『もっと気軽に寿司食おうじゃん』の巻


 正直言って、あまり威張って寿司を語れる様な人間じゃございません。生まれてこの方、寿司屋に入って寿司を食べたのは20回に満たないと思います。

 別に寿司が嫌いなわけじゃないんですよ。大好きです。それがなんで寿司屋に行かないのかというと、それは私が酒飲みだからなんです。
 握り寿司というのは、一つずつは小さいですが、あれはやっぱり御飯ですから腹にたまります。私のようにダラダラと酒を飲むタイプの人間にとっては、すぐにお腹がいっぱいになって酒が飲めなくなっちゃうので、あまり寿司屋に行こうとは思わないんですよ。
 刺し身でも切ってもらって、それを肴にして酒を飲んでも良いのですが、やっぱり何時間もウダウダと飲んでるところじゃありませんからねぇ。

 そんなわけで、私は寿司に対してあまり偉そうなことを言えた立場ではないのですが、一つだけ言いたいのは、冷たくなった寿司は食うに値しないということです。これだけははっきり言わせてもらいます。
 スーパーで売っている冷たくて固くなったパックの寿司などを買って食べる位だったら、カップラーメンでもすすってた方が、まだ心が温まるというものです。出前の寿司も、持ってきてもらったらすぐに食べるのでなければ感心しませんね。まぁこういうのは固まるほど冷たくなったりはしませんが・・。

 やはり寿司は、目の前で握ってもらったやつをそのまま口に放り込むというのが一番だと思います。ネタの善し悪しなんかよりも、すぐに食べるかどうかの方がよっぽど重要です。試しに、一皿120円の回転寿司の握りたてと、有名寿司屋の特上3500円のお持ち帰りしたものとを比べて見てください。回転寿司だって、まともなところの握りたてならそう馬鹿にしたもんじゃありませんよ。

 JRの新橋駅に『あずみ』という立食いそば屋があるのですが、ここではカウンターの一角で職人さんが寿司を握ってくれます。
 握りが一人前で700円。決して上等なネタとは言えませんが、目の前で握ってくれたものを立ったままヒョイヒョイと口に放り込んで、熱いお茶をひとすすり、はいごっそさん!とサッサと店を出るというのは、なかなか良い気分です。江戸前の握り寿司というのは、本来こういうものだったのだと思います。
 それがいつの間にか高級化しちゃって、お馬鹿な職人なんかが威張ったりするようになっちゃって、まったくもって困ったものです。おかしな方向に行っちゃった寿司業界を、庶民に引戻してくれた小僧寿司をはじめ、回転寿司関係の皆様には惜しみない拍手を差上げたいと思うしだいであります。パチパチ。

 だいたい、経済や流通の常識からして、いろいろな種類の良いネタをコンスタントに揃えておくなんていうことは、非常に効率が悪いというのは、子供だってわかる話です。高級店なんていうところは、変にプライドを持ってそういうことをしようとするから、ますます値段が高くなり、客は高い金を払うんだから他じゃ食えない様なものを出せという悪循環で、泥沼に入って行くのですね。

 いーじゃありませんか、寿司くらい。もっと気軽に、うまいものがあったらラッキーだし、無かったら無かったで次を楽しみにするという様な雑駁なものであって欲しいです。今からでも遅くありません。飲んだ後に、ラーメンや立食いそばと同じような感覚でちょっとつまんで帰れる様なものになってくださいよ。
 だいたい、寿司なんか自宅だって簡単に作れるんですから。その辺のスーパーで良いネタが売ってますので、ご飯を炊いて酢飯にし、見よう見まねで自分で握ってみれば、そこそこうまい寿司が食べられますよ。少なくとも、自宅でちゃんとしたラーメンやトンカツを作ろうとするよりは、よっぽど簡単です。寿司用の調味済みの酢もスーパーで売ってますが、これはちょっと甘すぎるので、普通の酢で割って使った方が良いと思います。

 最後に、もし皆さんが茨城県のひたちなか市というところを訪れることがあったら、是非『柳寿司』という店で寿司を食べてみて下さい。多分、日本一大きな寿司です。
 ネタだけがデロッと大きな寿司などは、時々テレビなどで紹介されますが、ここの寿司はネタも御飯も情け容赦無く大きいのです。だいたいパソコンのマウス位ありますので、男でもなかなか一口では入りません。女の人がイカの寿司なんか食べた日には、なかなか噛み切れなくて悲惨な状況に陥るのは確実です。

 以前ひたちなか市に竹村健一さんが講演に来た時には、話のまくらに講演前に出された寿司のことを話されたのですが、『あんなデカイ寿司を食ってるようじゃ、この市は田舎だね』と言ってました。店の名前は言いませんでしたが、市民はみんな分かっちゃいましたよ。チャンスがありましたら話のタネに是非一度どうぞ。お声をかけて下さればご一緒します。おごってくださいね。


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