パソコンを利用した字幕上映 運用メモ

Kengo Jinno
<KHB04045@nifty.ne.jp>
Feb. 7, 2004


1. はじめに

本ドキュメントは、一般映画館などでのパソコンを利用した字幕付き上映のシステムについて、メモとしてまとめたものです。 「シンプルなビデオ字幕システムの構築とその使用法」[1] と重複する部分も多くありますので、あわせてご覧ください。

なお、取り上げている各ソフトの説明は、原則として「執筆時の最新バージョン」を元にしています。 それ以前のバージョンやそれ以降のバージョンでは、機能や設定方法に違いがある場合もありますので、ご了承ください。


2. 概要

YAT以外でも、Microsoft[3] PowerPointやEcriture[4] などでも同じような仕組みを用いて行なうことができますが、データの形式・作成方法がまったく違いますのでここでは触れません。

2.1 OHP方式との比較


3. 字幕テキストファイルの作成

3.1 テープ起こし

聞こえた音声を、基本的にすべて文字に起こします。

複数の人で分担して作業する場合は、後の加工のことを考えてあらかじめファイル名や表記のルールを統一しておくといいでしょう。

3.2 要約・整形

まず最初に、「1画面を何文字×何行にするか?」を決定し、その範囲内に収まるように、テープ起こししたテキストを要約・整形していきます。

やむをえず、台詞が次の画面に続くような場合は、「続きがある」ことを矢印で示したりします。

.PA
明日の集合時間は8時です。
出発は8時半の予定ですが→
.PA
あまり余裕がありませんので、
時間厳守でお願いします。
.PA

3.3 コマンドの埋め込み

「800×600のパソコン用 15文字×2行 横書き 縁取りあり」という条件での例ですが、次のようなコマンドを先頭に挿入します。

.BC(000000)
.TC(FFFFFF)
.OC(0000FF)
.OL(2)
.FV(0)
.FS(0,45)
.WZ(60,465,690,120)
.PA

各コマンドの意味*1 は、次の通りです。

.BC(000000) 背景を黒にする
.TC(FFFFFF) 文字を白にする
.OC(0000FF) 縁取りを青にする
.OL(2) 縁取りを2ドットにする
.FV(0) 横書きにする
.FS(0,45) 文字サイズを45ドットにする
.WZ(60,465,690,120)(60,465)の位置から(690,120)の範囲に表示する
.PA 最初のページの終わり

その他に考えられるバリエーションとしては、次のようなものがあります。

見やすさを考慮して、次のような変更を加えることもあります。

文字サイズやウィンドウの位置・サイズの調整は、数値を計算してコマンドを書き換えるよりも、実際にYATの画面に表示させてYATの側で適切な位置・サイズに調整*2 したあとで、その属性*3 を調べてコマンドに書き写す方が早いでしょう。 たとえば、次のような画面をデータの最初の方に入れて表示させ、調整します。 これは、実際の現場での調整時にも役立ちます。 (18文字×3行の場合の例)

.PA
18文字×3行に統一したデータです。
この範囲が表示されるように□□□□□
調整してください。□□□□□□□□□
.PA

パソコンの画面の端までいっぱいに使って表示するようにしていると、いざ投影してみた時に、スキャンコンバータやプロジェクタの関係で端の方が切れてしまう(表示されない)ことがあります。少し余裕を持たせておいた方が無難です。

*1 付録や、YATのドキュメントも参照してください。

*2 YAT側でのウィンドウサイズの調整は、「ウィンドウ枠線」を表示した状態でないとできません。

*3 メニューの[設定(S)][現在の属性を表示(A)...]

3.4 確認・修正作業

本番と同じセッティングにして、音声を聞きながら順次表示させて確認し、データを修正します。

[縦書きのサンプル]

何を言っているのか、誰が話しているのか、音声だけでは聞き取りにくい・判断しにくい場面でも、映像を見ると簡単にわかる場合があります。 できれば音声だけでなく映像も見ながら確認した方がいいでしょう。

シーンが切り替わったり間があるような場面では、その旨をコメントで目立つように書いておくと、本番の時に見当がつきやすくなります。

.CM ★海を背景に灯台
.CM ★海岸を歩く2人(約20秒)

*4 「行なって/行って」(おこなって)、「コンピュータ/コンピューター」など。


4. パソコンのシステム

まず、基本的なシステムです。ここではまだ予備系統のことは考えません。

4.1 2台で運用する

データを送り出すパソコン(送出機)と、それを受けて表示するパソコン(表示機)を、RS232C クロスケーブルで接続して運用します。

[2台のシステム構成図]

*5 他のウィンドウが前面に出てしまった、など。

4.1.1 表示機の設定

デスクトップのアイコンなどをCover[2] で隠し、その手前にYATを配置し、字幕画面とします*6

  1. YATを起動する。 この段階で、送出機からデータを送って、正しく表示されるのを確認しておきます。
  2. Coverを起動する。
  3. Alt+TABCoverを選択。 (これでCoverが一番手前になる)
  4. 続いて、Alt+TABYATを選択。 (これでCoverの手前にYATが来る)

