『蟹食えば柿が生るなり法隆寺』の巻


 タイトルに深い意味はありません。とりあえず今回は、蟹と柿のことを書こうと思います。

 蟹と柿と言えば思い出すのが猿蟹合戦ですよね。でも、あの物語って、『合戦』というほど大袈裟なものでしょうか? 蟹の方はいちおう仲間を集めて戦闘部隊を組織したわけですが、それでも皆のやったことはせいぜいキリリと鉢巻を締めたとか、褌を締め直したというていどのことで、とても武装蜂起というほどではないと思います。
 猿にいたってはおそらく戦いなどという自覚は全く無く、今風に言えばイジメか、寸借詐欺という程度のものだったのではないでしょうか?(決して現代のイジメ問題を軽視しているわけではありません。念のため・・)

 じゃ、何というタイトルだったら的を射ているかというと、これと言って名案があるという分けではありません。鶴の恩返しならぬ蟹の仕返しではちょっとアレですしねぇ。何か良いタイトルがあったら教えて下さい。(と言っても、それで世間の猿蟹合戦の呼び名が変わるわけじゃないんですが。)

 ま、この物語では、猿は柿の種と交換で蟹の持っていたおにぎりを貰い、次には蟹が育てた柿の実を取って食べちゃったわけですが、やはり猿の知恵は所詮猿知恵ですね。
 おにぎり、柿、蟹とくれば、一番うまいのは蟹に決まっているじゃないですか。蟹が柿の木を育てた時点でさっさと蟹を食べずに青い柿をぶつけたりしているから、仕返しされちゃうんです。

 ともあれ、蟹は何と言っても鮮度が命です。猿じゃありませんが、新鮮な蟹が手に入ったら、ぐずぐずせずに速攻で食べなくちゃなりません。私は蟹の種類ごとの味をアレコレ言えるほど色々な蟹を食べたことがある分けじゃありませんが、鮮度の違いによる味の違いは良く知っています。

 魚の場合は野締めと言って、釣り上げたその場で息の根を止めちゃうことによって鮮度を保つという方法があります。こうすると、下手に生け簀で泳がせたりして消耗させるよりもうまく魚を食べられるのですが、蟹の場合はあまりそういうことはやりません。
 だいいち、蟹は急所がどこなのかよく分かりません。また、やたらと生命力が強そうで、足や手(?)を全部もいでも血も出ませんし、めった突きにしても簡単には死んでくれそうにもありません。

 そこで、蟹の場合は生きたまま茹でることになりますが、茹で上がったものも時間が経つと例の独特の蟹臭さが出てしまいます。やはり蟹の場合は獲ってきたらすぐに茹でてすぐに食ってしまうに限ります。蟹なんてどうやって獲るんだというむきもあるかと思いますが、楽してはうまいものは食えません。苦労せずに甘い汁を吸おうとすると、猿のように天誅を下されるということになるわけです。

 全国的なことは知りませんが、関東地方では秋から冬にかけて海岸でヒラツメカニが獲れるようになります。
 リールの先に重りの付いた網と餌のサンマを付けて海岸から投げると、餌を食べに来た蟹が網に絡み付いて来ます。釣れるときには一度に10匹位上がりますので、半日もやると大きなバケツにいっぱい獲れることもあります。
 たいへん面白い遊びではありますが、たくさん釣る為には晩秋の海に胸のあたりまで入って行ってリールを投げなくちゃいけませんので、やはり楽をしてはいられません。もっとも金と時間がたっぷりあれば、蟹の獲れる漁港にでも行って、人様が獲ってきてくれた蟹を買って食べるということも出来るでしょうが・・・。

 とにかく、新鮮な蟹は、茹で蟹にしても蟹汁にしても最高です。さっさと蟹を食ってしまわなかった猿がつくづく馬鹿に思えてきます。

 さてお次は柿ですが、今年は柿の当り年だったようで、至る所で枝が折れるほど実を付けた柿の木が至る所で見られました。私も、福島県の実家にある柿の木にはしごをかけて柿の実取りをやらされました。

 柿の木というのは非常に折れやすいのです。子どもの頃は、柿の木から落ちると長生きできなから、柿の木には登るもんじゃ無いと教えられたものですが、危険防止をこの様な形でPRしていたのでしょう。
 実際、私は子どもの頃に、柿の木の枝の分かれめに座っていてら枝が突然ポッキリと折れ、まっ逆さまに墜落したことがあります。幸い落ちる途中で別の枝に引っ掛かり、体が半回転したおかげでお尻を地面にしたたかに打っただけで済みましたが、それ以来柿の木に登るのは恐いと思っています。

 甘柿は取ったらそのまま食べてしまえば良いのですが、渋柿は渋を抜かないと食べられません。でも、甘柿よりも渋抜きをした渋柿の方がずっとうまいんですよね。

 渋を抜くには、樽抜きと言って焼酎を使うのが一般的ですが、もし突然渋柿をくれる人が現れても、わざわざ焼酎を買ってくる必要はありません。ウィスキーでもブランデーでも大丈夫です。それもほんのちょっとで良いですから、冷蔵庫の隅に転がっている瓶を逆さにして振ってみたり、リビングのサイドボードに飾ってある洋酒をちょっと拝借したりして間に合せましょう。

 小さい皿にお酒を入れて、柿のヘタ(枝に付いている方)をチョイと浸すだけでOKです。あとは、スーパーでくれる買い物袋にでも入れて口を結び、一週間ほど置いておくとアラ不思議、あんなに渋かった柿がすっかり甘く、トロ〜リと美味しくなっています。

 柿に傷があるとそこから痛んじゃいますから、樽抜きにする柿は傷の無いものを使います。傷のある柿は皮をむいて軒先に吊るし、干し柿にしましょう。ただ、吊るすためのヒモを結ぶには、枝が付いたまま取った柿の実じゃ無いとやりずらいです。
 柿の木は枝を折った方がまた良く実をつける様になりますので、柿の実を取るときには枝も一緒に折り取るようにした方が良いのです。

 余談ですが、干し柿のことを、福島県の一部の地方ではアンポ柿と言います。人を罵倒するのに、『このアンポンタン吊るし柿!』というようなことを言ったりもします。

 私は子どもの頃は干し柿を好きでは無かったのですが、30も半ばを過ぎた今の年齢になって、なんとなくこれがうまいと思うようになってきました。不思議なものですね。もっとも、左利きの方ですので、あまりこうした甘いものを食べる機会はありませんが・・・。

 ところで、今ちょっと思い出したんですけど、蟹と柿って食べあわせじゃありませんでしたっけ? ちがったかな? ま、とにかく、私はしょっちゅうこれらを一緒に食べてますけどピンピンしてますから、人体実験は済んでいます。皆さんも安心して秋の味覚をお楽しみください。


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