【圏論の定義】

「圏論は鳥の目で数学を俯瞰する」と印象的な書き出し(序論)ではじまる「ベーシック圏論」(Tom Leinster)の定義は次の通り。

定義
圏(category)$\mathscr{A}$ とは:
$\bullet$ 対象 (objects)の集まり$ob(\mathscr{A})$
$\bullet$ 各 $A, B \in ob(\mathscr{A})$, について$A$から$B$への射(maps,morphisms)または矢印(arrows)の集まり $\mathscr{A}(A, B)$
$\bullet$ 各 $A, B, C \in ob(\mathscr{A})$について,合成(composition)とよばれる関数
\begin{array}{ccc} \mathscr{A}(B, C) \times \mathscr{A}(A, B) & \to & \mathscr{A}(A, C)\\ (g, f) & \mapsto & g \circ f \end{array} $\bullet$ 各 $A \in ob(\mathscr{A})$について,$A$上の恒等射(identity)とよばれる$\mathscr{A}(A, A)$の元 $1_A$ からなり、以下の公理を満たすもののことである。
$\bullet$ 結合法則(associativity): 任意の $f \in \mathscr{A}(A, B)$, $g \in \mathscr{A}(B, C),h \in \mathscr{A}(C,D)$ について $(h \circ g) \circ f = h \circ (g \circ f)$ が成り立つ
$\bullet$ 単位法則(identity laws) : 任意の $f \in \mathscr{A}(A, B)$について $f \circ 1_A = f = 1_B \circ f$が成り立つ.

「圏論の道案内」(西郷甲矢人・能美十三著、技術評論社、2019.8.22)には

「圏(category)とは対象(object)と射(arrow,morphism)とからなるある種のシステムだ。」とあり、次のような定義が続く。

【定義2.1】
どんな射に対しても、域(domain)と呼ばれる対象と余域(codomain)と
呼ばれる対象とがただ一つ存在する。射$f$の域が$A$、余域が$B$であることを
\[ \begin{xy} \xymatrix { B & A \ar[l]_{f} } \end{xy} \]
と書き、「$f$は$A$から$B$への射である」という。また射$f$の域をdom$(f)$、 余域をcod$(f)$と記す。

「対象と射の関係を図示したものを図式(diagram)と呼ぶ」

定義2.2
射$g,f$について$cod (f)=dom (g)$であるなら$f,g$の合成
(composition)と呼ばれる$dom (f)$から$cod (g)$への射が
一意に存在する。これを、$g\circ f$と書く。
\[ \begin{xy} \xymatrix { & B \ar[dl]_{g} & \\ C & & A \ar[ul]_{f} \ar[ll]^{g \circ f} } \end{xy} \]
「$g$と$f$の"合成"」
【定義2.3】
図式内に現れる射やそれらの合成として得られる射について、域と余域とがそれぞれ
等しい射が互いに等しいとき、その図式は可換(commutative)であるという。
注:域、余域は写像でいえば定義域、値域に相当。
【定義2.4】
射$f,g,h$について、$cod (f)=dom(g)$かつ$cod (g)=dom (h)$であるなら
$h\circ (g\circ f)=(h\circ g)\circ f$である。言い換えれば
\[ \begin{xy} \xymatrix { D & B \ar[l]_{h \circ g} \ar[d]_{g} & \\ & C \ar[ul]^{h} & A \ar[ul]_{f} \ar[l]^{g \circ f} \ar@{.>}[ull]|{} } \end{xy} \]
は可換である。この関係式を結合律(associative low)と呼ぶ。

【著書本文から抜粋】S氏<・・・射を「操作」と捉えれば、・・・「何もしない」ことも
一つの「操作」と考えることができる・・・。・・・この「何もしない射」には特別の
価値がある。たとえば・・・数に$1$を足したあと$1$を引けば・・・元に戻る。こ・・の
例を「操作」の合成とみなせば、合成の結果、「何もしなかった場合」と同じものになる・
・・。つまり、ある操作に対する逆の操作というものを定義できるようになる・・。
【定義2.5】
どんな対象$A$に対しても恒等射(identity)と呼ばれる
特別な射$I_{A}$がただ一つ存在し、余域を$A$とする任意の
射$f$、域を$A$とする任意の射$g$に対して$1_{A}\circ f=f$および$g\circ 1_{A}=g$ が成り立つ。言い換えれば
\[ \begin{xy} \xymatrix { Y & & \\ A \ar[u]^{g} & & A \ar[ull]_{g \circ 1_{A}=g} \ar[ll]_{1_{A}} \\ & & X \ar[u]_{f} \ar[ull]^{1_{A}\circ f=f} } \end{xy} \]
は可換である。これを単位律(identity low)と呼ぶ。
【著書本文から抜粋、35〜37頁】S氏<・・・圏の定義について・・・振り返る・・・
N氏<・・・圏は「対象」と「射」とからなるシステム・・・。射と対象とは
それぞれ「域」、「余域」の概念でつながっていた。
S氏<射には「合成」という操作があって、二つの射を繋げて一つの射にできた。
そしてこの操作は「結合律」という法則をみた(す)・・・。・・・各対象には「単位律」
をみたす「恒等射」という特別な射が一対一に対応・・・。・・・
N氏<・・・圏論を適用するときは、どういったレベルでの同じさを重要視するか、あるいは・・・
どの程度までの違いを無視するかという、いわば「解像度」の設定が重要・・・
N氏<・・・重要な概念が「本質的な同じさ」を表す「同型」だ:
【定義2.6】
対象$A$から$B$への射$f$が可逆(invertible)であるとは、
対象$B$から$A$への射$g$で$g\circ f=1_{A}$かつ$f\circ g=1_{B}$をみ
たすものが存在するときにいう。
このとき$g$を$f$の逆射(inverse)、あるいは単に逆と呼び、$f^{-1}$と書く(注)。
可逆な射を同型射(isomorphism)と呼ぶ。対象$A$から$B$への射が同型射であるとき、
$A$と$B$とは同型(isomorphic)であるといい、$A \cong B$と書く。
(注):逆射は存在すればただ一つに定まる。

