身体障害者スポーツ大会でのPC要約筆記記録

身体障害者スポーツ大会でPC要約筆記を実施した以下の大会の記録です。 大会実施委員会の公式記録ではなく、あくまで私(神野)個人の覚え書きです。

補足説明

元々は、96年の開催地である広島市の要約筆記サークル“おりづる”さんとの 事前打合わせ用資料として作成したものに、広島大会の記録を追加したものです。

一部に、キャラクタを使って描いた図が入っています。 表示が乱れてしまう場合は、 等幅フォントを使えばきちんと見えることもありますが、 どうしてもダメな場合もあるかと思いますので、この点ご了承下さい。


用語解説

FHAND
パソコン通信サービスNIFTY SERVEにある「障害者フォーラム」のこと。
身スポ
全国身体障害者スポーツ大会
まごのて
要約筆記等研究連絡会まごのて(名古屋市)
JC
青年会議所。毎年、開催地地元のJCが後夜祭を担当している。
ユーラックス
超近距離キーボード会話システム。 同時に8台までのパソコンを接続して会話(擬似チャット)システムを構成するコントローラ。
OHC
オーバーヘッドカメラ。ビジュアルプレゼンターという呼称もあり。 手書きあるいは原稿を上から撮影してTV画面に映し出す装置。

はじめに

これまで身スポで実施したパソコン字幕システムについて次の3つに分けてまとめ、 96年の広島大会に向けての検討材料とする。

それぞれについて、以下の項目に分類。

【システム構成】
パソコン字幕システム(入力から画面まで)はどのような構成だったか。
【人員】
操作要員の配置や分担。
【入力者向け音声系】
聞き取る対象の音声をどのように入力者に提供したか。
【入力者向け映像系】
現場の状況を知るための映像をどのように提供したか。
【パソコン字幕出力系】
ビデオ信号(映像信号)への変換に使った機器。
【最終出力装置】
最終的に字幕を映し出した機器。
【問題点】
現場で発生した主な問題。
【対策案】
その解決方法。

愛知大会(94年) 陸上競技

【システム構成】

3つのシステムを構築。それぞれ「トラック」「投てき」「跳躍」を担当。 各システムごとに以下の図のように接続。(つまりこれが3セット)

(※図16行)
                          +---+                  --:ビデオ信号
                   +------|   |OHC            ==:RGB信号
                   |      +---+                  ##:RS232C
                   |                機器準備
  大画面TV       |          まごのて←:→FHAND
    +---+          |                    :
    |   |--------< ←ビデオ信号切替器  :
    +---+          |                    :            +---+
                   |                    :    ########|   |入力用パソコン1
                   |                    :    #       +---+
                   |      +---+  +---+  :  +---+
                   +------|   |==|   |#####|   |←ユーラックス
                          +---+  +---+  :  +---+
                           ↑     ↑    :    #       +---+
               スキャンコンバータ |    :    ########|   |入力用パソコン2
                        出力用パソコン  :            +---+

出力用パソコンから左をまごのて側で準備。ユーラックスから右をFHAND側で準備。 OHCとパソコン字幕は、市販のビデオ信号切替器を使って手動で切り替えた。

【人員】

パソコン入力要員はFHAND。OHC要員はまごのて。 各システムごとに、パソコン2名、OHC1〜2名。 パソコン入力要員の内訳は、東京・神奈川・愛知・三重・大阪・広島各1名ずつ。

【入力者向け音声系】

場内放送の音声ラインをもらい、まごのて側で準備した赤外線送信機から、 各自が着用したコードレスヘッドホンに配分。

【入力者向け映像系】

まごのて側で準備したビデオカメラで競技場の様子を撮影し、 入力現場まで引いて来て、モニターに映し出した。

【パソコン字幕出力系】

まごのて側で準備したパソコン(PowerBook)にスキャンコンバータ (RGB→ビデオ信号変換器)を使用。ソフトはEgTalk(通信ソフト)。

【最終出力装置】

スタンドに設置した大画面TV31インチ3台(1システムごとに1台)。

【問題点】

  1. 聴覚障害者の指定席付近に出力TVが設置されていなかった。
  2. 一度座ってしまうと、わざわざTVのところまで移動する人は少ない。
  3. スタンドが広いので、字幕出力していることがわかりにくい。
  4. 結果的に晴天だったが、TVの設置場所が屋外であり、雨天時にどうするか?

