『二月と言えば節分、節分といえば豆』の巻


 豆といえはそりゃ納豆です。私の住んでいる茨城県のひたちなか市は、水戸のすぐ隣に位置し、納豆文化はなやかな土地柄ですから。

 私は東北生まれの東北育ちですので、幼少の頃からごく当り前に納豆を食べており、朝には日本中の家庭で納豆が食されているものと思っていました。西日本の方では、納豆を食べる習慣が無い・・・というか、そもそも納豆が生産されていないということを知ったのは、中学校を卒業して仙台にある高専の寮に入ってからです。

 その寮には、全国から集まってきた学生が住んでいました。当然関西方面から来た人もいたのですが、なにせ東北もかなり奥深く入り込んだ仙台のことですから、朝御飯には情け容赦無く納豆が出されます。安くて栄養があって、醤油をじゃぶじゃぶに掛ければ御飯が沢山食べられるという、育ち盛りの学生用のおかずとしてはもってこいですからね。
 関西方面から来た級友たちは、最初は苦労していましたが、なにせ寮のメシを食わないと他に食うものが無いというような環境ですので、そのうちに皆平気で納豆が食べられるようになりました。
 私も、寮に入るまでは好き嫌いが非常に多かったのですが、おかげでなんでも美味しく戴けるようになりました。人間、追い詰められれば、どうにかして生きて行けるものですね。

 高専を卒業して企業の寮に入ってからも、納豆は良く朝食に出されていましたが、さすがに社会人ともなりますと、関西方面から来た人もそうおとなしく納豆を食べてはくれません。
 この寮では月に一度、懇親会という名の全員集会を開いて、ビールなどを飲みながら寮の運営のことを話し合ったり行事の計画を立てたりするのですが、時折納豆のことが議題に上り、納豆を出すなとか、納豆を出す日には別のおかずも用意しろなどということが発言されていました。
 人数的には、やはり納豆愛好派の方が多勢を占めていましたので、納豆嫌い派は形勢不利なようでしたが、こと納豆に関しては個人的な好き嫌いのわがままとは片づけられない文化的な背景があるということで、何か救済措置が取られたと記憶しています。それにしても、良い大人が集まって、もっと他に話し合うことがなかったのでしょうかね?

 しかしやはり、関西の方の人にとっては、納豆を食べるという行為には特別の思い入れがあるようです。ある人は『あんな腐った豆よう食わんわ!』というのが一つのプライドとうか、アイデンティティになっていた様でしたし、別の人は、『俺は関西を捨てた人間や!』と自嘲的に呟きつつ、良く納豆をツマミにして酒を飲んでいました。

 我が家では、家内も東北出身ですので、当然毎朝の様に納豆を食べます。納豆は臭いから朝は食べないという人もいますが、納豆は基本的に朝の食べ物であると私は信じています。夕食に納豆などが出てきたりしたら、なんとなくうすら寂しいというか、物悲しくなってしまうような気がします。
 やはり、炊き立てのふっくら御飯に、味噌の香りもふくよかな大根とアブラゲかなんかの味噌汁、それにカラシを利かせた納豆に梅干しというようなのが、幸せな大和民族の朝食であると言えるのではないでしょうか?

 ところで、納豆のうまい食べ方を知っていますか? 糸を引くのを嫌って、納豆をあまりかき回さない人がいますが、あれば邪道です。
 納豆はとことんかき回すことが肝要です。小鉢に納豆を入れたら、それを左手でしっかりつかみ、右手には二本の箸を逆手に握って、思いっきり納豆をかき回します。
 これでもかこれでもか!という感じで、納豆が白く繭状になり、粘りが出てバチバチと音がするようになるまでかき混ぜたら、薬味やタレ、醤油などを何度かに分けて少しずつ加えて行きます。加えるたびにまた良くかき混ぜるのを忘れずに。
 こうして仕上げた納豆は、ふんわりとクリーム状になり、御飯の上に乗せて御飯と一緒にかき込むと、口当りも香りも最高です。納豆を食べる時には、御飯を台にして箸でそっと持ち上げたりせずに、サクサクッと軽く御飯と納豆を混ぜ、お茶碗に口を付けて、ズルズルとすすり込むのが正しい食べ方です。

 納豆の薬味としては、ネギやミョウガなどがポピュラーのところで、これにカラシを入れたり玉子の黄身を入れたりしてお好みに仕上げます。
 最近の納豆には、専用のタレやカラシの小袋が付いていますので、これだけで味付けをしても悪くないのですが、練りカラシを多目に追加して、醤油をジャブジャブに掛けて良くかき回してやってものも、なかなかいけます。当然かなりしょっぱくなりますが、カラシを沢山入れると納豆の独特の甘味が出て、御飯に良く合います。こうすると、納豆一パックでどんぶり飯が軽く食べられます。

 ちょっと変わった味付けとしては、魚肉ソーセージを細かく切ったものを混ぜ、マヨネーズと醤油、カラシで味付けをしたものも美味しいですよ。
 それから、カレーに納豆を添えるというのもなかなか合います。ちょっとゲテモノっぽく思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、万人が認めるカレーの友の福神漬けも醤油味の漬け物ですから、同じ醤油味の納豆も合わないはずがありません。実際、水戸やひたちなか市近辺のカレーショップでは、納豆カレーというものが実在します。

 最後に、納豆をお酒の肴にする場合の我が家の得意技を御紹介しておきましょう。

 まずは、『ニラ納豆』です。ニラはごま油で香り良くサッと炒め、塩胡椒します。かき回した納豆と炒めたニラを小鉢に入れ、そこに玉子の黄身だけを落とします。にんにくをすりおろしたものを少し添えて、食べる時に混ぜながら戴きます。ニラに味が付いていますが、好みで醤油を落とすと良いでしょう。
 玉子の白身がもったいない人は、フライパンで白い煎り玉子にして、まぜちゃっても良いでしょう。彩りも良くなります。

 次が『納豆腐』。奴豆腐の上に、叩いた納豆を乗せるというだけの簡単なものですが、これがなかなか行けます。アブラゲの中を開いて納豆を詰め、こんがりとあぶった『アブ納豆』も、お酒の肴としてはなかなかオツなものでやんす。どうぞお試しを。

 今回は、バックを納豆カラー(?)にしてみました。いかがでしたでしょうか?


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