『さり気なく日本風のおつまみ』の巻


 4〜5年前のことになりますが、私の勤めている会社の米国の関連会社から、仕事の打合せで米国人がやって来たことがあります。男女各1名ずつですが、背の高さが男性の方は190cm位、女性でも180cmはタップリありそうなノッポさんどうしでした。

 お二人とも初めての来日とのことで、当然日本語は全く話せませんし、読めもしません。いきおい、毎日のディナーは日本人がエスコートしてあげることになります。
 ふだんはファミリーレストランに毛の生えた様なところに行っていたのですが、もうすぐ帰国という日に、私の上司が自宅に招きました。向こうの方たちにとっては、高級レストランに連れて行ってもらうよりも、自宅に招かれるというのが最高のもてなしなんですね。
 上司は自分だけでは心細いとみえて、私も呼ばれました。私も英語はダメなので何の役にも立たないのですが、上司を見捨てるわけには行きませんので馳せ参じることにし、何を持って行こうか考えました。
 いつもなら、その上司の家に行く場合は一升下げて行けばそれでOKなのですが、今回はアメリカの方をゲストに迎えてのホームパーティーということなので、ちょっとした手料理を作って女房(あっ、この場合はワイフか・・)を伴って行った方が良いと思い、さて何を作ろうかと作戦を練ったわけです。

 こういう場合、すぐに思いつくのは寿司、テンプラ、すき焼きという、外人接待三点セットですが、誰でも同じ事を考えるので、来日して毎日誰かにエスコートしてもらっている外人さんは、実はこういうものは食べあきていることが多いのですね。
 かといって、納豆、漬物、塩辛の、日本の誇る発酵三兄弟に出動願うのも、ホームパーティに持参するものとしてはあまり適当とも思えません。

 豆腐料理なんかは、日本らしくて酒席にも合うし、バリエーションも広くて良いのですが、実は豆腐は日本のものよりもアメリカの方がずっとうまいのです。
 数年前、ロサンゼルス郊外に出張して、アパートで自炊をしていたことがありますが、この時にはいつも近所のスーパーで豆腐を買っていました。
 向こうの豆腐は、牛乳のパックの様なものに流し込んで固めてあります。最初はちょっと違和感がありますが、食べてみると、日本のその辺のスーパーの密封容器の中で水にプカプカ浮いている一丁78円などという豆腐よりよっぽど味が濃くて、昔懐かしい正しい豆腐の味がします。

 私が小学生の頃、同じクラスに豆腐屋の息子がいて、うちでは良くそこの豆腐を買ってきて食べていました。
 私は台所に豆腐が静かに置いてあるを見つけると、頭をぶつけたりすると危険なので、豆腐の角の部分を指でチョイとつまんで口に入れたものですが、舌先で上顎に豆腐を擦り付けた時に鼻腔に広がった香ばしい豆の香りは、今でも鮮烈に覚えています。
 アメリカの豆腐はその頃の日本の豆腐にかなり近いのですが、残念ながら良い醤油がなかなかアメリカでは手に入りません。いちおうキッコーマンなどの醤油(ソイソース)がスーパーで売っているのですが、これはどちらかというと悪い方向でどこか日本のものと違うのです。
 もし皆さんがカリフォルニアあたりに行く機会がありましたら、是非上等の醤油を持参して、スーパーで豆腐を買って食べてみてください。

 さて、いろいろ考えた結果、持って行くものは食パンでウィンナーを巻いて揚げたものと、スティックサラダにすることにしました。こういうものでしたら、上司の奥様が腕を奮った料理のジャマになることも無いでしょう。
 しかし、ただ普通に作ったのでは何の変哲も無いおつまみにしかなりませんので、ジャパニーズ風のエッセンスをちょっと盛込んでみました。

 食パンのウィンナー巻きは、耳を落とした薄切りの食パンにカラシを塗った上に、海苔を一枚敷きます。これが和風のポイントになるわけですね。
 ここにウィンナーを置いてパンを巻き、楊枝2本で止めて油で揚げます。パンがサクッときつね色に揚がったら、油を切って真ん中から斜めに二つに切り、切り口を上にして盛り付けるときれいです。
 香ばしいパンと、しっとりした海苔がなかなか良くマッチして、和洋折衷の良いおつまみになりますよ。

 スティックサラダの方は、庖丁の技を活かした飾り切りで、きゅうりはウグイス、大根はカモメ、そして人参は尾の長い亀の形に切ります。
 な〜んていうのは嘘です。そんなことはできません。実は、サラダにつけるディップソースを、味噌とマヨネーズで作るのです。
 マヨネーズを主体にして、適度に白味噌を加えると、コクとうまみのあるとっても美味しいソースができます。少しカラシを加えると、ピリッとしてより味が引き立ちます。
 これだけではちょっと芸が無いので、このソースにニンニクをすりおろして加えたものと、ゴマ油を加えたものの計3種類を作って持って行きました。こちらも、アメリカの方にも違和感無く食べてもらえて、なおかつ日本独特の味です。

 ついでに書いておくと、このマヨミソは、酢味噌の代わりにネギのぬたなどにかけても良く合いますよ。マジメに酢味噌を作るより楽です。どうぞおためし下さい。


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