命の選択を

最終更新日 1999.1.25
"思い出は常に過去形で語られる"

---おじさんの愚痴は常に「最近の若い者は」で始まる


者を取り違えて手術をしてしまった病院の話を聞きました。なんでも名字が同じだったとかで、次からは本人に名前の確認も行うんだとか。たとえて言うなら、食中毒を出した弁当屋が「次からは手を洗って調理します」と言ってるようなもんですね。病院や医者ならお咎めなし。困ったものです。今でも政治家や医者、教師は聖職だという意識が残っているのでしょうか。さて、たまには現実に目をむけてシリアスな話でもしましょう。

 知人から電話があり、ちょっとした相談を受けました。田舎にいる彼の祖父の様子がおかしいというのです。なんでも「夜中に犬が吠えてうるさい」とか「布団の中にヘビがいる」とか、実際には何もいないのに騒いでおり祖母が困っている、すこし話を聞いてやってほしい、とのこと。その後、適当な時間を見つけて何度か電話をし、判明した状況を書いてみます。

 まず、その祖父(Aさんとしましょう)は以前に眼底出血で入院したことがありました。そこで血圧が高いと診断され経口の血圧降下剤を長期にわたって処方されました。その結果、当然の副作用として腎機能が低下し、体のむくみやダルさが彼を襲います。仕方なく病院に相談したところ、別の病院を紹介され、あっさり腎炎と診断。すぐに透析患者としての人生が始まりました。そして現在に至ります。透析を始めてからはなにかと体調を崩すことが多くなり、散歩もままならないそうですが、最近は足の調子が悪くて困っていたのだそうです。なんでも紫色に腫れたり皮膚がはがれたりしてひどく痛がるとか。そこで透析を行っている病院に相談したところ「透析患者には一般的な症状だ」といわれ、様々な薬を処方され、それから幻覚を見ることが多くなったようなのです。
 さっそく薬のサンプルを送ってもらい調べたところ、処方されていたのは痴呆症改善薬、胃薬、正体不明の新薬、そして睡眠薬でした。とくに睡眠薬としてトリアゾラム、通称ハルシオンを大量に処方されていました。一般に透析を必要としている患者は薬物を体外に排泄する機能が低下しますから、投薬は慎重に行わなければなりません。ましてやトリアゾラムのような幻覚症状や健忘症を引き起こす薬を与えるときは十分な説明を行い、副作用が現れたら直ちに中止するのが常識です。それよりも足の痛みをとることが先なのに、そうした薬はまったく与えられていないのです(針治療を薦められたらしい)。電話からはなんとも言えませんが、感染症を起こしているのなら抗生物質の投与が必要でしょうし、血行障害による凍傷に似た症状なら、トコフェロール(ビタミンE)など、医者なのだからイロイロと方法はあるはずです。それを、痛くて眠れないといわれて幻覚症状や血圧低下を招く睡眠薬を説明もなしに処方するとは。はっきりいってヤブを通り越しています。とりあえず、幻覚は薬の副作用であり、服用を止めれば直ることを告げ、足の治療は一切行われていないので早く別の医者に診てもらったほうが良いと助言しました。

 さて、ここまで読んだ方はどう思われました?さっさと病院を変えればいいのに?ごもっとも。しかし、そう思ったあなたは都市部に住んでいる方でしょう。Aさんが住んでいるところは、いわゆる過疎地です。それも地縁血縁が重んじられる排他的な世界。もちろん他に透析が行える病院はありません。それどころか、医者といえば地方の名士。他の医者や政治家とも付き合いが長いので、ちょっとしたトラブルは表沙汰になることすらありません。しかも、たとえ皮膚科であっても透析医の紹介がなければ他の病院では診てはもらえないのです。そうなると他の町に引っ越すしかないのですが、長年住み慣れた家を捨てろと、70歳を過ぎたお年寄り夫婦に言うのはあまりにも残酷です。厚生省や医師会、医療オンブズマンに相談してみる?まず厚生省や医師会が何もしてくれないのは皆さんご存知でしょう。オンブズマンなどに関しては、あるいは力になってくれるかもしれません。しかし政治色の強い団体が多いため、被害者としての「客寄せパンダ」にされるのを彼の祖母が極度に嫌がります。まさに八方フサガリで、くだんの医者は老人医療費をせしめ続け、弱者は新薬の実験台にされながら緩慢な死を迎えることになるわけです。本当の弱者は声もなく消えていく、それが現実。

 ご存知かと思いますが、マスコミは定期的に臓器移植キャンペーンというものを行っています。いわく脳死患者からの移植がいまだに行われていないとか、病気の子供が渡米するシーンを映して「国内で移植可能になる日はいつか」なんてセンチメンタルなニュースばかり。たしかに将来のある子供の命を救うことは大切で、そのために自分の臓器を提供するというのは崇高な行為でしょう。私だって自分の子供を救うためなら土下座だってなんだってやります(子供はいないけど。独身だし)。しかし、「医者にメス」をご覧になればわかるように、ごく普通の患者が初歩的としか言いようのないミスや限りなく犯罪に近い行為で殺されたり、不自由な生活を強いられているのも事実なのです。彼の祖母も「透析を続けて欲しければ臓器移植やコーディネーターの地位向上に関する署名と寄付を集めてこい」と暗黙の強要を受け、足が悪いのに雪の降るなか御近所を何軒も(何キロメートルも)歩き、名前だけ書いてもらって寄付金は年金暮らしの自分が全部出したそうですが、そんな署名に何の意味があるのでしょう。一方で効きもしない痴呆症の薬を投与し続け、遺族からのカルテ公開は拒否、もう一方で命は地球より重いから臓器をよこせ。病気の子供や老人を人質にしてやりたい放題に見えるのは私だけでしょうか。

 こういう医者が存在し、彼らの自浄能力も期待できないとすれば、我々はどうすればいいんでしょうね。あなたも私も間違いなく老いていくわけです(私なんざ、もう年寄りですし)。ここで紹介したクズ医者に食い物にされないためには、陳腐ではありますが健康管理に気を配るしかないでしょう。私が言っても全然説得力はありませんが(笑)。でも、老人ホームに閉じ込められ、危険だからと眼鏡を取り上げられて本も読めずにボケるのはイヤです。インフルエンザの院内感染で死ぬのもイヤです。医療保険目当ての頭数揃えで入院させられるのもイヤです。たとえ足腰が弱ってしまっても、介護なんてまっぴら。「人を年寄り扱いするなよ」とスゴむ練習でも始めておきましょうか。
 

注意:この話に登場した人物や人間関係は、プライバシー保護のため事実とは異なる部分があります。ただし、症状や処方された薬などの事実関係に脚色はありません。この点は私が保証します。文責は私にありますが、該当する病院や医者の名前、所在地、患者の名前などは公表しません。ご了承ください。



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