セッティングが済んでしまえば、もう表示機を操作する必要はありません。

Coverの手前にYATを配置
  • Alt+TABで操作するのは、慣れてないと難しいかもしれません。データファイルの先頭に「.TM(1)」コマンドを埋め込んでおくと、YATが「常に手前」に表示されるようになるので、Alt+TABを使わなくても済みます。

*6 画面全体が確実に投影される組み合わせなら、Coverを使わずにYATを最大化する方法もあります。

4.1.2 送出機の設定

  1. R-YAT[2] を起動する。
  2. 作成したデータファイルを開く。
  3. F9を押して送出し、表示機に表示されるのを確認。

4.2 1台だけで運用する

データの送出と表示を1台で兼用します。 送出ソフトが投影されないように、なんらかの対策が必要です。

[1台のシステム構成図]

「送出ソフトを隠す」ための方法はいくつかありますが、ここではまず「プロジェクタのレンズの前に光を通さない板を置き、光の一部を遮る」方法をとります。

  1. YATを起動する。 [実行(E)][DDEから読み込む(D)]がチェックされているのを確認。
  2. den_neko[2] を起動する。 [YAT]が選択されているのを確認。
  3. [伝猫]ボタンを押す。den_neko内蔵のCoverウィンドウが開き、その手前にYATが配置された状態になる。
  4. スクリーンに投影して「映る位置」(光が遮られない部分)にYATを移動させ、「映らない位置」(光が遮られる部分)にden_nekoを移動させる。

4.2.1 送出ソフトを隠す方法

*7 アルミなどの金属板がお勧めです。ただし、光を強烈に反射してしまいます。

*8 光の漏れ(反射)対策も大変になります。

*9 [制御(C)][R-YATを隠す(W)...]

4.3 予備系統

トラブルが発生した場合でも、即座に予備の系統に切り替えて続行できるように、あらかじめ準備しておきます。 どの箇所で切り替えるかは、いくつか考えられます。

予備系統の側でも、同じようにソフトの設定をし、進行に合わせて同じように表示を進めておきます。 そうでないと、トラブルが発生してから「いまどこなのか?」を探していたのでは、時間がかかってしまいます。

「プロジェクタの手前で切り替える」場合、同じデータを使っていてもスキャンコンバータを切り替えると映る位置が変わる場合があるので注意してください。 どちらに切り替えてもほぼ同じ位置に投影されるように、あらかじめYATのウィンドウ位置を調整しておきます。

最近のプロジェクタ事情
  • 最近のプロジェクタは、パソコンを直接接続でき、スキャンコンバータが不要なものが多いです。 荷物を減らせますし、スキャンコンバータを使うよりも高画質なので、可能ならパソコンを直接接続することをお勧めします。
  • 入力端子が複数あれば、そこに表示機を接続してプロジェクタ側で切り替えることもできますが、切り替えた時に画面の隅に「どの入力端子を選択しているか」表示されたりするのが難点です。

*10 プロジェクタのランプは消耗品です。

4.4 ソフトの組み合わせ

「これとこれでないと動作しない」ということはなく、いろいろな組み合わせが考えられます。

4.4.1 基本的な組み合わせ

*11 den_nekoTTSにデータを渡し、TTSが表示機のYATにデータを渡す。

*12 送出機の通信ポート、表示機のYATで指定したボーレイトを選択。

4.4.2 手入力を併用する組み合わせ

ほとんどデータ通りに進むが、ところどころアドリブが入る演劇で字幕表示するような場合、データを送出しての表示をメインとし、アドリブの部分だけを手入力するようにします。 ここでは、LANを使ってシステムを組むことにします。

[LANを使い手入力を併用するシステム構成図]

送出機からは、これまでの例と同じようにデータを送出します。 入力機から入力する時は、送出機からのデータ送出を中止して画面をクリアした後で入力します。

YATの表示はスクロールしないので、あまり長く入力すると表示しきれなくなります。だいたい1画面分入力したら、送出機側からクリアコマンドを送って消去し、最初から表示されるようにします。 また、コマンドまで手入力する余裕はないでしょうから、入力機から表示色を変更したりするのは難しいでしょう。

*13 表示機のIPアドレスと、ポート番号23を指定する。


5. 準備〜本番での運用

5.1 当日以前の準備

*14 テーブルタップなどは不足しがちです。

5.2 セッティングに必要な時間

会場や設備、使う機器などによって違ってきますので、だいたいの目安と考えてください。

いずれにしても、あらかじめ「こういう機材はありますか?(使わせてください)」「こういうものを持ち込みます」「これぐらいの場所がいります」などと交渉しておくとスムーズに進むでしょう。

5.3 セッティング

*15 布製のガムテープを使うのがいいでしょう。紙製のガムテープは撤収時に剥がすのが面倒です。

5.4 その他の注意点

5.5 明るすぎる問題

5.5.1 鑑賞の妨げにならないように

映画が上映される会場では、全体の照明が落とされ、ほとんど真っ暗になるはずです。 そんな中でのパソコンの明るい画面は、観客席からは非常に目立ちます。

光は反射するので漏れを完全に抑えるのは無理ですが、観客席からはなるべく余計な光が見えないようにします。状況が許せば、パソコン類は舞台の袖とか会場の一番後ろとか、観客席からは全く視界に入らない場所にセッティングするのが望ましいでしょう。

