国勢調査オンライン・レポート

   .…誰にでも使いやすいシステムか?  (2015年 10月)


 2015年の国勢調査のオンライン版の調査が、9月10日(金)〜20日(日)に行われました。65歳以上が人口の4分の1を超える現代に、1000万人もの人が使うことを想定したシステムとして使いやすいかどうか、主に高齢者・障害者・ネット初心者が使うという視点からチェックしてみました。何人かの知人の操作状況なども聞いて参考にしました。

 画面のサンプルなどは国勢調査オンラインのヘルプを参照してください。なお、各リンク先は調査が終了したら消えるページもあるかも知れません。
 下記の項目はおよそ重大だと感じた順に並べてあります。私の環境は、Windows7+Firefox38ですが、必要に応じてInternet Explorer11でも再ログインして確認しました。


1. 操作ミスは致命傷
 入力ミスなどがあって前のページへ戻ったりしているうちに、うっかりブラウザの"戻る"ボタンを押してしまったら、それまで入力したデータが全部消去され、再び最初から入れ直しとなってしまいました。一瞬呆然となり、もう調査の回答を放棄したくなりました。

 ちょっと操作ミスをしただけで今まで入力したデータが水の泡というのでは、一気にやる気が失せます。"戻る"や"更新"ボタンを押すなと書いてはありますが、人間には間違いがつきものです。システムに禁止事項などをいくつも付けて、説明はしたから後は自己責任、というのは大間違いです。自分の氏名を漢字入力するだけでも苦労するという人は少なくありません。自分たちは間違いだらけのプログラムを作っておきながら、初心者を含むおおぜいの国民にはいっさい間違えないことを求めるなんて、とてもプロの仕事とは思えないですね。

 ここは、押しても何も起きないかエラーメッセージが出るように作るのが正解でしょう。

2. スクロールがいっぱい!
 各ページとも、たいした情報量でもないのに左側に大きく空白が取ってあり、私の環境では全ページで横スクロールが必要となり、とても使いづらいシステムでした。2本の縦スクロールと合わせて、1画面にスクロール・バーが3本という豪華仕様です。
 最初はディスプレイが小さいせいかと思っていましたが、何度か環境を変えてみてやっと原因をつきとめました。私は普段からWindowsの「テキストサイズ」を125%(中)にして、大きめの文字で使っているのですが、これを100%(小)にしたうえで、ブラウザを全画面表示にすれば横スクロールしないで全部表示されることが判明しました。

 Windowsのテキストサイズが"中"や"大"に設定できる以上、変更している人は大勢いるはずです。これを"小"でしか通常動作しないように作ってあるのは、明らかに仕様ミスです。このシステムの作成者がテキストサイズの変更機能を知らないほど勉強不足なら、ソフトウェア作成能力に問題があります。少なくとも私は、たとえフリーソフトを作るときでも3種類のテキストサイズで表示してみて問題がないことを確認します。

 このような超大規模の調査で、特定の環境以外では期待通りに動作しないというのは完成品とは言えません。

3. バグからスタート
 最初の「調査対象者ID」の入力が不可解な動作をします。IDは4桁ごとに3組の文字列なのですが、4桁目を入力するとカーソルが自動的に次の入力欄に移動する「自動移動」の欄と、手動(タブキー)で移動させなければならない欄が混在しています。
 私が最初に入力したときは
  入力欄1 → 入力欄2は手動
  入力欄2 → 入力欄3は自動移動
…という変則的な動作になっていて、初っぱなから妙な動作だなあ、と思いました。
 Firefox・Internet Explorer・Windows10のEdgeのどれでも同じ動きなので、環境によるわけではないようです。

