パソコンを利用したビデオ字幕システムの概要

Kengo Jinno
<KHB04045@nifty.ne.jp>
Mar. 20, 2001


1. 作業の手順

字幕入りビデオの作成は、おおむね次のような手順で行なわれます。

  1. テープ起こし
    音声を聞き取って文字に起こします。
  2. 文章の編集
    1画面内での文字数を考慮し、文章を要約したり表示のタイミングを検討します。
  3. テープへの字幕入れ
    元の映像と字幕とを合成し、字幕入りビデオを完成させます。

これらの作業は必ずしもこのように明確に分かれるとは限りません。 最初から要約する前提であれば、テープ起こしの段階で要約してしまうこともあるでしょうし、字幕入れ作業とタイミング取り作業を同時に行なうこともあるでしょう。


2. テープ起こしについて

基本的には、音声をすべて文字に起こします。

この作業でのパソコンの利用には次のようなことが考えられます。

*1 プロの方は足で操作できるデッキを使ったりもします。


3. 文章の編集について

読み取りを考慮して、要約したり簡略化したりします。 しかし「全部書いて欲しい」という希望も少なからずありますし、 ビデオの場合は一時停止や巻き戻しができるわけですから、 要約は必須ではないでしょう。


4. テープへの字幕入れについて

パソコンを使ったビデオ編集には、リニア編集ノンリニア編集の二つの方法があります。 パソコンに限らない一般のビデオ編集ではリニア編集が主流ですが、パソコンを使う場合はノンリニア編集を指すことが多いです。

どちらの方法でも字幕入れを行なうことができますが、現状で総合的に判断するとビデオ字幕にはリニア編集が適しているでしょう。

4.1 ノンリニア編集

すべての映像をパソコンに記録してパソコン上で編集・加工し、最終的に完成したものをテープに落とす*2 方法です。 すべてがパソコン上に記録されているので、どのような編集や特殊効果でも可能*3 なことが特徴です。 例えば、ネガ・ポジ、映像の一部分だけの切り出し・挿入・並べ替え、ある範囲だけをスロー・早送りにする、色調の変更、モザイク処理、別の映像を重ねる等、基本的に何でもできます。

欠点としては、データ量が膨大になるため、長時間の映像の編集はかなり困難な点があげられます。 S-VHS程度の品質で毎秒約2MB、1時間で約8GBものディスクが必要になりますし、それだけのデータ量に対応できる処理速度も必要です。 数分〜数十分程度ならともかく、1時間を超えるような長さでは(現時点では)かなり画質を落とさない限り難しい*4 です。

しかも、ノンリニア編集に充分な環境を準備できたとしても、ビデオ字幕で必要な機能はせいぜい「別の映像(字幕テロップ)を重ねる」程度でしかなく、 苦労が多いわりにメリットが少ない感があります。

*2 テープではなくCD-Rに焼いたり、ファイルのままネットワーク上で配布することもあります。

*3 極論すれば、すべてを手描きしてもいい。

*4 将来的には解決されて、ノンリニア編集が主流になっていくのは間違いないでしょう。

4.2 リニア編集

最も単純な方法で、ビデオデッキを2台接続して、一方で再生したものを同時にもう一方で録画していく方法です。 パソコンの利用目的は、字幕テロップの映像を出力して合成したり、デッキのコントローラー役です。

基本的には、ダビングしつつそこに字幕テロップを重ねていくだけです。 そのためパソコンにはそれほどの能力は要求されず、普及機クラスで充分です。

難しいのは、映像と字幕とのタイミング合わせです。 ビデオデッキ側の再生・録画はパソコン側とは無関係に進んでいきますから、 パソコンの方でうまくタイミングを合わせて字幕テロップを表示させる必要があります。 また直線的*5 にしか編集できないので、途中で失敗すれば最初からやり直しになります。

もちろん、ビデオデッキとパソコンを接続してパソコン側からデッキを制御する方法もあります。 テープ上にタイムコード*6 を記録できるデッキとそれを取り込めるパソコンならば、タイミング合わせも楽になります。 しかし、こうした制御が可能な機種はそれほど一般的ではありません。

*5 “直線=リニア”です。ノンリニアならば任意の位置を編集できます。

*6 テープ上の絶対位置を表わす値。


5. 字幕入れに必要なハードウェア・ソフトウェア

現時点で現実的なリニア編集に絞ります。

[構成図]

5.1 ハードウェア

再生側ビデオデッキから入ってくる映像の上にパソコン側で作成した字幕テロップの映像を重ねて(スーパーインポーズ)出力できる装置が必要です。 パソコン本体に組み込むタイプの装置もありますが、その場合は専用ソフトしか使えないことがあるようです。

パソコン本体に組み込むのではなく外付けする装置として、次のような製品があります。

この他には、パソコンとビデオデッキが2台(再生用と録画用)必要になります。 パソコンは、 Windows または Macintosh が適しているでしょう。

5.2 ソフトウェア

これら(TU-TX100以外)の装置を使う場合のソフトウェアですが、「パソコンの画面をスーパーインポーズするだけ」なので、各製品に付属するものでなくても使えます。 ソフトの条件としては、「全画面を黒にした上に文字を表示*7 できる」ことです。

Windows環境では、次のようなソフトがあります。 どれも「字幕テロップを表示する」ソフトで、ビデオデッキを制御するような機能はありません。

*7 背景の黒い部分に映像が入ります。

5.3 実際の手順

  1. 1画面で表示する文章を決め、テキストファイルからテロップソフトに流し込みます。
  2. 各シーンごとに、文字サイズや色や位置、必要ならばスクロール等も設定します。 ソフトによっては、表示・消去等タイミングも設定します。
  3. データの準備ができたら、ビデオデッキ等を接続し、再生・録画の準備をします。
  4. ビデオの再生・録画とテロップソフトを同時にスタートさせます。
  5. テロップデータに表示・消去のタイミングを設定済みならこのまま終わりまで待ちます。 手操作で表示・消去を行なうのなら、各画面ごとにその操作をします。

6. 応用について

リニア編集でのスーパーインポーズはパソコンとは別のハードウェアが行なっており、 テロップ用ソフトの動作としては「パソコンの画面に表示」しているだけです。 従って、パソコンの画面を液晶プロジェクターで投影してやれば、一般映画館での字幕上映などにも使えます。

また、再生用ビデオデッキの代わりにビデオカメラを使って、 講演者の映像にパソコン要約筆記をスーパーインポーズして表示*8 することも可能です。

*8 実際には、画面を分割してしまうワイプの方が見やすいでしょう。


参考文献

[1] Tsuyoshi's Home
http://www9.ocn.ne.jp/~tsu/
[2] じんのの部屋
http://www.vector.co.jp/authors/VA006163/
[3] Nirvana Research
http://moof.com/nirvana/
[4] (株)コンパル
http://www.compal.to/
[5] Microsoft JAPAN
http://www.microsoft.com/japan/
[6] (株)アイ・シー
http://www.ic-corp.co.jp/
http://www.vector.co.jp/vpack/browse/person/an007987.html
[7] 字幕映像メーカー Ecriture
http://www.vector.co.jp/soft/win95/art/se078657.html
[8] ローランド(株)
http://www.roland.co.jp/
[9] 松下電器産業(株)
http://www.panasonic.co.jp/
[10] 字幕ソフト Vcaption
http://www.vector.co.jp/soft/win95/hardware/se161547.html