『芋煮会をしませんか?』の巻


 『芋煮会』というのをご存知でしょうか? もともとは山形県あたりが発祥の素朴な秋のレクリエーションで、ご近所の仲間が連れ立って近所の河原で芋や肉を入れた汁物を作ってそれをすすりながら、お酒の一杯も飲んじゃおうというものなのですが、最近は本やTVで紹介されたりして、全国的に知られるようになった様ですね。

 私は出身が福島県なのですが、同じ東北の隣接県であるせいか、それとも幼少の頃にはボーイスカウトなんていうものに入ったりしていたせいか(あー恥ずかし(^^;ゞ)、小さな頃から運動会や遠足などと同じ様な身近なイベントとして楽しんできました。
 大人になって、世の中には芋煮会を知らない人がいて、全国的にはむしろそれが普通のことであるということを知った時には、ちょっとしたショックを受けたものです。

 私は学生の頃は仙台におりましたので、周りには山形出身の友人が大勢いました。彼らは芋煮会に関してはちょっとしたプライドとこだわりをもっており、彼らに芋煮会を語らせるとなかなかやかましいことを言ったものです。

 曰く、芋煮は醤油味でなければならない。曰く、コンニャクは庖丁で切らずに手でちぎって入れるのを善しとする。曰く、芋は里芋。曰く、肉は牛、中でも米沢牛を最上となす。

 ま、気持ちはわかりますが、オラガホ(私たちの土地の)の芋煮がなんだか有名になっちゃって、必要以上にもったいぶって舞い上がっちゃってるという気がしないでもありません。(山形県人の皆さん、ゴメンナサイ。芋煮会の様に全国に誇るものを持たない福島県出身者のひがみですので・・・)

 正統派の芋煮は、大根やじゃがいもなどの野菜や豆腐などをゴチャゴチャ入れたりしちゃいけないそうですが、おそらく昔はそれほど多くの食材があるわけでは無かったのでしょうから、必然的にあるものだけで芋煮をやっていたのだと思います。昔の人たちだって、いろいろな材料があったら入れたかったに違いないんですよ、きっと。

 私などは乱暴にも魚介類を入れちゃったり、味噌仕立てにしちゃったりすることもありますので、そういうのを正統派芋煮保存会の方々に見られたら激しく叱責をうけるのではないかと思うのですが、まぁいいじゃありませんか、細かいことなんかにはこだわらなくたって。

 全国の皆さん、あまり難しく考えずに、要するに豚汁かけんちん汁を屋外で作って食べれば良いのですから、気のあった仲間を誘って気軽に芋煮会をやってみませんか? 芋煮会の醍醐味は、細かな食材よりもむしろそのシチュエーションにあると思いますので、出来れば次のような雰囲気でやっていただきたいと思います。

 まず場所ですが、これは河原が最高です。遠くの方に渓谷を横切る鉄橋が望める様な、きれいな水が流れている河原でしたら申し分無いのですが、交通手段や水の調達などのことを考えると、現実にはなかなか難しいですね。場合によってはキャンプ場などでもがまんしましょう。でも、お庭でバーベQならぬお庭で芋煮会というところまで行くと、あまりにも本質を外してしまっているような気がします。

 次に食器ですが、普段使っているようなセトモノのどんぶりと塗り箸が理想ですね。どんぶりの縁が欠けていたり、箸の塗りがはげていたりしてもいっこうに構いません。というより、そういう物の方が一段と趣が増すでしょう。地方の旧家などですと、そうした食器は土蔵の中などにガチャガチャといくらでもあるものなのですが・・・。

 お酒は是非一升瓶から湯飲みについで飲りたいですね。河原の玲瓏な秋風に吹かれながら、熱い芋煮汁をすすってすかさず冷や酒をグイッとやるのは堪えられません。かなり寒い場合には燗酒も良いものですが、その場合は古い薬缶に直接酒を入れて火に掛けちゃいましょう。もし、川で岩魚などが釣れたらたき火で焼き干しにして薬缶の中にぶち込んでおくと、最高の岩魚酒になります。

 岩魚酒、ヘヘッ、実は私はこれから岩魚酒を飲みに出掛けるところなのです。
 友人のお父上が夏の間に東北を回って釣って来て冷凍してあった岩魚を炭焼にして振る舞うという集いが年に一度あるのですが、今日がその日なのです。

 残念ながら場所は河原というわけには行かず、工務店を営んでいるお父上が資材置き場に使っている郊外の空地なのですが、一家総出で芋煮も作ってるはずですので楽しみです。
 今日はお天気もすっきりとした秋晴れだし、さてさて、一升瓶を一本ぶら下げて、勇んで出掛けると致しましょう。行ってまいります。


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