 いろいろな文字列を入れて調べてみたら、入力欄1→2 も入力欄2→3も、末尾が英字なら自動移動、数字なら手動移動となっているようで、どう考えてもプログラム・バグです。私のIDが入力欄1の末尾が数字、入力欄2の末尾が英字なのでこのように動いたことが判明しました。これを見つけたときは、開いた口がふさがりませんでした。
 プログラムを解析するほど暇ではないのでどうしてこうなっているのかは不明ですが、強いて想像するなら、他所のプログラムを流用したためのトラブルでしょうか。新規に作るプログラムでわざとこんな動きをするように作る理由はないと思います。

 調査開始の入り口からバグありとは、情けなさ過ぎます。このレベルのバグを運用前に発見できないようでは、あまりにもテスト不足ですね。開発者の技術力を疑わざるをえないし、総務省の担当者も気づかないというのは確認不足にもほどがあります。

4. 二重配置で親切でしょ
 ページによっては、ページ内とブラウザの両方に縦スクロールバーがついて、操作がわかりにくくなっています。また、ページ移動の矢印が2つ(同一の機能)あったり、「ヘルプ」と「解説を表示する」のボタンが離れたところにあったりと、かえってわかりにくくしています。こういったことは、Webページの設計では割と常識的な禁則事項です。

5. 例示は正しく
 勤め先や仕事内容などの入力欄で改行すると「改行は使用しないでください 」と警告表示されます。でも、入力欄は複数行の領域になっているし、具体例を参照してみるとほとんど複数行になっています。

 「具体例」の一例
←どう見ても改行されているように見えます。しかも中央揃えという不自然さです。
 「システム保守技術者」は普通に入力すれば一行におさまるので、改行して入れるほうが正しいと思ってしまいます。

 改行文字は見えないので、初心者には改行があるということ自体がどういう意味なのかわかりません。特に、行の最後を改行するというのは普通の行為なので、行末だけに改行を入れた人にとっては、「えっ?改行なんて入ってないのに」と戸惑うことになります。

 改行を入れないように強要するのではなく、集計側で改行を取り除く仕様にするのが普通だと思います。いずれにしてもこの「具体例」の例示の不自然さは入力ミスを増やすだけで、ちょっと信じがたい例示ですね。

6. パスワード&パスワード
 最後に、データ修正をするべく再ログインしたい人のためにパスワードの設定をする画面が出ます。でも何を入れるべきかわからず、最初のパスワードを入力したら「違うのを入れなさい」とエラー表示されるのは、あまり気分の良いものではありません。初心者は「また怒られた」と萎縮してしまいかねません。
 ここは最初のパスワードと違うものを入れるように、最初から画面上で説明しておくべきでしょう。初心者が機械に恐怖を覚えるようなユーザー・インターフェースは基本的な禁則事項です。

 そもそもデータを修正したい人がそれほど多いとは思えません。「後日データを修正する」ということ自体に思い及ばないため、このパスワードの設定が何のためのものかを理解できない人は少なからず存在するでしょう。
 8文字以上のパスワードをとっさに考えるということは結構難しいものです。生まれて初めてこんな行為を強いられる人もいるはずで、この仕組みは初心者には全く理解できない可能性があります。やむをえず"1111aaaa"とか自分の名前などを設定してしまう人は多いでしょう。これではかえって安全性を損なってしまいます。

 最初の調査対象者IDといっしょに入力する初期パスワードと同じ「パスワード」という用語を使っていることにも問題があります。最初の画面で入れるのを「パスワード」と呼ぶのなら、再ログイン用は「修正呪文」(笑)などと用語を変えるとか、データを修正する予定のある人だけ「修正呪文」を決めさせるとか、根本的に仕組み自体を変えるべきだと思います。

7. ルールは明示しなきゃね
 全データの入力が完了すると「入力内容確認画面」として電話番号と住所の入力画面になります。しかし、ここの入力が任意であることは、ヘルプを開いてみないとわかりません。たいていのWeb入力システムでは、必須項目が一目でわかるように印が付いているのが常識です。任意だけどそれを明記しなければ、必須だと思って入力する人が増えるだろう…という姑息な思いが透けて見えて、みっともないですね。
 役所などから電話番号がかかってくることを嫌う人は結構いるものです。電話番号まで入れなきゃならないのならやっぱり送るのは止めよう、という人は多いと思います。「入れなくてもいいよ」と入力画面ではっきり伝えておいたほうが回答率は上がるのではないかと考えます。

