『イカのワタを捨てる人は死刑!!』の巻


 私は、嫌いな食べ物というのは無いのですが、やはりAよりもBの方が好きという様な優先順位というものはあります。
 おでんの具でいうと、コンニャクよりはハンペンの方が好きだし、それよりもチクワの方がもっと好きです。しかし、玉子はさらにその上を行きますし、ダイコンが登場したらその玉子もかすんでしまいます。
 良く味の染みたダイコンにカラシを擦り付けて、熱いやつを頬張るのは冬の夜の幸せですね。翌朝、残ったおでんを煮返して、それをおかずにして朝御飯を食べるのも良いものです。

 水の中に棲んでいる生物で食用になるものを総称して『魚介類』と呼びますが、これに順序を付けるとすると、私の場合は魚よりも介の方が好きということになります。
 魚と介を比べますと、魚の方はだいたいわかりやすい形をしており、顔は顔で目や口がはっきりしてますし、体の各部位の役割や、解剖学的な体の構造なども比較的理解しやすくなっていて親近感が湧きます。
 これに対して介の方に分類されるものというのは、なんというか、グニャグニャしていてどこが顔なのかよく分からないし、ましてや手や足がどれかということになるときっと本人も悩んでしまうんじゃ無いかと思うようなものが多いようです。
 値段や高級感の方も、アワビの干物などは高価だったりしますが、鯛やマグロなどのようにシングルマッチで勝負できる力量を持ったものは、介チームの方にはなかなか見当りません。ナマコやホヤになりますとその形状だけで敬遠されてしまうことも多く、魚に比べて介の方はどうしても日陰の花、もしくは塩溜まりのイソギンチャクといったイメージがぬぐえない感があります。

 しかしながら、私の前世はタコだったとか、幼児期はイカに育てられたというわけでは(多分)無いのですが、私の場合はなぜか魚よりも介の方に心惹かれるというのが事実なのです。
 コリコリとしたナマコの酢の物や、磯の香りが口中に広がるホヤのワタの塩辛などという珍味も好きなのですが、やはり一番良く食べるのは、何といってもイカさんでしょう。

 私の住んでいるところは茨城県の那珂湊港や大洗港に近く、車で20分位のところに魚市場などがありますので、時々そこに行って好きな魚介類を仕入れて来ます。イカなども、安いシーズンになると発泡スチロールのトロ箱ごと買って来ます。
 魚やイカは、サイズで値段がぜんぜん違ってしまいますので、小さなサイズのものを選べば30杯位のイカが入った箱が、一箱1000円未満で買えたりします。

 そういうのを買ってきますと、うちでは3種類に料理します。
 まず、活きの良いうちにサッサと皮をむいて刺し身かイカソーメンにしちゃいます。これはショウガ醤油でズバズバッと啜り込んでもうまいし、ワサビ(是非本ワサビをおろして使いたいところです)醤油で食べると、イカの甘味とワサビの甘味(本ワサビには甘味があります)が口中から鼻に抜けてこれもまたうまいものです。

 次は、10〜20杯位の洗ったイカを大鍋かズンドウに入れ、醤油ドボドボ、お酒ドブドブ、お砂糖バサッと入れて、アルミホイルで落としブタをして丸ごと20分ほど煮ちゃいます。味は濃い目が良いようです。
 食べる時は、箸で持ってガブッとかぶりつくのですが、この単純料理がなんでこんなにうまいの?と驚くほど美味しくなっています。特に、胴の部分を食べると、甘くてコクのあるワタが口中に広がって最高です。

 気取った料理店などでイカの煮たものを頼むと、胴体を輪切りにして煮てあって、ワタはもちろんゲソなども入っていませんが、あれなんかはうまいところをわざわざ捨てている様なもので、思わずワタやゲソをもらって帰りたくなります。

 このイカの丸煮は、一日一回火を通せば何日かおけますので、徐々に味が馴れてくるのを楽しみつつ、数日の間毎日朝晩食べます。

 それから、何と言ってもわすれちゃならないのは、イカの塩辛ですね。これは、刺し身にしたときに余ったゲソやワタなども使って作ります。
 イカの塩辛には、皮をむいて作る白造り、皮を剥かないで作る赤造り、スミも入れる黒作りなどがありますが、私は白造りにします。皮を剥かないと、どうも出来上った塩辛の味に雑味が混じるような気がします。(私の親は赤造りの方が好きだと言いますが・・)

 調味料は純粋に塩だけです。味を見ながら調整して、良く混ぜ込んだらタッパーウェアや熱湯で洗ったコーヒーの空き瓶などの容器に入れ、冷蔵庫で保管します。一日一回はお箸で混ぜるようにしましょう。
 作ってすぐにでも食べられますが、だいたい4〜5日位から美味しくなります。私なんかは好きなので、美味しくなってきた頃に無くなっちゃうという様なことが良くあります。
 醗酵が進むと、においがきつくなり、味にも刺激分が出てきますが、これはこれで塩辛のクロウトに取ってはたまらないものになります。長期保存するものはかなり塩をきつくしますので、箸の先にほんのチョッピリとっただけで御飯が一膳食べられちゃいます。こういうのを舐めながらお酒を飲むっていうのも嬉しいものなんですが、血圧がねぇ・・・。

 塩辛は、売っているものでは絶対に自家製の味は出ませんね。私も好きなので、スーパーや海の近くの行楽地などで塩辛を売っているのを見掛けるとついつい買ってしまうのですが、自家製より美味しいものはただの一つもありませんでした。
 塩辛を作るのなんて簡単ですから、美味しい塩辛を食べたい方は、是非自分で作ってくださいね。

 最後に簡単なものをもう一つ。バーベキューなどで焼きイカをする様な場合、ゲソとワタが余ったら、アルミホイルで容器を作り、ゲソを刻んでワタと混ぜて適当に醤油で味を付けたものを鉄板の隅に置いておくと、良いツマミが出来ます。
 見た目は非常にグロですが、酒の好きな人ならば絶賛するはずです。この料理、『ゴロ焼き』と言うそうですが、私は勝手に『ホット塩辛』と言っております。


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