【モナド】

前回は「ベーシック圏論」の定義をみたが、そこでいう”上線(バー)”は「圏論の基礎」でいう
$\varphi$のことと捉えればよいようだ。今回もネット上のものを含めていろいろみたが、
いずれも同じことを述べている。しかし、いろいろ参照することが、混乱に陥る危険はあるものの
その内容に迫る上でのよい方法の一つになるのではないかと、思った次第。

前回も見たが「モナド」の記述は「圏論の基礎」(S.マックレーン著、丸善出版)に詳しくある。
しかしここでは、話を定義前の「圏論の道案内」に戻してその説明をみる。

S氏「随伴からまっすぐに『モナド』の概念へと進むことにしよう」
「関手 \[ \xymatrix{ C \ar@<0.5ex>[r]^-F & D \ar@<0.5ex>[l]^-G } \] の定める随伴$< C, D , \eta,\mu >$からスタートして、合成関手$GF$というのを考えると、
これは圏$C$の自己関手だ。この関手の面白いところは、($FG \xrightarrow{\varepsilon} id_{D}$ から $GFGF \xrightarrow{G_{\varepsilon}F} GF$ という自然変換が得られる点だ。」
N氏「左から$G$、右から$F$を合成しているんだな。」
S氏「これは、$GF$を一つの関手とみれば、$GF$を2回合成したものから$GF$への自然変換だ。
いわば『2乗』を『1乗』に戻しているようなものだな。となると、より高次のものから始めても
この自然変換によって$GF$に辿り着くことができるわけだが、この際、結合律に似た法則が成り立つ。」「要は」
\[ {\begin{CD} GFGFGF @>{GFG \varepsilon F}>> GFGF \\ @V{G \varepsilon FGF}VV @VV{ G \varepsilon F }V \\ GFGF @>{G \varepsilon F}>> GF \end{CD} } \] が可換だということだ。これをみるには、右端の$F$と左端の$G$を取り除いた」
\[ {\begin{CD} FGFG @>{FG \varepsilon}>> FG \\ @V{\varepsilon FG}VV @VV{\varepsilon}V \\ FG @>{\varepsilon}>> id_{D} \end{CD} } \] が可換であればよいが、この図式は$\varepsilon$同士のいわゆる『水平合成』(horizontal composition)
を定義するものだから可換だ」(234〜236頁)

この一番下の式についてみる。「ベーシック圏論」(43頁)に
自然変換の水平合成は \[ \xymatrix@C+.5em{ \mathscr{A} \rtwocell<4>^F_G{\alpha} & \mathscr{A}' \rtwocell<4>^{F'}_{G'}{\alpha'} & \mathscr{A}'' } \] を受け取り、自然変換 \[ \xymatrix@C+.5em{ \mathscr{A} \rtwocell<4>^{F' \circ F}_{G' \circ G} & \mathscr{A}'', } \] を作り出す。これは伝統的に $\alpha' * \alpha$と書かれる。

とあったので、これを使うと
\[ \xymatrix{ C \ar@/^2ex/[r]^{FG} \ar@/_2ex/[r]_{id_{D}} \ar@{}[r]|{\Downarrow\varepsilon}& C \ar@/^2ex/[r]^{FG} \ar@/_2ex/[r]_{id_{D}} \ar@{}[r]|{\Downarrow\varepsilon} & C}=\xymatrix{ C \ar@/^2ex/[r]^{FG\circ FG} \ar@/_2ex/[r]_{id_{D}} \ar@{}[r]|{\Downarrow\varepsilon * \varepsilon}& C} \]

となり、この可換図が成り立つことを意味する。

前回、随伴の定義で見た(4)合成は
\[ \xymatrix{ G \ar[r]^-{\eta G} \ar[dr]_{id_{G}} & GFG \ar[d]^{G \varepsilon} \\ & G } \] であるが、ここは簡単に考えて、これに右から$F$を合成するなどして、次の可換図
\[ \xymatrix{ GF \ar[r]^{GF_{\eta}} \ar[dr]_{id_{GF}} & GFGF \ar[d]_{G_{\varepsilon}F} & GF \ar[l]_{\eta GF} \ar[dl]^{id_{GF}}\\ & GF & } \] を得る。
$T :=GF,\mu := G\varepsilon F : GFGF (=T^2) \xrightarrow{.} GF (= T)$とおくと、これが、モナドの定義を満たすとのこと。
すなわち、随伴$\langle F, G, \phi \rangle$があれば、モナド$T=\langle T, \eta, \mu \rangle$を構築することができる。

混乱の末「モナド」という用語に至った経緯や、「随伴より定義されるモナド」と呼ぶことになった
簡単な説明が「圏論の基礎」(S.マックレーン著)にある。(184,185頁)

定義 (モナド)
圏$\mathscr{A}$上のモナド(monad)とは$< T, \eta, \mu >$という組で、$T: \mathscr{A} \to \mathscr{A}$は関手、 ${\eta: id \xrightarrow{.} T, \hspace {5pt} \mu : T\circ T \xrightarrow{.} T }$ は自然変換であり、任意の$\mathscr{A}$の対象$A$に対して以下の図式を可換にするものである。 \[ \xymatrix{ TA \ar[r]^{T(\eta_{A})} \ar[dr]_{id_{TA}} & T(TA) \ar[d]_{\mu_{A}} & TA \ar[l]_{\eta_{TA}} \ar[dl]^{id_{TA}}\\ & TA & } \] \[ {\begin{CD} T(T(TA)) @>{T(\mu_{A})}>> T(TA) \\ @V{\mu_{TA}}VV @VV{\mu_{A}}V \\ T(TA) @>{\mu_{A}}>> TA \end{CD} } \] なお、$\eta$を単位元、$\mu$を乗法と呼ぶ。
(「圏論の歩き方」、圏論の歩き方委員会、日本評論社、2015.10.25)より
「圏論の道案内」にも同様の定義がある。「ベーシック圏論」には「モナド」の項はないようだ。
【最後に】
これで、この投稿を終わります。
拙い投稿にお付き合いくださり有難うございます。モナドは情報科学などで注目されており、
圏論では「米田の補題」など話題はたくさんありますが、この後は「数学物理」グループで、
解りやすい図解と興味深い話題で投稿を続けておられる結城浩氏や多くのネット上の書き込み
などを参照し勉強を続けたいと思います。この投稿のために、ネットや書籍を多数参照しました。
引用元は明記したつもりですが、不備があればご容赦ください。

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