8. 過ぎにし日々の思い出
 「配偶者の有無」の調査項目は、未婚・配偶者あり・死別・離別の四択になっています。国の政策に活用するのに、なぜ離婚か死別かなどという「過去情報」が必要なのか理解不能です。
 家族を失うことは大半の人にとっては不幸なことで、思い出すのも苦痛だという人もいます。既に20年前の調査で、「配偶者の有無については約50万人が無記入」という状況だったそうです。こういう無意味な調査項目は、以前から問題になっていると聞きます。
 国勢調査に答える義務は法律で決められていますが、このようなアンケートじみた設問に答える義務はないと考えます(個人的見解ですが)。知りたければ民間でサンプル調査をすればいい話でしょう。

 紙で出せば書かなくて済むことをオンラインだと強制的に情報提供させられるというのでは、提出率を下げることにもなりかねません。実際、この項目だけ正直に答えなかったという人もおり、結局信頼性の低いデータしか得られません。こういう項目への回答は任意とする方が情報の精度があがると思います。

9. ヘルプは豪華5本立て
 操作説明は以下の5つの部分に分散しています。
   A. ヘルプ(ボタン):全体の流れの説明
   B. 解説を表示する(文字列と記号):そのページの説明
   C. ?(項目の近くの赤いマーク):各項目ごとの補助説明
   D. 最初のページだけにある文中の「こちら」というリンク:主にトラブル対応などのQ&A
   E. 事業・仕事ページの「具体的な記入例を見る」ボタン:事業・仕事の具体例
 説明は多いほうがいいとでも思っているのでしょうか。それぞれ配置もデザインもバラバラで、とても見つけにくく使いづらい、異様なユーザー・インターフェースです。
 総務省統計局という、「情報を集め整理して提供する」ことのプロの仕事なのに、情報の提示が下手過ぎます。

 特に、Dはただ単にQ&Aをずらずらと並べただけで、知りたいことをすぐ探せるようになっていないし、項目の分類すらされていません。特定のページだけにあてはまる項目でもそのページから参照できるわけではないので、どのように利用してもらうつもりなのか提供意図すら不明確です。
 多くの人はこの中の全部には気づかないでしょう。私は最初「ヘルプ」しか気づかず(横スクロールしないと見えないのもあって)、「全ページを一括した簡易説明しかない」と思い、使いづらいまま終わってしまいました。

 説明は1〜2カ所にまとめ、全部ボタンに統一して配置も整理することは必須でしょう。1カ所にまとめきれない部分はリンクを張るなどの工夫も必要です。

10. 安全過ぎて恐い
 全体に安全・安心をやたらと強調しているという感じを受けました。でもごく基本的な動作チェックすらやってないプログラムや、ウィルス対策ソフトは止めろ(下記)というようなお粗末な対応の、どこをどう信頼したらいいのでしょう。安全をうたいすぎて返ってうさんくさく感じます。

 年金機構の情報漏洩事件では、組織自体が腐りきっているためらしいという報道がされたばかりだし、過去の国勢調査でも調査員が見てはいけない情報を勝手に見るという事態がいっこうに改善されないこともあり、国家機関だからと言ってこんな口先だけの約束では納得できません。
 「Q.インターネット回答した情報が他人に見られる心配はないか」という質問に対しては、「システムがこのように作られています」という的外れな回答しかされていません。心配の解消には全くつながっていないので、情報が他人に見られる心配はあると解釈するしかないですね。

