Xに必要な切り札

最終更新日 2000.3.19
"思い出は常に過去形で語られる"

---おじさんの愚痴は常に「最近の若い者は」で始まる

めてハイパーカードを触ったのは、うーん、思い出せない(笑)。いつ頃だったっけ。たしかDynaMacをPlusに改造したヤツで動かしてみたような記憶があります。第一印象は「遅い」でした。その後、Macintosh IIで動かした時は「モノクロで寂しい」と感じたかな。ボタンを作ってリンクして、ちょっとスクリプトを書いてポイ。私はデザイナーではないので、あまり関係ないな、って感じです。特に感動や衝撃はなかったですね。

 プログラムとして評価した場合も、システムのバージョンに依存している部分があったり、モニタをカラーにしているとエフェクトが使えなかったり。日頃デベロッパーに守れと言っているガイドラインを自分から無視した作りが気に入りませんでしたし、何でも出来そうな割にXCMDを作らないと何も出来なかったりで、Appleお得意の「コンセプト優先」ソフトウエアだなあ、というのが正直な感想でした。

 その後は、本体にバンドルするとかしないとかでひと騒動、作者の一人ビル・アトキンソン氏は会社を離れ、バンドルされるのは再生専用のプレーヤーだけになり、と衰退の一途。QuickTimeがらみで少し話題になった程度で、熱心なユーザー以外には無関係なソフトになったと言って良いでしょう。使われないソフトは消えるしかない。そんな市場原理が働いたわけです。

 さて、いよいよMac OS Xが登場するわけですが、どうもGUIの「Aqua」の話題が先行しすぎているような気がします。あんなものは仕様書さえあれば現行のMac OSはもちろん、PCだって真似できるわけで新OSの特長としては的外れだと思いませんか。あ、もちろん、アイデアやデザインが素晴らしいのは確かですよ。ジョブス氏がどういう意図であれを発表したのかは知りませんけど、Appleにしか出来ない画期的なものであることは事実です。正式発表までには、さらに洗練され使い易くなっていることでしょう。もしかしたら、もっと高速に動作するかもしれません。しかしMac OS Xの真価は、やっと実現したモダンなオペレーティングシステムにあるという点も覚えておいたほうがいいと思うんですよ。

 「そんなのユーザーには関係ない」という意見。なるほど正論ですし、私なんかむしろ「その通り」とさえ思います。もし、手持ちのソフトが全部、何の問題もなく動作するならば。しかし現実はどうでしょうか。Mac OSのバージョンが0.1上がっただけでトラブルが多発しているわけで、68KからPowerPCに移行した時のような奇跡がMac OS Xで再現される保証はどこにもありません。むしろ、細かいトラブルに騒ぐメディアと反論する技術者の攻防が繰り広げられるような予感がします。さらに悪いことに、このMac OS XはUNIXベースであるため、そちらの熱烈な支持者による徹底的な「馬鹿阿呆無知」攻撃が繰り広げられる可能性も大きいと考えられます。「Mac OS Xの利点が全然わかっていませんね」とか「初心者は以前のMac OSを使えばいいのです」とか「何の知識もなく新しいOSを導入するほうが悪いのでは」なんて言いそうだと思いませんか(すでに、その萌芽が彼方此方に...)。

 GUIなんてのは、自然であればあるほどすぐに慣れてしまいます。ユーザーは常に刺激を求める。それがソフトの不具合や単品販売の遅れ、アップグレード代に対する不満に火を付け不毛な論争が起きる。そんなことになればユーザー層は二分され、消えていった多くのOS同様に名声だけが残ることだって考えられます。これは非常にもったいないしMac自身の存在も危うくなる大問題です。多くのプログラマーはMac OS Xに期待していますし、これが普及すればソフト開発も(ツールが揃えば)かなり楽になることは間違いないでしょう。この新OSの真価が広く理解されるまでは、なんとか困難を乗り越えてほしい。そう願わずにはいられません。

 そこで登場してほしいのがハイパーカードなのです。普通のユーザーがMac OS Xの能力を最大限に引き出せるツールとして。もちろん現行のバージョンではお話になりません。「カード」の部分は単なるデータベース機能に降格。名前から消えたって問題なし。自分で書いたスクリプトは、どんどんアイコン化して再利用可能にし、アイコン同士はラインで連結。複数のアイコンを組み合わせて別のアイコンが作れるといった、完全なオブジェクト指向の仕組みも用意してもらわないと困ります。次世代のインターフェースビルダーを組み込むくらいのことはやってもらわないと。さらに、Appleが用意したQuickTimeやOpenTransportが簡単に操作でき、HTMLを解釈できるコンポーネントも必須です。サイバードッグなんかもドラッグ一つで実現できるようにしてほしいところですね。新規の書類に「メニュー」アイコンと「HTML処理」アイコンと「表示ペーン」アイコンをポトリと落として、ちょいちょいとつなげば出来上がり。そろそろ、そんなツールができても良い頃だと思いませんか。そして、そういうツールがあれば、単なるネットワーク端末ではない個人のツールとして脱皮できると思うんです。このOSの機能を技術者だけに独占させるなんてもったいない。そんな評判が広まってほしい。

 個人的には、Macというのは相変わらず厳しい状況に置かれているという認識があります。たしかに本体は爆発的に売れましたが、その割にはMac用にソフトを書こうという人が増えていません。最近は、ほしいと思うソフトもなくなりました。これはひとえに、中身に進歩がないから、ソフトとしてのOSが魅力を失っているからだと思います。特に最近の細かいバグフィックスとくだらない新機能の追加で金を取る商売にはウンザリです。やはり、そろそろAppleらしいソフトを作ってくれないと、新しい風は吹かない。そのきっかけをMac OS Xが作ってくれれば、私も借金して新型Macを買うかもしれません。


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