読んでいるうちに気づいたが、この本には演習問題のようなものは見当たらない。そして、証明
のようなものも。著者二人の会話にそれらは含まれているということか。
圏の例:前順序、半順序、全順序
二つの対象の間にたかだか一つの射し
かない(射があっても一つしかない)圏を
”前順序集合”と呼ぶ。
$a \longrightarrow b \overset{def}{\Longleftrightarrow} a \leq b$

この前順序集合は擬順序集合ともいい、いわゆる同値関係から反対称律を抜いたもの
(反射律、推移律のみ成り立つ二項関係)と考えればよいようです。
本文には、
「ある集合$X$(ものの集まり)に、その要素(集合のメンバー)の間の
二項関係(binary relation)が定められて、以下の二条件を満たすとき、
$\leq$を$X$上の”前順序集合”(preorder set) という。
1) $a\leq a,$
2) $a\leq b$かつ$b\leq c$ならば$a\leq c$
”前順序集合”のこの定義は、実は上記の『圏としての定義』と同じ。なお、さらに
3) $a\leq b$かつ$b\leq a$ならば$a=b$なら”半順序集合”(partial set)、そしてさらに
4) $a\leq b$あるいは$b\leq a$が成り立つ(すべて比較可能)なら”全順序集合”
(total set)という。」とあります。
圏の例2、例3:モノイドと群、集合の圏
【定義2.7】
対象がただ一つの圏をモノイド(monoid)と呼ぶ。

S氏<・・・射の方はいくつあっても構わない。
この本を読むにあたって所々もう一つの本の手助けもかりることにした。
これによると、ハ)モノイドは「単対象圏」とあり、他に、
イ)空な圏(empty category)$\emptyset\ \ Ob=\emptyset$
ロ)疎な圏(discrere category)$C\ \ Ob(C)=O$は一つの集号($\neq \emptyset$)であるが、
  $Hom(A,A)={1_{A}},Hom(A,B)=\emptyset\ (A \neq B)$
が紹介されている。
この本では、始域(domain)や終域(codomain)など用語の違いは若干あるが、今まで書いた圏の定義を「一般の圏」と呼び、
一般の圏に対して集合論の範囲で考えるものを単に圏という。と書いている。
「圏論の道案内」の例、「集合の圏」の定義は次のもの。
圏C(category)とは
$CI$ 対象の集合$Ob(C)$が定まり、
$CII$ 任意の対象$A,B$に対して、$A$を始域$B$を終域とする射の集合
$Hom(A,B)$ (または$Hom_{c}(A,B)$と書く)
が与えられ、
$CIII$ $(A,B)\neq (C,D)$のとき
$Hom(A,B)\cup Hom(C,D)=\emptyset $ (空集合)、
$CIV$ 特に$Hom(A,A)$は恒等射$1_{A}$を含み、
$CV$ 合成写像
$Hom(A,B)\times Hom(B,C) \rightarrow Hom(A,C)$
すなわち、$f\in Hom(A,B),g\in Hom(B,C)$に対して
$ (f,g) \rightarrow g \circ f \in Hom(A,C)$


そこで、モノイド(monoid)$C\ Ob(C)$はただ一つの元$A$より成る。$M=Hom(A,A)$
においては、任意の$f,g\in M$に対して$g\circ f\in M$が定まり、かつ恒等射$1_{A}$
が含まれ、さらに結合法則と単位法則が成り立つ。すなわち$M$は単位元をもつ半群となる。
とあったが、「圏論の道案内」の
【定義2.8】
任意の射が可逆なモノイドを群(group)と呼ぶ。

につなぐことができた。次からはいよいよ関手・・・。
第3章、関手
S氏<・・・次のステップ・・・「関手」に移ろう。・・・「関手」とは圏の間の対応で 構造
を保つもの・・・。
N氏<モノイド準同型のときは演算、単位元を保つというのが条件だったが、関手の場合だと
合成と恒等射をたもてばよいか?
S氏<とりあえず定義をする上ではその理解で問題はない。

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