【対策案】

  1. ビデオ信号を分配してTVの設置台数を増やす。
  2. (同上)
  3. 事前の宣伝に力を入れる。当日は大きな看板を使って目立たせる。
  4. 大雨では競技自体が中止。小雨であればヒサシの下、ビニールシートなど。

愛知大会(94年) 後夜祭

【システム構成】

1システムだけ構築。入力用パソコンは6台接続。 (入力用パソコンの接続台数が違うだけで構成は同じなので、図は略)

【人員】

陸上競技と同じ。 挨拶や歌詞は事前原稿があったので、その場で手入力せずに、 テキストファイル化した原稿をそのまま送出した。

【入力者向け音声系】

システムは陸上競技と同じ。 音声ラインの提供元は、会場の音声映像担当の愛知電子。

【入力者向け映像系】

音声系と同じく、愛知電子からもらい、モニターに映した。

【パソコン字幕出力系】

陸上競技と同じ。

【最終出力装置】

会場内の各地に設置した大画面TV。すべて同じ内容を表示。 メインステージに40インチ4台、イベントステージに37インチ2台、 展示室(2号館)に37インチ2台、白鳥ホール(4号館)に37インチ2台、 オアシス広場に37インチ2台。(以上、一部推定)
マルチビジョン(3×3)のうち1画面。
各装置への信号分配は、恐らく愛知電子の協力と思われる。

【問題点】

  1. パソコン側の問題により、一時システムが停止してしまった。

【対策案】

  1. 操作上の手順や注意事項をマニュアル化して徹底させる。

福島大会(95年) 後夜祭

【システム構成】

1システム構築。入力用パソコンは4台接続。

(※図18行)
                                       --:ビデオ信号
     大画面TV       機器準備         ==:RGB信号
        4台    福島JC←:→FHAND     ##:RS232C   入力用パソコン
        +---+             :                               +---+   4台
        |   |---------+   :                     ##########|   |
        +---+         |   :                     #         +---+
        +---+         |   :                     #         +---+
        |   |---+     |   : スキャンコンバータ  #     ####|   |
        +---+   |   +---+ :  ↓               +---+   #   +---+
                +---|   | : +---+    +---+    |   |####
  ビデオ信号分配器→|   |---|   |====|   |####|   |←ユーラックス
                +---|   | : +---+    +---+    |   |####
        +---+   |   +---+ :           ↑      +---+   #   +---+
        |   |---+     |   :     出力用パソコン  #     ####|   |
        +---+         |   :                     #         +---+
        +---+         |   :                     #         +---+
        |   |---------+   :                     ##########|   |
        +---+             :                               +---+

ビデオ信号にするまでをFHAND側で準備。ビデオ信号以降は福島JC側で準備。 福島JCに用意してもらった設備は、設置を含めて恐らくレンタルだと思われる。

【人員】

パソコン入力要員の内訳は、東京・愛知・大阪・広島各1名ずつ。 挨拶や歌詞は事前原稿があったので、その場で手入力せずに、 テキストファイル化した原稿をそのまま送出した。

【入力者向け音声系】

特になし。会場向けのPAスピーカーの音を直接聞いて入力。

【入力者向け映像系】

会場の音声映像担当のNHKからもらい、モニターに映した。

【パソコン字幕出力系】

Windowsパソコンに字幕出力用ソフト(FHAND会員作)を使用し、 スキャンコンバータでビデオ信号にした。

【最終出力装置】

ステージ手前に設置した大画面TV4台。

【問題点】

  1. 入力場所がスピーカーの側面〜後であったため、音声が聞き取り難かった。
  2. 大画面TVの前に人が立ち、ろくに見えない状況になってしまった。

【対策案】

  1. 入力者にはヘッドホンで音声を提供する。(事前の打合わせ不足)
  2. 安全面などに問題なければ、高い位置にTVを設置する。

広島大会(96年)に向けて


広島大会(96年) バレーボール

【システム構成】

1システム構築。入力用パソコンは5台接続。

(※図18行)
                      機器準備         --:ビデオ信号
            館内既存設備←:→FHAND     ==:RGB信号
                          :            ##:RS232C  入力用パソコン
  大型表示装置            :                               +---+  5台
    +-----+               :                     ##########|   |
    |     |               :                     #         +---+
    |     |               : スキャン            #         +---+
    +-----+               : コンバータ        +---+   ####|   |
       |     館内調整室   :  ↓               |   |####   +---+
       |       +---+      : +---+    +---+    |   |       +---+
       |       |   |--------|   |====|   |####|   |#######|   |
       +-------|   |      : +---+    +---+    |   |       +---+
               |   |--+   :           ↑      |   |####   +---+
               +---+  |   :   出力用パソコン  +---+   ####|   |
         館内カメラ   |   :                   ↑#         +---+
           +---+      |   :         ユーラックス#         +---+
           |   |------+   :                     ##########|   |
           +---+          :                               +---+

