『夏は豪快にうどんを食べよう』の巻


 食べたい食べたいと思っていて、なかなか食べるチャンスの無いものの一つに、駅の立食いソバがあります。私は、ホットドッグやハンバーガー、ピッツァなどの、いわゆるジャンクフードが好物なのですが、あの駅ソバというのは吉野屋の牛丼、回転寿司と並んで、日本の誇るジャパニーズジャンクフードの御三家と言っても良いのではないかと思っています。

 私の場合、電車に乗るチャンスというのは、月に一度か二度の出張の時くらいですので、その時には何とか駅ソバを食べようと画策するのですが、食事時にうまく駅にいる様なスケジュールというのはなかなか実現できません。それでもたまたま駅ソバを食べる機会に恵まれると、十中八九は天ぷらソバを注文します。栄養を付けようと思うときには、これに生玉子をポンッと割って落としてもらい、天玉ソバにしてもらいます。

 あっ、そうそう、私の住んでいる茨城県の水戸近隣の駅には、納豆ソバ/ウドンなるものがあるのですが、これはこの辺だけなんでしょうか?皆さんのお住まいの近くには、何か珍しい駅ソバがありますか?ところで、納豆ソバは天ぷらソバより値段が高いのですが、私はこれはどうも納得が行きません。いくら海老なんかは入っていない天ぷらだとしても、納豆よりも安くされたのでは、天ぷらとしての立場が無くなってしまうのではないでしょうか?

 しかし、なかなかうどんの方に話が進まないので、この際天ぷらにはちょっと我慢してもらって、話をもとに戻します。先日は何となくうどんでも食べてみようかな?と思い、天ぷらうどんを注文してみました。食べながら駅ソバのおばちゃんに、ソバとうどんはどちらが良く出るか聞いてみました。飲食店などで見知らぬ客がこういうことを聞くと、税務署員ではないかと胡散臭そうに見られることが多いので、さり気なく聞くには場数を踏むことが必要です。

 おばちゃんは、『ソバの方がずっと多いねぇ。男の人はほとんどソバだからねぇ。』と言い、私がうどんを食べているのに気が付いて、『アタシはうどんも好きだけどね。』と付け加えました。だいたい、駅の立食いソバを食べるのは、女性よりも圧倒的に男性の方が多いでしょうから、駅ソバにおけるうどんとソバの勢力分布は、推定2対8、もしくは1対9で圧倒的にソバが優勢と見て良いと思います。

 一般的に、梅雨の時期から蕎麦の実が収穫される秋までは、ソバがまずい季節と言われています。夏はソバにとって不利な季節かと思ったのですが、考えてみればそんなことは駅ソバには関係の無い話ですね。いつ食べようが駅ソバは駅ソバです。あれはあの世界の中でうまけりゃそれでいいんです。

 駅ではソバに負けているうどんですが、家庭で食べる場合はこれがなかなかのワザ師なのです。その辺のお店で売っている乾麺や生麺を自宅で茹でて食べる場合は、ソバよりもうどんの方が無難に美味しいものが作れます。それに、ソバというのはどちらかというと、男が一人で無口に食べるというイメージがありますが、うどんの方は赤いほっぺの良い子がニコニコと食べて、ああ美味しいねおかぁさん、家族が揃って楽しいね、というイメージがあるじゃないですか?

 ちょっと一方的ですが、とにかくその様なわけで、ご家庭においてはうどんはソバを巻き返して、卓袱台(今時無いか?)の主役の座を占めることが可能となるわけです。

 さて、やっと夏のうどんのうまい食べ方に入るわけですが、まず第一は麺類には共通に言えることですけど、とにかくタップリの湯で茹でることです。家中で一番大きな鍋、又はズンドウを使って下さい。湯の中で麺がグルグル対流する様に強火で、袋に書いてある時間を守って茹でましょう。茹で上がったら流水にさらして冷します。この時に、水の中で麺を両手の手のひらにこすり付けるようにして、ゴシゴシと良く揉んで下さい。何度も水を替えながら揉むと、表面のぬめりが取れて口当りが良くなり、麺に腰が出ます。

 ソバやうどんのつゆというと、普通は鰹節や昆布で出しを取りますが、夏のうどんは是非鶏ガラのスープを使って下さい。と言っても、長時間かけてスープを取ったりする必要はありません。鶏の胸肉か腿肉を買ってきて一口大に切り、煮込んでしまえばOKです。この時、玉ねぎや油揚げなどの具と、醤油、味醂、砂糖などの調味料で濃い目に味を付けちゃって下さい。玉ねぎが柔らかくなるまで煮込んでしまった方が良いと思います。

 夏ですからつゆを冷してざるうどんと行きたいところですが、つゆを冷すと脂が白く固まってしまいますので、鶏ガラスープのつゆは熱いままか、室温程度でよしとしましょう。薬味は、できるだけふんだんに、葱、青紫蘇、ミョウガなどを用意して戴きたいのですが、ここで是非薬味に加えて欲しいのが青唐辛子です。メキシコ料理などでおなじみの青唐辛子は、乾燥させた赤唐辛子いわゆる鷹の爪よりも、峻烈で清新な辛さを持っています。これをごく細かい小口切りにしてつゆに入れると、強烈で爽やかな辛さが鼻に抜けて、食が進むこと請合いです。

 こういうものは、半分は食道と胃袋で味わうような感じで、豪快にツルツルと食べて戴きたいものです。うどんを盛る時には、一人分ずつ取分けたりしないで、家族全員分を大皿に山盛りにして、皆で先を争って食べるようにしましょう。茹でる時には、こんなに食べられるのかな?と思うくらい作っておいた方が良いと思います。

 もし麺が残ったら、次の食事の時につゆの中に麺を入れて煮込んで、おかず代わりにしちゃいましょう。この場合は、漬け汁の濃さだと濃すぎますから、少し水を足して適当に薄めて下さい。


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