『つらいのを堪えて餅の話を書くのだ』の巻


 全国的に正月であります。いや、世界中NewYearなのです。しかし、世界広しと言えども、正月にはほとんど義務の様に餅を食べるのは、おそらく日本位のものでありましょう。

 実は私は今、年末から正月にかけての胃腸の強度テストと肝機能耐久テストのダメージで、餅のことなどは思い出すだけで喉から酸っぱいものが上がって来そうな状態なのです。
 でも、この機会を逃してしまうと、また来年まで餅の話を書くチャンスを失ってしまいますので、息もたえだえになりつつも、頑張って書くことにします。何といっても、日本では正月といえば餅、餅といえば正月という位ですからね。

 思えば、年末に実家に帰省した時から、私の胃腸の強度テストは始まったのでした。実家に着くと、ちょうど父親と母親が電気餅搗き機で餅搗きをしており、搗き上がったばかりの餅があったので、さっそくそれを千切って庭の畑から採ったばかりの大根で作った大根おろしに入れて、からみ餅にして食べました。

 この搗き立ての餅というのは、確かにうまいものです。私が子供の頃は、うちの隣の農家に隣近所数件が集まって、朝早くから餅搗きをやったものです。もちろん当時は餅搗き機など使わずに、臼と杵でペッタンペッタンと搗きました。
 大人たちが餅を搗いている横で、子供達はめいめいにアンコや納豆、キナコなどの入ったどんぶりを持って、搗き上がるのを待っています。
 搗き上がった餅を、臼から直接小さく千切ってどんぶりに入れてもらい、競い合うようにして食べるのがうまいんだ、これが。
 子供ですから、最初は甘いアンコに人気が集まります。次は納豆で口直しをし、キナコ、大根おろしと一通り制覇しようと思うのですが、たいていそんなには食べられなくて、途中でギブアップしてしまうのです。

 搗き上がった餅は、臼から板の上に取られて、粉をまぶされて丸められ、正月用の御供え餅が作られます。残りは薄く延ばして、切り餅用の板餅にして保存します。
 他に、中にアンコを包んだ大福餅なんていうのも作りました。これは、固くなったものを石油ストーブの上などに乗せて焼いて食べると、外側がパリッとして中のアンコが熱々となり、子供の冬の良いおやつになりました。

 さて、除夜の鐘に煩悩を払ってもらって年が明けると、いよいよ餅が我が世の春を謳歌しはじめます。
 まずは何といっても、お雑煮というものが正月の朝の食卓を飾るのが、日本の一般家庭の姿でしょう。この場合、お節料理というのもひとつの花形であり、立役者ではありますが、やはりあれは副食物、要するにおかずです。
 日本人というのは、主食、副食の概念がおそらく世界中で一番はっきりとしていますので、おかずがどんなに立派であっても、そこに主食となるものが無いと一人前の食事としては認められません。

 この様な文化にあって、正月の雑煮というのは、かの海のダイヤカズノコや、名人芸によって煮込まれたピカピカの黒豆などが豪勢に盛込まれたお節料理を従えて、主食の座を飾る一大スーパースターと言えましょう。
 雑煮の雑という字が冠されたものには、雑巾、雑誌、雑草など、どうでも良い下賎なものというイメージのものが多い様です。
 雑炊というのも、基本的に餅が御飯に変わっただけの様なものなのですが、やはり残り物などをごった煮にしたものという感じで、高貴な雰囲気はありません。もっとも、河豚雑炊やスッポン雑炊などとなると、雑炊を食べる前提条件として河豚やスッポンの鍋を食べなくちゃなりませんので、高級料理の一部ということになるのでしょうが。
 しかしながら、雑煮に限っては、食べるシチュエーションはもとより、地方によって出汁の取り方や具、餅の形に至るまで厳密なしきたりがあり、漆のお椀かなんかに盛られちゃったりするという、他の雑一族とは一線を画した育ちの良さをあからさまに見せています。

 私の実家の雑煮は、鶏肉で出汁を取った醤油味のものです。これに、畑で取れた大根、人参、ネギなどが山のように入るという、典型的な田舎雑煮です。
 餅は、別にいわれやこだわりがあるわけでは無いのですが、切り餅を焼いて入れます。粋な雑煮の様に、餅を椀に入れてそこにサッと出し汁を張るという様なことをせず、焼けた餅を火にかかっている鍋に投入してしまうので、うっかり食卓につくのが遅れたりすると、餅が半分汁に溶け出して、シチューの様になった雑煮を食べるはめになったりするのです。
 こうなると、椀に餅が何個入っているかなんていうことは判然としなくなり、食べても食べても尽きぬ泉の様に、椀の底から餅が限り無く湧いてくるような感じです。

 ま、そんな垢抜けない雑煮でも、子供の頃から食べていればそれなりにうまいと思うのですが、さすがに三が日毎食これでは飽きが来ますし、腹がもたれてどうしようもありません。正月は、食事の合間合間にビールなんか飲んだりもしてますので。
 こんな時は、思い切って一食抜くに限りますね。そうすれば、また美味しく雑煮が食べられるというものです。

 餅の食べ方は、雑煮の他にもいろいろなバリエーションがありますが、とっても簡単で美味しいものを一つ紹介しておきましょう。
 名づけて、海苔巻きピザ餅(そのまんまやんけ)。このレシピの良いところは、いちいち餅を焼かなくても良いというところです。

 まず、海苔を半分に切手皿に乗せ、そこに切り餅を置きます。その上にピザ用のとろけるチーズとピザソースをかけて、電子レンジにかけます。
 時間は、レンジの出力と餅の大きさで加減して下さい。時間が長すぎると、餅が溶けてしまってどろどろになってしまいますからご注意。
 餅が原形をとどめていて、チーズがとろりとしたら出来上がりです。海苔を二つ折りにして、餅をくるんで召し上ってください。


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