ビデオ信号以降は、会場である県立体育館の既存設備を利用。

【人員】

パソコン入力要員の内訳は、東京3名広島2名。 事前原稿のある挨拶等はテキストファイル化した原稿をそのまま流した。

【入力者向け音声系】

会場の音声映像担当の北辰映電からアンプと人数分のヘッドフォンを貸し出してもらったが、 館内放送の直接の聞き取りが良好だったためほとんど使用しなかった。 また、入力場所のすぐ隣がアナウンス席で、アナウンサーとの連携も容易だった。

【入力者向け映像系】

入力場所がコート面であり直接見ることができるため特に必要なかった。 また、頭上の大型表示装置を見上げることも可能であった。

【パソコン字幕出力系】

Windowsパソコンに字幕出力用ソフト(FHAND会員作)を使用し、 スキャンコンバータでビデオ信号にした。

【最終出力装置】

会場の既存設備である、天井から吊り下げ設置されている大型表示装置(4面)。 通常は館内カメラで撮影した会場内の様子(試合風景等)が映し出されていて、 アナウンスがあった時(字幕入力した時)に調整室でのワイプ操作により画面下 4分の1程度に字幕(3行)を表示。
スーパーインポーズも可能であったが、見やすさを考慮して結局ワイプを使うことになった。

【問題点】

  1. ワイプのサイズ(字幕の文字サイズ)の調整に手間取った。
  2. 表示行数が少ないため一度に多量のテキストを打ち込むと一気に流れてしまう。

【対策案】

  1. 出力用パソコンの個体差もあるため仕方ないか?
  2. 設置環境を考慮した入力を心掛ける。

広島大会(96年) 後夜祭

【システム構成】

AゾーンステージとDゾーンステージに分けて、2システム構築。

(※図14行)
               機器準備                 --:ビデオ信号
        広島JC←:→FHAND              ==:RGB信号
                  :                     ##:RS232C
   大画面TV     : スキャンコンバータ
     +---+        :  +---+
     |   |-----------|   |==+               +---+
     +---+        :  +---+  ‖      ########|   |入力用パソコン1
        +===================+       #       +---+
       ‖  +---+  :               +---+
        +==|   |##################|   |←ユーラックス
           +---+  :               +---+
          出力用  :                 #       +---+
         パソコン :                 ########|   |入力用パソコン2
                  :                         +---+

Aゾーンでは入力用パソコンが3台で、大画面TVと並列に液晶プロジェクタ。

【人員】

パソコン入力要員の内訳は、東京3名広島2名。 Aゾーンでは事前原稿のある挨拶等はテキストファイル化した原稿をそのまま流した。

【入力者向け音声系】

ヘッドフォンも用意されていたが、 どちらも入力場所がステージのPAスピーカの真正面でかなりの大音量であり、 あまり使う機会がなかった。Dゾーンでは全く使えなかった。

【入力者向け映像系】

なし(目視)。

【パソコン字幕出力系】

Windowsパソコンを準備してもらい、 字幕出力用ソフト(FHAND会員作)を実行させた上でスキャンコンバータでビデオ信号にした。

【最終出力装置】

ステージ脇に設置された大画面TV。Aゾーンでは液晶プロジェクタも併用。

【問題点】

  1. 特にDゾーンが極めて大音量だったためかえって聞き取り難くく、 また聞き取りに集中している入力者の耳への悪影響が心配された。
  2. 大画面TVが要約筆記(OHC)の出力TVと並べられていた意図が不明。
  3. 観客が邪魔になってステージの様子の確認(誰がしゃべっているのか等) が困難なことがあった。
  4. 同じく観客が邪魔になって、字幕画面が見づらい状況になった。
  5. ステージに向けられたライトで液晶プロジェクタの投影スクリーンが照らされ、 ほとんど見えなかった。(Aゾーン)

【対策案】

  1. 音量と明瞭度は別物であることを会場準備側に認識してもらう。 状況によっては入力者の安全確保のため入力作業を中止し現場から避難することも考慮する。
  2. ステージの左右に分けて設置した方がよかったのではないか?
  3. カメラ・モニターの手配。
  4. 観客の排除、TVを高い位置へ設置等。
  5. TVと並べて設置するのであれば不必要。

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