ったものの、これを送りますと見せられたファイルはそれぞれが軽く広辞苑ほどの束があった。
かつて枕にならないことで劣ると語彙に書いたものの、あのファイルなら楽々ダブルベッドの枕になりそうだった。


文化庁で確認から逮捕送検まで

この所轄と文化庁間の調整が約1ヵ月かかっただろうか。文化庁は日本の著作権行政の総本山だから、やはり真夜中の国語辞典を1ページ1ページ読んだのかもしれない(真夜中の国語辞典が収録されたVectorの書籍やDOS/V USERは国会図書館にも入っているだろうから、保存という観点からならすでに国の手で保存されているわけだが)。
それから電話で、相手を逮捕したことや家宅捜査が行なわれパソコン等一式を押収したこと、本人の取り調べ中で終わりしだい送検、という報告を受けた。ファイルで見れば個々のサイズは200キロバイトそこそこでも、実際打ち出すと分厚さに我ながら驚くし、逮捕への準備作業で、担当の刑事さんはあの分量のファイルに何度も目を通したわけだから、頭が下がる。「何々の項目の何々は」と急に質問されると本人でもよく覚えていないものだから。



パクられていたのはうちだけではない
大丈夫か著作権意識
大丈夫か企業の危機管理




知らぬが仏、知らぬがまぬけ

刑事さんが押収品を分析したところ、出るわ出るわ、送信権を侵害されたのはうちだけではなく、何十件とおなじ手口でまるまんまパクられてる事実が確認されたと聞く。個人運営のサイトのコンテンツはもちろん、掲示板、語数の多いリスト、企業運営のサイトのコンテンツ、トピックス掲示板のリストなどあたりかまわずだったという。サーチエンジンを駆使すれば出典がどこかは判別できるものだ。しかし、いかに何十件の送信権侵害が発覚したとはいえ、著作権者が気づいていなければパクり放題というのが問題ではないだろうか。企業の危機管理とはこういうところにも影響するんですよ。 >パクられていた企業さん
パクられた内容は公衆送信権等侵害はもちろん、自分の管理下にないものだから、将来的に自分の利益損失につながっても知りませんよ。こういうパターンだと延々気がつかないまま検索ではヒットしてしまうわけですからね。日経さんあたりならこういうところを突かなくちゃ。


進行中のまとめ

WEBコンテンツの著作権(公衆送信権)侵害については、知る限りでは日本初だろうし、送検が終わった時点でお世話になったみなさまへは結果報告を送信した。
なんでもデジタルコピーできる時代には、著作権法のいずれかの権利が侵害されたときに、その方法手段は異なるものの、逮捕例があるということで権利を侵害された側の道しるべとなるのではないだろうか。匿名をいいことにやりたい放題のやられ損、民事費用を考えてのやられ損になんの遠慮がいるだろう。ブロードバンド時代だ!と喧伝するのはいいけどね、要は水道管の管と蛇口が大きくなっただけ。流される内容は旧態然のまま何十分もかかった胡散臭いもののダウンロードが早くなったということだ。オリジナルをパクったものを流すだけじゃなく、オリジナルそのものを小学生でも流せる時代なのだから、やったらどうなるかを教え、やったら捕まる可能性があるという前例を見せておかなければならない時期だろう。接続状況が変わっても頭の中身まで変わるわけじゃないんだから。
それと、ハイテク犯罪の報道にはコメンテーターが登場させるのがマスコミの慣例になっているようだが、議論を呼びそうだ、とかいうような中途半端なコメントや、「自由なインターネット」といった幻想は不必要だと思う。逮捕例、送検例、判例を重く見て欲しい。それが現実なのだ。事件発生時は悪の巣窟のような書き方をしながら、我が身の取材の自由を確保したいときに「インターネットの自由」をよりどころのように主張するのはどうかと思う。世論の形成に「取材に有利な」は不要だ。
いま現在に至っても相手からなんの謝罪もないし、WEB上での謝罪ももちろんない。やったことに対する反省が見られないわけだから、送致日・事件番号・担当検事名などを確認して上申書をしたためるのは告訴人の権利だし、捜査記録等を証拠として民事に突入するのは当たり前。


刑事は確定

当事件は平成14年12月17日に大阪地検から東大阪区検察庁へ移送、同年12月24日に起訴。平成15年1月23日に罰金30万円が確定しました。これから民事訴訟の準備に入ることを追記し、追ってまた進行形でお知らせすることにします。