ZAURUS はもともとペン入力専用 PDA として登場しました。 それまでの電子手帳や携帯コンピュータはほとんどすべてがキーボードタイプで、 入力装置としてのキーボードはサイズにも制限を与えます。 また、小さく入力しにくいキーボードでは、 文字種が多く、モード切り替えやらいちいち漢字変換しなければならない 日本語入力で特に操作を妨げるものとして問題視されていました。
それを打破した画期的なマシンとして登場したのが ZAURUS 及びその前身の PV-F1 です。 (ちなみにペン自体は DB-Z からついていましたが、 手書き文字入力はありませんでした)
漢字も直接手書き入力できるペン操作は、 それまで入力しにくかった窮屈なキーボードからユーザーを開放しました。 またスイッチであるキーを完全に廃したことで、 極めてコンパクトなボディながら 本体の表面のほとんどが表示画面兼入力装置という、 ユーザーの想像を超えた大画面と操作性を実現してくれました。
キーボードといえばちょっと敬遠しがちな人でも、 手書き入力なら何の練習も無しにすぐ使えます。
つまり当時は 「キーボード = 窮屈で入力が面倒で使いにくいしろもの」 であり、 ペンによる手書き入力は新しい画期的な入力装置としてもてはやされたのです。
手書き文字入力のすばらしいところは、 モード切り替えが一切不要でありながらすべての文字をそのまま入力できることです。 アルファベット、数値、ひらがな、カタカナ、記号、などなど、 日本語に使われる文字種は非常に多いので、 キーボードではどうしてもモード切り替えが頻繁に発生します。 これが入力を妨げる要因の一つとされていました。
ところが実際は、手書き入力の場合であっても結局 文字の認識率が悪い場合があったり、 認識と確認のために入力速度が限られてしまうなどの問題も生じます。 そのため長いデータを入力するには手書きだけではちょっと疲れますし、 同時に PDA 自体も本格的なデータ入力への要求が生じるほど ハードも進化していきました。
インターネットやパソコンが普及し、 それまで年賀状くらいしか活躍しなかったワープロも、 電子メールという普段の文章を書く当たり前の道具になりました。 ワープロを使うのがごく当たり前になるにつれ、 慣れれば入力も速くなるキーボードが これら PDA でも見直されていくことになります。
ペンによるさまざまな操作は、手書き入力以外でも未だまだ未発達であり、 その操作手段が確立されていません。 入力速度において必ずしもペンよりキーボードの方が速いわけではなく、 両者ともに得手不得手があります。 ザウルスのようなペンのみの PDA でも、慣れれば入力が速くなる入力インターフェースを作ることは十分可能ですし、 このあたりはハードの進化と合わせてもっと研究されるべき代物でした。 (もちろん手書き入力に関しては、 慣れれば認識率があがるような文字の書き方をマスターするようになるわけですが・・)
が、残念ながらこれまでのように、ザウルスのペン入力は 初心者に対する敷居が低いインターフェースの方向にのみ発展し、 上級者が快適に操作できる方向にはあまり進化していません。 (むしろ退化しています)
といってもこれは、今の多くのウィンドウシステムが抱えている問題と 全く同じであり、ザウルスだけが悪いわけではありません。 結局ザウルスも、 上級者へのアピールはペン操作の進化ではなく、 キーボードをオプションで用意するという解決手段を選ぶことになったわけです。
歓迎されるべき内容として登場したキーボードですし、 もちろん入力手段の幅が広がることは喜ばしいことなのですが、 古くからの電子手帳ユーザーとしては、 どうしても単に昔に戻っただけという感じがしてしまうのです。
とういわけで、いつもながら長い前振りが続いた後ここからが本文です。
携帯キーボード CE-KB1 は、Power/Pocket Zaurus に接続するオプションのキーボードです。 もともと専用のキーボード端子(4pin)がついており、そこに接続します。 第一印象は、携帯キーボードといいつつ かなり大きい、ということです。
筆者は ZaurusPocket のユーザーであり、 またかつて使っていたポケコン(もっと小さいキーボードを持っていた) のイメージがあったからかもしれません。 どっちにしろ、 本体よりはるかに大きなキーボードはやっぱり持ち歩けないだろうなと感じました。
