家電製品のアップデートによるトラブルが増えているようなので、対応を考えてみた.
◆ 三菱の幽霊テレビ
2015年3月、三菱電機のテレビがBSの電波によるアップデートで正常に視聴できなくなった(操作していないのに電源のオン/オフを繰り返す)ことが報道された.しかも、この現象を解消する再アップデートは半月も後に行われた.つまり、半月間もの間、テレビが正常に見られなかった人が大勢いたことになる.
その後、この事態の詳細な原因などが報告されないので、こういったことがまた起きるのか、対象ユーザーのうち何割くらいの人がどういう状況におかれたのか、などは全く不明だ.
さらに、自社向けのソフトウェアではなく“全受信機共通データ”でのトラブルということから、特定のテレビをウイルスに感染させることが容易にできてしまう可能性がうかがえる.
私自身も以前何度か被害を受けたことがあるので、(少し記憶が曖昧だが)実例としてあげておく.
◆ 東芝のアンハッピーアップ
2004年、東芝の衛星放送(スカパー)チューナー(CSR-B4)のアップデート.
「EPG(番組表)の表示をより速くスムースにする"ハッピーアップ"」というアップデートが行われた.
しかしこのアップデート後は、EPGが正常に表示されない、予約が実行されない、チャンネル選択の機能が正常に働かないなど、通常の視聴にまで影響を及ぼすバグだらけのとんでもないものだった.どうやったらこれほど壊滅的なソフトウェアが作れるのか不思議なくらい、でたらめな更新だ.
約2ヶ月後にやっと改修版のアップデートが行われたが.それまでの間は不具合だらけのチューナーをだましだまし使うしかない状態だった.アップデートなんてしなくても問題なく使えていたのに、"ハッピーアップ"といううたい文句につられて早々にアップデートをしてしまったことをとても悔やんだ.
当時のネット情報では、このアップデートをした多くの人にあてはまる不具合だったようだ.私にとっては、東芝の技術力に対する信頼を一気に失わせた事態だった.
ほとんどテストせずアップデートのデータを公開してしまうのは、東芝の開発体制の重大な不備を示しているとしか言いようがない.
(余談だが、東芝は原発開発も手がけているが、原発もこんな体制でやっているとしたらと考えるとゾッとする.逆に、原発はもっと厳重にやるがAV機器ごときには手を抜いているとしたら、それも納得いかないね.)
製品をより良くするといいつつ、使い物にならなくする「製品破壊アップデート」とでもいうべき更新が実際に存在するのを身をもって知った.
◆ パナソニックの機能低下アップデート
2006年、パナソニックのDVDレコーダー(DMR-HS2)のアップデート.
「特定DVDビデオディスク再生性能の向上」のためのアップデートだったが、アップデート後もどういうディスクに効果があったのかは全く不明だった.ただ、それ以前に書き込んだDVDの何枚かが、アップデート後に再生できなくなってしまった.
これも多くのユーザーに同様の不具合があったようだが、メーカーは認識してないか、しらばっくれているようだった.
結局、再び再生できるようにするアップデートは行われなかった.私にとっては得たものより失ったもののほうが多い無意味なアップデートだった.
◆ (ついでに)Windowsの、PCが起動しなくなるアップデート
Windowsのアップデートでも、たびたび「一部のPCが起動しなくなる」というようなバグが報告される.たまにニュースなどで報道されることもあるが、実際にはほぼ毎年のように起きているようだ.
世界中のPCの台数からすればごく一部しか影響ないものなのかもしれない.しかし、PCについてまわりに相談する人がいない人にとって、アップデートのせいでPCが起動しなくなったこともわからず、ハードウェアの故障と思ってしまう場合もあるのは目に見えている.私自身、知人からそういった相談をうけることが時々ある.
普段の更新でも、再起動を強要されたり、勝手に拡張子の関連付けを変えられたり(そんなときのために拡張子関連付け編集ツールAsoconがある)することがたびたびあり、自動アップデートは安心して使える仕様ではない.
★ ユーザーが対応できること
私は、AV機器やPCを買ってまず最初に自動アップデートの機能をオフにすることにしている.「通知だけをさせる」というような設定があればその設定にする.そして、機器のバージョン情報を時々(数ヶ月に一回)確認する.
バージョンが上がっていることが通知されてもすぐには更新せず、数日後、ネットを調べてそのアップデートによるトラブルがないことを確認してからアップデートする(ここでは「ずらし更新」と名付けておく).
自分で更新情報を時々チェックするなどの手間をいとわない人は、こういった対策をお勧めする.(PCの場合はウイルス対策などをきちんとしてあることが前提だ.)
アップデートの不具合により機器自体が起動しなくなるという事件はたびたびあるが、アップデートしないことによる不利益はほとんどないので、このほうがはるかに安全だと思う.
★ メーカーに望む
調べてみるとこういったアップデート不良のような現象は各社でたびたび起きていることがわかる.
今後、エアコンや冷蔵庫などの一般の家電製品もネットにつなぐ方向にあるらしいが、こういったアップデートの不具合が起きた時の対応をきちんと考えているのだろうか.自動アップデートの不具合のため火災が起きるというような事故は十分予想できる.
テレビなどはAndroidなどの汎用OSを使う方向になってきているが、そうするとさらにメーカーが責任を持てる範囲は減り、アップデートの不具合が増えることが懸念される.
アップデートの不具合をゼロにすることは不可能なので、不具合が起きることを前提にした製品作りを望みたい.
例えば、
出荷時のデフォルトの設定を、自動アップデートではなく、新バージョンの通知だけにする(初心者にわかりやすい説明が必要になるけど).実行するかどうかはユーザーに選択させる.
アップデート後に、直前のバージョンに戻す機能を用意する.これで大半のアップデートのトラブルは回避できるはず.…問い合わせ電話に「今サービスマンが出払っていまして…」とか「数ヵ月後に直ります」とかよりも、「そこの隠しスイッチを押せば直ります」というような対応で済めば、ユーザーの不満はかなり減らせると思う.
直前のバージョンに戻す機能がない機種については、トラブルが発生した時にすぐに直前のバージョンに戻すためのアップデートをおこなえるよう、毎回戻し更新用のデータを用意しておくべきだろう.勝手に自動アップデートされたあげく、直るのは数週間後などというのは、納得できる話ではない.上述の3事例も、この機能さえあればそれほど問題にはならなかったはず.
「何日後に再通知する」というような、ずらし更新の設定ができるようにする.(←Windowsにも欲しい)
…など、工夫の余地はいくらでもあるばずだ.
また、アップデートによって何が変わるのか、必要な人とそうでない人の区別など、もっと詳細な情報を開示すべきだ.
アップデートの失敗のたびにサービスマンが全国を駆けずり回るというような力まかせの無駄な対処では、製品の価格にはね返るし、ユーザーの信頼も損ねるし、得なことは何もないはず.それよりも製品製造時に上記のような機能を仕込んでおくほうが安上がりだろうし、何よりもユーザーの信頼を損ねる心配が減らせるのは大きいと思うんだよね.