「だからウンチぢゃないってばぁ」
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「だからウンチぢゃないってばぁ」


私の起床は家族の中で一番遅い。私が二階の寝室のベットから起き、爆髪している髪をボリボリと掻きながら一階のラウンジ(居間)へ到着する頃には、小学一年生の 娘は、すでに集団登校の集合場所へ向かった後である。

玄関から朝刊を取ってダイニングへ行くと、二歳になる息子「祐介」はテレビ前のホッカホッカ・カーペットに寝そべり「ズームイン朝」を眺めている。私はキッチンカウンターに座る。もとい、キッチンカウンター前の椅子に座る。妻の差し出す生協の特薦粗挽きモカコーヒーを一口飲む頃には、オーブントースターから「パンが焼けたぞぉ!」と言わんばかりのベルが鳴る。いつもの「わたしの朝」である。
・・・しかし、今日はこの後がいつもと違った。

二歳半の祐介は最近やっと言葉をしゃべれる様になり、好奇心も旺盛になってきたので、朝からウルサイのであった。この日も粗挽きモカコーヒーとヤマザキのダブルソフトのトーストに「塗るチーズ」をつけて朝食を済ませた私は、いつもの様にコーヒーの持つ利尿作用でトイレへ行くのであったが、後ろから息子が私について来るのであった。

道中「今日のズームインは面白く無いの?」と、息子に分かるはずも無い話をすると、案の定「ないのぉー」と語尾だけマネするのであった。まあ、可愛い奴ではある。そしてトイレに入りドアを閉めると、ドンドン!とドアを叩きまくり「あててー(開けてー)」とうるさいのであった。仕方なくトイレのドアを開けてやると、今度は「みせてぇー」と、どちらにしろウルサイのであった。


狭いトイレの中で小用をしながら、私は後ろに居る息子をブロックしていた。するといきなり股の間から可愛い手がのびて、私の「朝の一番搾り」を触ったのでタマゲてしまった。「どぉわー!やめれ!やめれってぇー!おおぉ!」私はパニックになった。

そういえば「やめれ」と言うのは北海道は函館付近である。学生時代、共に寮生活をしていた私の友人が、北海道は函館出身だった。そして入学したての頃、同じ部屋の奴にイタズラをされた時に「やめれって言ってるだろぉー」と言った為に、その後、そいつのアダ名は「ヤメレッテ」になってしまったのである。

すまん話がそれてしまった。そう私はすごく慌てていたのであった。しかし水道の様にスグに止める事なんて出来ないのである。「いかん!おいっ!」と言いながら放水停止を試みるが、丁度勢いが良い時だけにそれは至難の業。ついには膀胱が痛くなってしまった。

しばらくしてようやく放水(水では無いが)は止まったが、半ばパニック状態だったので、的が外れて私のパジャマのズボンも祐介の袖も便器の場外も、すでに水浸し(水では無いが)になってしまった。唖然とする親を前に「あっかいネぇ〜(温かいの意)」と、状況をまったく理解していない息子であった。まったく憎めない奴である。

仕方なく、トイレに備え付けてある蝶柄タオルで息子の袖を拭こうとした時である。「パパ,ンチ,ついてるよぉ?(パパ,ウンチついてるよ)」と息子が言うのである。「えっ?」と、息子の指の先を見ると、祐介では無い方の息子がズボンの窓から顔を出したままであった。

「あはは、これはウンチじゃ無いんだよぉ」と、そそくさとしまったが祐介はマジマジと見ていた。「うーん、確かにウンチに見えるかも知れないねぇー」こうして思わぬハプニングで「楽しい時間」を過ごしてしまった私は、仕事に遅れた。


私の仕事が終わるのは、午後八時頃である。自宅へはドア一枚、開くと祐介が朝と同じ格好でカーペットに寝そべり、今度は「NHKニュース7」のラストを眺めていた。そう、たかが二歳である、文字どうり「眺めている」だけなのであるが、それを見て 私はニュースステーションの小宮さんを好きな「クレヨンしんちゃん」を思い出した。 同時に「あんな子供には,なってくれるな」と心から願ったのであった。

食事が済むと私が子供を風呂へ入れる。実は,私は子供の「入浴係」なのである。娘が生まれた時から七年間、ずぅーっと「入浴係」である。たまにはゆっくりと一人で風呂に入りたいとも思うのだが、いかんせんそのように躾(しつけ)られてしまっている。「最初が肝心」と妻は言う。私もそう思う。その夜は娘が風邪っぽいので祐介と二人 だけで風呂に入った。

よーし、きれいきれいしたから肩まで浸かって十数えてぇ〜」と、息子に指示すると「いーち,にぃーい」と数え始めるのである。可愛い奴である。しかし、まだ数え方が完全では無く「さぁーん、しぃーい、ごぉーお、ろぉーく」の次の「しぃーち」を、四の「しぃーい」と間違えるのである。

つまり「しぃーい、ごぉーお、ろぉーく、しぃーい、ごぉーお、ろぉーく」と、無限ループに陥るのであった。そして無限に数えさせている間に私は脱衣所へ出て、お先にパジャマに着替えてしまうのである。そうしておいて新しいバスタオルを用意して息子を呼ぶのであるが、今日は呼んでも出て来ない、そういえば「数」も数えていない。

風呂場を覗こうとしたら、赤い顔をしてやっと出てきた。「よぉーく温まったかぁ?」と聞くと、赤い顔をして「パパぁ,ンチだぉー」と言うので「だからぁ〜これはウンチじゃ無いってば」と自分の股間に手をやったが、祐介で無い方の息子は顔を出していなかった。・・・もしや?。

「げー!」あわてて風呂場を覗くと、入浴剤で乳白色に染まった湯船にぷかぷかとリッパなウンチが浮かんでいた。赤い顔をしていたのは、・・・そう「りきんで」いたのである。乳児と違って二歳にもなると少々香りがキツイが、まあ「軟便」で無かっただけでも救いであった。

そして風呂場の掃除をしながら、息子の健康的なウンチの色を思い浮かべて、来週から朝のコーヒーは
「トアルコ・トラジャ」にしてもらおうと決めたのであった。



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