プロジェクタにも同じことが言えます。 投影の原理上、光を出さない訳にはいきませんし、また設置場所をあまり移動させられませんが、必要以外の余計な光が漏れないようにします。 壁際に設置したりしていると、その壁が明るく照らされてしまうことがあります。 このような場合は、スクリーン方向に向かってだけ光が出て行くように段ボールで覆うなどして、光の出ていく範囲を制限した方がよいでしょう。

*16 かといって一番前で観客席に正対してしまうと、「顔だけが明るく照らされている」状況にもなりかねません。

5.5.2 操作者の目の負担

また、パソコンの操作者にとっても、周囲が暗い中でパソコンの明るい画面を見続けるのは目に負担がかかります。

*17 [スタート][設定(S)][コントロール パネル(C)][画面]で「画面のプロパティ」を開き、[デザイン]タブの[配色(S)]

5.6 暗すぎる問題

それとは逆に、暗すぎるために作業がしづらい面もあります。

これも、セッティング場所が舞台の袖などであれば、充分に明かりを使うことができます。

*18 それでも使うのは最小限に。

5.7 本番

データは何度も見直し・確認されているはずですが、全面的にそれを信頼して何も考えずに送出していけばいいとは限りません。

というようなこともあります。 事前に充分チェックしておけば防げることではありますが、本番でも内容を再確認していくつもりで進めていきます。 続けて上映があるのなら、1回目が終わった後で間違いを修正し、2回目にはより正確な表示にすることもできます。

また、送出担当以外の人も、予備のパソコンや印刷したテキストで平行して確認し、実物との食い違いを見つけたら送出担当者に適切な助言*19 をできるように備え、また、後で修正できるように食い違い箇所をチェックしておきます。

*19 「ここまで飛んだ。」とか。

5.8 撤収

「現状復帰」が原則です。

セッティングに比べればまだ余裕がある場合が多いですが、時間の制限が厳しい場合もあります。たとえば映画館では休憩時間の間に観客を入れ替えますから、次の上映が始まるまでには撤収を済ませなければなりません。

終わってから撤収を始めるのではなく、それ以前にも、手が空いている人は不要な機材を片付けたり、まとめたりするようにします。


A. 付録

A.1 YATコマンド

テキストコマンド
.. 行頭にピリオドのあるテキスト
属性系(画面単位)コマンド
.fs(0,Size) フォントサイズの指定(0:横書き/1:縦書き)
.ff(0,Name) フォント書体名の指定(0:横書き/1:縦書き)
.fv(1) 文字表示方向指定(0:横書き/1:縦書き)
.bc(ffffff) 背景色の指定
.wz(X,Y[,W,H]) ウィンドウの位置とサイズ
.il(10) 行間空き(0:なし/1〜:文字高さのパーセント)
.rb(1) ルビの表示(0:なし/1〜:表示レベル)
.hc(ffffff) 背景の格子模様の色
.ht(1) 格子模様の形式(0:表示しない/1〜6:形式)
.hs(1) 格子模様のサイズ(0:表示しない/1〜:サイズ)
.tp(1) 透過背景(0:透過しない/1:透過する)
属性系(行単位)コマンド
.tc(ffffff) テキスト色の指定
.ol(1) 縁取りの幅(0:なし/1〜:ピクセル数)
.oc(ffffff) 縁取りの色
.op(1) 縁取りの塗りつぶし(0:しない/1:する)
.ic(1) インラインカラー(0:使わない/1:使う)
.rc(1) ルビコマンド(0:使わない/1:使う)
属性系(ウィンドウ単位)コマンド
.tm(1) 常に手前に表示(0:しない/1:する)
Wait系コマンド
.wt(9999) 指定された時刻になるのを待つ
.ws(9999) 指定された時間だけ待つ
.wk キー入力を待つ
.wm マウスクリックを待つ
.wb キー入力かマウスクリックを待つ
制御系コマンド
.rf 基準時刻の設定
.cl テキストをクリア
.ex(file) fileを実行する
.ld(file) fileを読み込む
.qt 停止する(データ解釈の中止)
その他のコマンド
.du(1) データ終端での描画(0:許可/1:禁止)
.cm コメント
.pa 何もしない(ページ送信)
.dc(ffffff,Name)色名称の定義

A.2 インラインコマンド

$(テキスト)<文字色><縁取り色>インラインカラー (<縁取り色>は省略可)
#(テキスト)<ルビ><レベル>ルビ (<レベル>は省略可)

参考文献

[1] Kengo Jinno, シンプルなビデオ字幕システムの構築とその使用法 (1999-2000)
http://www.vector.co.jp/authors/VA006163/pccap/doc/vcap.htm
[2] じんのの部屋
http://www.vector.co.jp/authors/VA006163/
[3] Microsoft JAPAN
http://www.microsoft.com/japan/
[4] 字幕映像メーカー Ecriture
http://www.vector.co.jp/soft/win95/art/se078657.html