原発とドローン

       .…新たなる脅威  (2016年 3月)


 2011年の福島原発事故とその後の5年間の対応を見ていて、今後問題になりそうな新たな危険が気になってきた.それは、ドローン(無人航空機)によるテロ攻撃の危険だ.既に一部では危惧されているようだが、特に問題だと思うのは「原発の新規制基準では、ドローンによるテロを想定していない」ことだ.

 私は2006年にエネカルクを作成/公開してから、原発を含む電力関係の動向がより気になるようになったのと、技術者としてドローンの進歩からも目が離せないので、両方が関わるこの問題について調べてみた.いざ調べてみて意外だったのは、危険度がかなり高いことだ.その割にはあまり知られていないので、警告として書いておきたい.

危険性
 現在、原発は新規制基準に基づいて続々と再稼働が進められている.新規制基準にはテロ対応の必要性も新たに加えられたようだが、有人の航空機衝突に言及されているだけで、小型の無線操縦によるドローンは考慮されていないようだ.(「テロへの対処基準を新設した」という記述からすると、旧規制基準ではテロ対処基準すらなかったようで、これも驚きだけどね.)

 原発の敷地内には部外者が意外と簡単に侵入できること、コンピュータウィルスの制御システムへの侵入すら実例があることなども報道されている.これらを踏まえると、ドローンで爆弾を運び込み自爆攻撃をすることも簡単に実行できそうだ.
 原子炉の格納容器がいくら頑丈でも、外とつながるパイプや外部電源を壊せば放射性物質を拡散させられることは、福島の事故で思い知らされたはずだ.有人の航空機によるテロ攻撃と比べ、安価で無人で隠密性の高いドローンによるテロははるかに実行のハードルが低いので、危険性は大幅に増したと言えるだろう.

 今後ドローン技術が進歩すれば、より高速で小型になり、静音性やステルス性も高いものが開発され、価格も下がるのは間違いない.そして、複数のドローンの編隊による重量物(=大型・大量の爆発物)の運搬や、多数のドローンによる一斉侵入攻撃、各地の原発への同時多発攻撃なども可能になると想定される.
 有人の航空機では大きな組織にしかできなかったこれらの攻撃が、個人の資産の範囲内で可能になってしまう.9.11の同時多発テロ以上のことが、社会に不満を持つ一人の狂人か少人数の犯罪者によって実行できてしまうわけで、とうてい見過ごして良い危険ではない.これらの攻撃を実際には行わず脅しとして使われるだけでも、原発にとっては何らかの対応をせまられるだろう.

対策
 対策としては、ドローンの早期発見・妨害・捕獲・撃破などが考えられる。
 ドローンはGPSWi-Fi帯域の電波で飛行しているので、これらの電波を妨害すれば飛べなくなる.電波をかく乱するドローン・ジャマー電波妨害装置)ならば、すぐに設置でき、費用もそれほどかからない.原子炉建屋を妨害電波で包めば、少なくともドローン爆弾の直撃は防げるだろう.巨大な防潮壁と比べれば雀の涙というレベルの費用で済むのだから、設置を義務づけてもいいはずだ.他にも手段は色々考えられるが、さしあたってこれが最も現実的で効果的だと思える.

 原発や核燃料施設の規制基準には、ドローンによるテロへの対応を早急につけ加えるべきだ.電力会社は、規制基準に無くても自主的に妨害装置を設置するくらいの慎重さ・先見性を見せて欲しい.こうした安全策を率先して実行すれば、原発への不安も減少し、電力会社にとって損はないはずだ.

原発以外では
 報道ではドローン・ジャマーについてはほとんど報道されておらず、ドローンの利点ばかり強調されている気がする.でも社会の安全性の観点からはドローンは結構やっかいな装置でもある.今後ドローン・ジャマーを多くの場所に設置する必要性が出てくるだろう.重要施設はもちろんのこと、オフィス街や住宅地なども場所によっては必要になるかもね(市街地でGPSやWi-Fi電波を妨害するわけにはいかないけど).
 ジャマーとそれを回避するドローンの技術開発のイタチごっこになるんじゃないかな.


想定力も技術力のうち
 世界には、平気でテロを繰り返す国家モドキや、狂気の独裁者が統べるテロ国家、テロを教義とするカルト宗教など、危険な組織ががはびこっていて、テロの世紀とすら言われている.全世界に400基以上もある原発のどれかがドローン・テロの標的にされるのは、もはや時間の問題だろう.日本がいちはやく対応すれば、世界への良い模範にもなると思う.
 ドローンによるテロの危険は原発に限らず他の施設にもあてはまるが、原発に仕掛けられれば何十万・何百万人に影響が及ぶ以上、可能な対策は大至急進めて欲しい.本来、原発のテロ対策は軍事施設以上に厳重であるべきだ.

 危険性が容易に推測でき、安価な対応策もあるのに、現時点であまり問題提起されていないのはちょっと不自然だ(どこかで隠密に検討しているのか?).十分想定できる問題なのに、いざ事故が起きるとまた「想定外」と言って逃げるつもりなのか?
 毎度のことだが、原発関係者の想像力の乏しさにはあきれ返るばかりだ.いっそのこと、規制基準に「常に想像力をたくましくして新しい脅威に対処すること」とでも書いておいた方が良いんじゃないかな.

運転差し止め
 ちょうどこの文章を書いているとき(3月9日)に高浜原発の運転差し止めの仮処分が下ったので少し触れたい.

 今の原発行政と電力会社は、火山が近くにあっても「噴火なんてないさ」、断層を指摘されても「断層じゃないよ」、避難計画ができてなくても「後で作ればいいだろ」、という具合に、不安を増加させるような決定ばかりしている.結果的に反原発の気運を後押ししていて、とても愚かだ.皮肉なことに最も反原発をあおっているのは当の電力会社だとすら言える.事実、反原発派の望み通りに運転は止まった.

 新聞の社説などで裁判所を責める記事があるが、真の問題に目を向けず他者攻撃に終始する態度はとても幼稚で、問題解決には逆効果だ.裁判所は「原発が危険」と判断しているわけではなく、「事故対策不足と住民への説明不足」が運転差し止めの理由だ.裁判所が問題なのではなく、社会的同意を怠って世間をなめている電力会社の、社会認識の甘さが問題だと悟るべきだ.これこそ本当の「想定外」だな.

 不安要素を極力廃して、「今動いている原発はこんなに安全です」と胸を張って言えなければ原発存続は不可能な時代になったのだ、と早く気付きなさい.
 (原発再稼働の可否とは関係なく、原発関係者の対応のまずさを指摘しているだけなので念の為.)