 安全・安心を必要以上に強調するのではなく、システムの完成度を高めることで安心感を示して欲しいと思います。

11. エンターのゲーム?(説明文の用語の揺れ)
 最初のページの「重要なお知らせ!」のQ&Aの「勤め先・業主などの…(中略)…次へ進めない。」"の中の一文に、
   "……(改行はenterキーで入力されます。)最後の文字を入力し、文字変換を確定する際に、誤ってEnterキーを……"
とあり、表記(enterとEnter)が同一の文章の中でさえ異なっています。応急的に書いたようなとてもずさんな仕事ですね。たまたま見つけただけなので、探せば他にもたくさんこの手のミスがありそうです。
 そのすぐ下には「DELキー」という表記がありますが、Deleteなどの表記のPCもあります。利用者全員がDELとDeleteを同一のキーだと認識できるとは限りません。

 初心者は、こういうごく細かいところにもつまずいて前へ進めなくなるものです。ソフトウェアの説明書の作成やサポートの経験がある人にはよく知られた事実でしょう。この文章はソフトウェアのプロが書いたものではなさそうです。説明文もきちんと用語統一する努力を惜しむべきではありませんね。

12. 半角の強制
 ヘルプには、「数値フィールドに全角を入れず、半角に変換して入れろ」などと書いてあるのですが、全角を入れないように強要するのではなく、集計側で半角に変換すれば済むはずです(異論はあるかも)。これもWebフォームの悪い設計としてよく指摘される例です。初心者も使うということを考慮に入れるべきでしょう。

13. 変な文字になる〜〜〜
 パスワード欄に文字を入れると●が表示されます。慣れた人なら問題ないですが、こういった入力では必ず「打鍵した文字と違う●が表示されて、正常に入力できない」と思ってしまう人がいます。実際に、ソフトウェアのインストール時などにそういうクレームを受けた話をたびたび聞いたことがあります。「安全のために伏せ字になっている」との説明文を入れるべきでしょう。

 ヘルプには入力した後の画面例を乗せ、●●●●という表示は正常であることを示しておくとよいと思います。(これはわかりやすいヘルプを書く際の定石です。)

14. 最新環境は嫌い
 この調査ではWindows10もEdgeブラウザも非推奨です。そもそも「推奨環境」とは何を意味するのか、非推奨でも使って良いのかどうかも不明です。Windows10のPCに買い換えた人はオンライン回答できないのでしょうか。
 Windows10の正規版がリリースされて1ヵ月以上経っているので、正常に動くかどうかの検証時間は十分にあったはずなのに、ここに触れてないのは情報不足でしょう。他人の情報を集める仕事なんだから、自分たちの情報もきっちり公開しないとね。

15. 閉じられないウィンドウ
 全部の入力を終えて作業を終了した後、ブラウザを閉じてもヘルプのウィンドウ画面が閉じず、どうやっても消せなかったという事例がありました。やむをえずパソコンの電源を切ったそうです。

16. ウィルス対策ソフトは止めて使え?!
 こちらのサイトで、特定のウィルス対策ソフトのある環境では入力できないという問題を知りました。
 わずか10日間の間に改修することは難しいかも知れませんが、対応方法として「一時的にウィルス対策ソフトを無効にせよ」というのはあまりにも無責任な指示です。回答をしている間の数十分ならウィルス対策ソフトを無効にしても危険ではないということを、誰が証明したのでしょうか。それにそもそも、ウィルス対策ソフトを無効化する方法なんて普通の人にはわかりません。

 この場合、プログラムの不備をわびて今回は紙で提出するように頼むしかないでしょう。他ではさんざん、迷ったら紙で提出せよと指示しているのに、この場合だけ利用者の安全を無視して調査結果の入手を優先しています。プログラムの不備を認めたくないという傲慢さが感じられます。

 ウィルス対策ソフトと調査システムのどちらに問題があるのか不明なのと、私が見つけた不具合ではないので、最後に書きましたが、総務省のこの対応は今回の調査の中でも特段に誤った対応です。総務省には猛省を促したいと思います。

 


【考察】

 以上、国勢調査オンラインをより使いやすくしてもらい、国民に役立つデータを得られるようにするため、今後の調査の役に立てばと思って書きました。