このサイズは本格的な入力を行いたいという今のユーザーの声を反映したものと 思われます。 実際キーピッチはぎりぎりながらホームポジションに手が乗るサイズで、 上下左右のキー間隔があいているため、 キーピッチ以上に隣のキーを一緒に押してしまうケースがあまりありません。 小型のキーボードでボタン間隔を空けるのは、 昔のポケコンや電卓を見れば当たり前の設計です。 かつての PC-1250 シリーズとか、今では信じられないほどのキーピッチですが、 ちゃんと文字が打てていました。
キーはゴムではなくプラキーです。またキーボードに 昔の SHARP のポケコンのようなスライド式のハードカバーがついています。
このキーボードは完全に文字入力専用です。 あくまでキーボードは、 ザウルス本体の入力ボードのうち、切 り替えた入力ボードの一つとしてのみ機能します。
文字入力以外の操作、つまり画面切り替えやモードチェンジ、 編集などの操作はカーソル移動を除いて一切できません。
当然入力ボードが登場する以外の画面では、 すべてペンだけで操作しなければなりません。 また、入力ボードが「携帯型キーボード」になっていないと全く反応しません。
キーボード入力の操作方法や仕様は、 50音やタイプライター入力ボードを選んだときとほとんど同じです。
キーボードは、パソコンの JIS 配列とほぼ同じだけのキーを持っています。 タイプライター入力ボードよりも入力できる記号が多く、 SHIFT を含めたこのあたりの操作はパソコンと同じになっています。
ところで、ザウルスの場合キーボードにしかないキーがいくつか存在します。
まず [SHIFT] キーが存在します。 ロック式ではなく、パソコン同様同時押しタイプです。 タイプライタ入力ボードでは一部 [機能]キー がロック式の SHIFT の役割も果たしてましたが、 携帯キーボードでは [機能]キーはローマ字入力モードの切り替えにしか使いません。
あとカーソルキーが存在します。 ザウルス本体にはこのようなクロス型のカーソルキーがないのは、 カーソル指定が通常直接のペンタッチで済むからです。
さらにパソコン同様 [Ctrl],[ESC],[Tab] のキーもあります。 これらはマニュアルでは、ザウルスでは使用しない将来の拡張用と書かれています。 レポートなどの入力時には確かにほとんど反応しません。 が、いくつか使える操作もあるようです。
また一番大きいキーである[変換]は、 変換すべき文字が入力されていない状態ではスペースキーとして働きます。
ザウルスには、パソコン通信や Telnet などのターミナルモードが存在します。
ターミナルモードでは、入力ボードに「大」「小」「無」の選択があり、 画面表示のターミナル部分と、入力ボードが占める面積を必要に応じて 切り替えられるようになっています。
携帯キーボードは前述のように入力ボードの一つとしてのみ機能します。 ここで非常に残念なことに、入力ボード「小」「無」では使えず、 「大」を選択したあとに入力ボードを、携帯キーボードにして初めて キーボードが使えるようになります。
ここでちょっとバグっぽい仕様なのですが、 携帯キーボードを選択してもターミナル画面のスクロール領域が変わりません。 携帯キーボードの入力ボードを選択すると、画面を占める入力ボードの面積が 画面の最下部2行分だけになり、 レポートなど他のモードでは広い画面で編集ができます。 しかしながらターミナルモードではメイン画面のスクロール領域があくまで 「入力ボード大」のままで、見かけに反して画面が狭いままになってしまいます。 (残念1)
またターミナルモードでは、 先ほどのキーボードにしかない特殊キーが一応ちゃんと反応します。
Ctrl+] は、Telnet モードではなんともしっかり Telnet のエスケープコマンドとして働きます。 かといって、Telnet プロンプトで使えるコマンドがないので ぜんぜん意味がありません。
これは、セッションの接続を保ったまま Telnet のコマンドモードにおりる 操作なのです。UNIX では SJIS が引っかかったりして結構厄介な代物でした。 もちろんザウルスでは何ら問題もないのですが、 Telnet 使用中にうっかりカーソルの左 [←] に触ってしまうとコマンドモードに 落ちてしまうので、知らない人はかなり驚くかと思います。
