音は音で消せ計画

第一回目:原理と構想

長橋 かずなり 99/01/25


原理

音を音で消すとはどういうことであろうか。騒音よりも大きな音を出して元の音を隠す?蚊に刺された部分をつねれば痛みによって痒みを忘れるようなものである。いゃ、そうではないんです。源音と逆の位相の音を出して、源音に足すことにより音を相殺しようという試みだ。工学、特に物理系の人にとっては常識的な知識であり、そうでなくとも電子楽器をいじったり音楽のミキシングを行うような人にとっては経験的に体験していると思う。その原理を簡単に解説する。

もっとも単純な音の波形のモデルとして下記のような単純な波形を考える。この波形を源音の騒音と仮定する。

この単純な騒音モデルの波形の逆相は、

となる。これを合成すると、b点の上方向の力とb'点の下方向の力、同様にdとd'の上下の力がお互いに引っ張り合うことになり原理的には直線(無音)に近づくのである。これは音だけに限らず振動にも同様の効果をもたらす。

しかし世の中何事も理想通りには行かない。この構想を実現することを考えると源音を拾うのはマイクであり、それをアンプで増幅し、逆相を再生するのはスピーカである。源音をそのまま拾うマイクや源音通りの音を再生するアンプやスピーカは存在しないのである(それが可能であればオーディオの世界はもっと退屈なものであろう)。すると完全な逆相を得ることは難しくなり、合成結果も直線とはならないであろう。また、音源の位置とスピーカの再生位置には必ず距離がある。距離があるということは音の発生源と逆相の再生点で時間的な遅延が発生する。遅延が発生すると逆相の再生タイミングがずれて思うような効果が得られなくなるかもしれない。もっとも極端な例として、上記の単純な波形モデルの逆相側が180度分であるa'点がc点までずれたとすると、b'点とd点が増幅方向に働き音は逆に大きくなるのである(右図参照)。実際には波形はこんなに綺麗ではないので、遅延が短い場合はモジュレーションといってシュワシュワとうねったような音になるか(逆相なのでならないかな?)、遅延が長い場合は別々の音に聞こえると思う。

遅延は距離だけでなく今回の構想を実現する方法によっても変化する。例えばマイクで拾った音をソフトで拾い上げて、そのソフトで逆相の波形を生成する方法を採った場合には、ソフトでの処理の遅れなどにより遅延が発生するであろう。

遅延の影響はあとで想像するとして、結局私がどのようなことを実現したいのかを説明しよう。

構想

PCの騒音をマイクで拾い、その逆相の波形を何らかの方法で作り出して騒音源の近くでスピーカによって再生するということである。

 

いくつか考えられる実現形態を示しておく。

(1)完全自作方式

入り口から出口の順で、マイク、マイクアンプ回路、逆相出力回路、スピーカーアンプ回路、スピーカーまでのすべてのパーツを入手して自作を行う。スピーカーはPC用のパワードスピーカーを利用すればスピーカーアンプの作成の必要はない。

(2)サウンドカード方式

SoundBlasterに代表されるサウンドカードを利用する方式。サウンドカードのマイク、サウンドカードのマイクアンプ、ソフトウェアによる逆相出力、PC用のスピーカなどによって構成する。

(3)ハイブリッド方式

サウンドカード方式とほぼ同等であるが、逆相波形出力部分の回路のみを電子工作で自作する方式とする。ソフトウェアによる処理遅延を抑制する効果が期待できる。

今のところはこの3方式のどれかになるだろうと漠然と考えている。これらをいきなり作成するのは大変なので次回の記事では手持ちの機材(ボーカルマイク、昔ギター用に自作した逆相も取り出せる装置、オーディオ用スピーカなど)で実験を行ってみようと考えている。実験はいきなりPCの騒音を利用しようとするとやっかいかもしれないので、通常の音楽信号を使うところから始めるかもしれない。

そういうわけで次回は簡単な実験から始めます。


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