Windows 7の視認性の謎 (2009年11月)

他のサイトではほとんど触れられていないWindows 7の問題点を、主にアクセシビリティ・視認性の観点からまとめてみた。果たして障害者や老人にも使いやすいOSだろうか。
今まで8年間Windows XPを使った後、Vistaを2ヵ月、さらにWin7に移行して1ヵ月の時点の評価だ。

参考:マイクロソフト社のアクセシビリティページ


1. ログオン画面とCAD画面 画面コピー参照
(CAD画面とは、Ctrl+Alt+Deleteを押した時に出る「ログオフ」や「タスクマネージャー」を選ぶための画面のこと。正式名称は不明だし、デザインのCADと紛らわしいが、海外サイトにこういう呼び方をするサイトかいくつか見つかったのでこう呼んでおく。)
 
この2つの画面ではキーボードで操作するためのカーソルがほとんど見えない。VistaとWin7はほぼ同じだが、Win7の方がさらに見分けにくいのは背景色が原因のようだ。パッと見てカーソル(四角い枠)の位置がすぐに識別できるだろうか。さらに、マウスを当てた時のカーソルは多少はっきり見えるようになるのに、キーボードのカーソルだけ見づらいのも奇妙だ。XPははっきり識別できるのにVista以降であえてこんなふうにしてしまった理由がよくわからない。
 
これらの画面には「ハイコントラスト」モードに切り替える機能がある。CAD画面はこれで確かに見やすくなる。しかしログオン画面では識別のしやすさはほとんど変わらない。視力に問題がある人のための機能とは思えない低コントラストだ。
その上、次回またログオン画面を起動すると通常モードに戻ってしまい、モード切替操作を毎回しなければならないので、視覚に障害がある人にとって何の役にも立たない。
 
全体に、この視認性・操作性の悪さは誰のためなのか、あまりにも不自然な、謎の多いデザインだ。とても正気とは思えない。
2. 画面の配色 (Vista/7共通の問題)
Windows Meまではウィンドウの各部分の配色を細かく設定でき、自分なりの見やすい色に変更して使っていたのだが、XP以降Luna(Windows XP スタイル)とかAeroとかの凝ったデザインでほとんど配色を変えられなくなった。特に「アクティブ・ウィンドウ」と「非アクティブ・ウィンドウ」のタイトルバーが色の濃淡だけで区別されるので、「有彩色」と「無彩色」のような一目でわかる区別ができず、私はXPではずっとクラシック・モードを使ってきた。
 
XPのLunaは使わなくても機能が減るわけではないのでそれで済んだが、Vistaや7のAeroは、使わないとタスクバーのプレピューなどの一部の機能が無くなってしまうので、クラシック・モードで使うこともできず、見分けづらいタイトルバーを受け入れざるをえないようだ。Vistaを2ヵ月ほど使ってみたが、いつまで経ってもアクティブ/非アクティブの区別に慣れないで、無駄な操作を強いられている。(XPは最前面のウィンドウを閉じるとすぐ下のウィンドウがアクティブになったが、Vistaではそうならないのも操作性の悪さを倍加している。)
 
明らかに有用な配色変更機能を無くしてしまって、背景が透けるという意味不明なデザインに変更することで、誰にとって「より使いやすくなった」のか、これも謎だ。
3. プロダクト・キーのシール
Vistaの優待アップグレード版のWin7を購入してインストールしたのだが、インストール時に入力しなければならない「プロダクト・キー」の文字サイズが極端に小さい(優待版のみかも)。
 
    
  Win7優待版のシール              Vistaパッケージ版のシール
(Product Keyは赤枠内。実物には赤枠はない。キー保護のためにぼかしてあるのであしからず。)

このシール全体のサイズが70mmx28mm、1文字のサイズは実に1mmx1.5mmだ。私は普段一切眼鏡を必要としないが、プロダクト・キー(左下)の読み取りには虫眼鏡を使わざるをえなかった。ルーペを片手に無意味な文字を15文字も入力させられるという、ユーザーをバカにした手法に怒りさえ覚えた。視力の弱い人への配慮がされているとはとても言えないな。
さらに、「プロダクト・キー」を入力せよとしながらProduct Keyと英語でしか書いて無い上にあちこちに数字があって、英語を読めない人には使えない仕様だ。

Vistaのパッケージ版のプロダクト・キーもDVDケースを開いた状態でしか読めないため、入力時に机上に置いた状態で見ることが困難(31x19cmの大スペースが必要)で苦労したが、「プロダクト・キー」とカナ書きだし、文字サイズは1.5mmx2.5mm(面積比2.5倍)あり新聞などの印刷物と大差なく、読み取りに虫眼鏡なんて必要ない。

このシールはマシンに貼付するようにとの指示があるが、PCに貼ってしまったら、再インストールの時はPCのケースの側方へ首を曲げて虫眼鏡を当てるというアクロバティックなことをしないと読み取れないようになっちゃうよね。
 
一般的に、製品を使うために必須の重要な情報を目に見えないほど小さな文字で書いた場合、欠陥商品と見なされる場合もある。視力の弱い人や英語の読めない人にとってインストールが著しく困難な、Windowsの優待アップグレード版は、欠陥商品の烙印を押されてもやむをえないだろう。
4. これは便利かも …ちょっとはほめておこう
画面の文字サイズに「大 - 150%」のモードが追加された
 …ソフト開発者には面倒だけど、たぶん正しい方向だ。でもこれは新機能と言うより「復活」機能なんだよね。確かWindows 95のころは文字サイズが4モードもあって、ソフトの検証が大変だった。
 市販ソフトでも125%モードにすら対応してないのがあるのも問題。マイクロソフト社のチェックリストの範囲すら確認してないソフトは製品自体の品質を疑った方がいいね。
ユーザー別に文字サイズを設定できる
 …家族各人で視力が違うのはあたりまえなので、当然の機能だ。開発中のソフトの検証にも便利だし。Windows 95では再起動せずに変えられたので、これも「復活」とも言える。やっと14年前の機能を取り戻し始めただけで、進歩とは言い難いけど。
Windowsキー + テンキーの"+"・"-"キーでデスクトップを拡大・縮小 など
 …今までのWindowsの「拡大鏡」よりかなり進歩している。ファンクション・キーなどをそれ専用のキーとして設定できるようになればもっといいかもね。
 
これら、視認性に関しての便利な新機能は、素直にほめておきたい。でもこういう機能があることに気づくのも覚えておくのも困難かも。全国のシニア向けPC教室などでぜひ教えておいて欲しいところだ。

【まとめ】
Windows 95の頃は、何千人もの一般ユーザーに試用してもらってユーザーインターフェイスを改善したことがうたい文句になっていたが、最近では1人も一般ユーザーには意見を聞いてないようだ。1回でもログオン画面を見せて意見を聞けば、「はっきり識別できない」という意見が続出するのは間違いないと思うのだが。
Vistaが出てから3年、Win7のβ版から半年以上も、世界中で何億人もの人が使っているのに、改悪されてしまっているのも大きな謎だ。
 
Windowsに様々なアクセシビリティ機能を追加し使い勝手を向上させている点はとても評価できるのだが、こういった根本の部分にかなりの見逃しがあり、「すべての人に使いやすく」という方針とは大きく矛盾しているんだよね。
 
さらに、Windowsの評価記事にこれがほとんど取り上げられてないのも奇妙だ。IT記者たちは、提灯記事ばかり(Win7はそんな記事でいっぱい)書いてないで、もっとこういった不自然な部分にも目を向けてきっちり批判して欲しいなあ。