もし [←] で telnet> のプロンプトが出ても、そのまま [Enter] キーを押せばターミナルモードに復帰しますので、 慌てて接続を切らないようにしましょう。
ちなみにマンドモードに降りても、 同時に複数のセッションを開くことはできませんでした。
携帯キーボードには [入力] キーがあります。 この働きは、入力ボードにある[入力]ボタンと同じです。
もともとこの[入力]ボタンの働きは、機能やモードによってあいまいでした。 例えばレポートでは[入力]ボタンは 登録 にタッチするのと同じ働きをします。 例えばアドレス帳では、[入力]ボタンによって入力状態の項目が移動します。 ところが、シークレット入力では、[入力]ボタンは反応せずに、実行 をタッチしなければなりません。
携帯キーボードを使うときは、ペンとの併用が面倒なので、できるだけ[入力]キー を使おうとします。そのとき、これらのモードによる動作の違いが結構気になる 症状としてでてきます。
普段完全なタッチタイピングでキーボードを使っている人にとっては、 かえってへんに中途半端なキーボードは、使えない代物になってしまいます。 手や体に染み込んだ動きが、思考と同時に余計なキーを打ってしまうからです。 それならきっちりと割り切って、ペンならペン入力のみにした方がすっきりします。
ザウルスが当時、コンピュータ屋からそうでない人にも幅広くユーザーに受けたのは、 このあたりにも秘密があったのかもしれません。
パソコンを使う人、使わない人が明確に分かれていたのは昔のこと。 今はごく当たり前にパソコンを道具として使います。 使う使わないの分岐点があいまいになり、中間層が増大しました。
今キーボードが好まれている理由がこの当たりにもあるのかも知れません。 タッチタイプにそれほど拘らない場合は、 キーボードの大きさや配列の違いはたいした影響にならないのは納得できます。
携帯キーボード CE-KB1 は、ぎりぎりですがホームポジションに手がのるので、 慣れればちゃんとホームポジションからでも打てるようになるのでは ないかと思います。 けど、そこまでタッチタイプに拘らずに、初心(?)に戻って一本指、 二本指で打つだけでも、意外に使えることに気がつきます。
筆者は普段、URL やメールアドレスの入力など、アルファベットや数値入力が続く場合は、 ザウルス本体でもタイプライター入力ボードを選択することが多いです。 しかしその場合普通はペン一本なので、その入力効率は指一本と同じです。 複数、または両手の使えるキーボードの方がその分効率的だということです。
まず、入力ボードの一つとしてのみ機能するため、 ザウルス本体で文字入力を行わない場合は全く必要がありません。 シンクロのみで外出時はビュアにしか使わないとか、 持ち出してメールチェックのみ、またはブラウザしか必要ない場合などは 無用のものになります。
さらに、本体との接続は不安定なケーブルで行うため、 外出時に使うにもそれなりに安定した場所でないと使えません。 ゲーム機のパッドのように持ったまま使うには中途半端な大きさで、 また機能選択などにはペン操作の併用が 必須となるので、立って使うなんてもってのほかです。
よってこのキーボードは、 パソコンなどシンクロしたりデータを転送する母体を持ってない人が、 ザウルス単体をワープロにしたり、 大量のデータ入力を行う場合に使用するためのものであると考えられます。
今の PDA は WindowsCE や PalmPilot などの端末に見られるように、 パソコンと接続をして、 転送もしくはシンクロしたデータを持ち歩くという考え方が中心になっています。 決してそれ単体だけでなんでもやろうとは思っていません。
しかし日本の PDA は違います。 かつてザウルスの TV CM に 「仕事にザウルス一つ、あとはいらん」 という台詞がありました。 この言葉に代表されるように、 ザウルスはそれ単体でパソコンの代わりから通信まで、 情報管理のすべてをやろうとして進化してきた経緯があります。 そしてここに、このキーボードが存在すべき位置も見えてきます。
携帯キーボードは必要か、そして使えるかどうか。 それはすなわち、ザウルスだけでどこまでやろうとするかに すべてかかっているのです。
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