コンピューターで通信を・Part1.
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「禁断のPC通信・Part1.」


ふふふっ ,ついに禁断の実を手に入れてしまった。
私は家に帰ると,おもむろにパソコン屋さんの味気ない紙袋から箱を取り出した。その箱には「NIFTY-Serveキックオフパック14400-MODEM」と印刷されている。

日曜日 ,プリンターのケーブルを買う為にパソコンショップへ行ったのだが、その頃私が使用していたコンピューターは「Panasonic-M21」と言う富士通のOEMコンピューターなのであった。勿論「マイナー」という言葉がしっかり付属するのであった。

そしてプリンターは富士通のドットプリンターだ。そうガガガッとうるさい奴なのである。電源を入れただけでガガッシューン!とヘッドが動き,「さあ!いつでもこい!印字してやるぞ!」と,気合いを入れる可愛い奴なのである。

最近はバブルジェットというカラーで静かなお行儀の良いプリンターが主流らしいが,書き物を印字するにはこいつで十分である。そのドットプリンターのケーブルの接触が悪いらしく,起動時に時々「プリンターエラー」の表示が出るので気になっていたのである。そこで今回,こいつに新しいケーブルを交換してやろうと出かけて来たのであった。


しかし 店内をいくら探しても富士通のプリンターケーブルが見当たらないのである。仕方がないので店員に聞くと「お持ちのプリンターのコネクターのタイプは?」と,逆に聞かれて困ってしまった。うーん,富士通のプリンターのケーブルがそんなに幾つものタイプが有るとは知らなかったのである。「いや,こんな形の奴で・・・」と,仕方がないので手でコネクターの形を表現したのだが店員には理解できなかった様である。

店員は近くにあったケーブルを持ってきて「こんな形でしたか?」と申された,しかし今度は私が全然わからなかった。焦って「うーん,もう少し小さいコンセントだった様な・・・」と言うと,店員は一瞬吹き出しそうになってから,わかった様にうなづいて,「うちには富士通のプリンターケーブルは置いてはいないのでメーカーの方へ注文する事になりますが」と言われてしまった。

「まったくぅ〜」無いのなら初めから無いと言って頂きたいものである。注文なら家に帰ってプリンターの形式番号を見てから電話でも注文出来るのである。緊張してコネクターを「コンセント」などと言い間違えて,いらない恥をかいてしまったではないか。しかしまあ無い物は仕方がない,あきらめて何か面白い物は無いかと,店内を見て回った。


私はコンビニなどへ行って目的の物が無くても,手ぶらで出てくる事が出来ないタイプの「小心者」 なのである。店に入った以上は,何かを買って帰らねばならない気持ちになってしまうのである。スーパーの安売りでもそうだが,「卵1パック20円!」の売り出し広告を見て買いに行っても,とても「卵」だけ持ってレジへは行けないのである。まさに商売人にとって「思うつぼ」 の消費者なのであった。

パソコンショップの店内を廻りながら「ふむふむLAN(ラン)かぁ,楽しそうな装置だな」などと,知ったような事を呟くのだが,LANの意味をまったく知らない私であった。しばらく散策していると,「モデム」がたくさん並んでいた。

14400bps,28000bps,うーん,全く何の事やらわからない。しかしこれが今流行のパソコン通信をする道具だという事は知っている。それまでパソコン通信とは,コンピューターマニアが,電話線に自分のコンピューターを繋いで「夜な夜な自分だけの世界に入って楽しむ不健康な道具」,「コンピューターマニア達がウイルスをまき散らしたり,ハッキングをする為の道具」と言う「悪い道具」としてのイメージが有ったのである。私は数年前まで仕事で使う以外はコンピューターを触らなかった人なのだ。そう,コンピューター自体がそもそも不健康だと思っていた(今でも思っているが)。


事の始まりは数年前,スキーのポール競技の練習中にアイスバーンで転倒して腰を痛め動けなくなった時期に,暇をもてあましてWindowsを起動したのが運の尽きであった。それまでWindowsと言うソフトが,パソコンの中に無料で入っているのは知っていたが,仕事には関係の無い物だったので,起動さえしたことが無かったのである。と言うか,起動の仕方を知らなかったのである。電源を入れれば自動的に仕事のソフトが立ち上がる様にわざわざ細工されていたのだ。

暇を持て余していた私はコンピューターを導入して5年目にして初めて「説明書」を読み,Windowsを起動してしまったのである。そしてマウスボタン一つで,何でも出来るWindowsにハマり,16色に狂喜した。

それ以来,パワーユーザー目指して夜な夜な頑張って(遊んで)きたのである。しかし,パソコン通信だけはやるまいと思っていた。私にはかなり難しそうだし,お金もかかりそうだ,「通信に手を出したらホンマモンのヲタクになってしまう」と,自粛していたのである。しかし,DOS のコマンドひとつ打てない私にとって,心の中では,カチャカチャと呪文の様なコマンドをキーボードに打ち込む姿は「カッコイイ」と 憧れていたのも事実であった。


暫く色々なモデムのパッケージを眺めていたのだが,その中で「NIFTY-Serveキックオフパック」というのが目にとまった。「今すぐ誰でもすぐにパソコン通信が出来るガイド+イントロパック+Windows通信ソフト付き14400モデム」と書いてある。

なんと!このモデムはW indowsでパソコン通信が出来るのである!「今すぐ誰でも」とも書いて有るぞ!,Windowsなら私にも出来そうな感じであるし値段も安い,うーん。今まで,「パソコンは,通信にまで手を出しちゃ終わりだよ」と公言していただけに,どうしようかなぁーと苦しんでいると,さっきから私の右に立っているオジサンも「NIFTY-Serveキックオフパック」を見ている事に気が付いた。

いかん! 「NIFTY-Serveキックオフパック」のパッケージは目の前に一つしか無いのである!。そう思うが早いか,私の左の手が伸びて,無意識のうちにパッケージを掴んでしまった。私の右に立つオジサンが「NIFTY-Serveキックオフパック」のパッケージを引き寄せる私の手を見ているのを確認した瞬間,私は「勝利」に酔った。

やはり「気付いた時が,決断の時,実行の時」である。
勝者(わ・た・し)は何食わぬ顔でモデム売場を立ち去り,その勝利を味わいながら,ゆっくりとした足取りでレジへと向かったのであった。




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