冷蔵庫

最終更新日 1999.5.22
"思い出は常に過去形で語られる"

---おじさんの愚痴は常に「最近の若い者は」で始まる


かに冷えにくいな、とは思ってたんですよ。いや何がって冷蔵庫が。でも冷凍庫のほうは問題ないみたいだし、夏も近づく八十八夜、暑くなってきたからだろうなんて気楽に考えていました。しかし、さすがにワインの貯蔵庫程度しか冷えないとなると「ヘンだなあ」と。仕方なく冷蔵庫のマニュアルを探し出し、温度調整やらなんやらをやり、デスクトップを再構築してPRAMをザップしてPnPバイオスをクリアしてシステムを再インストールするものの全然ダメ。購入したのが5年前くらいだから保証も切れてるけど、壊れるには早いじゃんと毒づきながらサポートセンターへ電話。しかしそこは優秀な家電メーカー、パソコンと違って速攻でつながり、親切丁寧な受付嬢から「明日直しに行くから電源切って待機せよ」と指示が!がががが〜ん!早いのはいいけど、中身はどうするんじゃい。

ま、中身といっても冷蔵庫は烏龍茶くらいしか入ってないんですが、問題は冷凍庫。この中には私の数少ない好物である魚の干物が満載状態で、これが壊滅すると餓死する危険性すら否定できない命綱。カレイにアジにアマダイにノドグロが、私に食べられるのを待っておるのです。仕方ないので知人に頼み込んでそっくり移動(あのときはホントにありがとさん>某氏)。次にコンセントを抜き、上のオーブンレンジを移動して大掃除開始。設置場所も移動して、裏側にネズミやゴキブリやネコが死んでいないか確認し、ひたすら雑巾がけ。考えてみれば、冷蔵庫というのは何年も電源を入れっぱなしでクラッシュもしなければスリープもしないカワイイやつなんですよね。こういう地味だけど堅実な技術が我が家を支えているのだなと、口先ばかりのパソコン業界に躍らされている自分を責めつつ感心。枯れた技術と馬鹿にする前に、ちゃんと動くものを作れよパソコン業界。

で、次の日。空っぽの冷蔵庫を前に「タマにはぬるいお茶も悪くない」なんて負け惜しみをつぶやきながら修理担当者の来襲を待っていると、なんと予定時刻の5分前に確認の電話が入り、ほぼ指定時刻に到着。ああ、こんなところに日本人の美徳が伝承されていたとは!しかも担当者の丁寧なこと。挨拶からはじまり、簡単な質問の後で、推定される故障原因を説明し、いくつかのケースを想定して見積もりを出し、私の許可を求めてから冷凍庫のパネルを手際よく分解し始めました。取り出した謎の部品も「これは壊れていないと思いますが、万が一壊れている場合は交換するより新品を買ったほうが安くなるかもしれません」と断った上でテスター検査。結果は問題なし。次にドライバの親戚のような機具で奥のほうをコンコンと叩くと、手には巨大な氷の塊が。「これが冷気の循環を妨げていたようです。」うーむ、透明度からすると一日や二日で成長したとは思えない。こいつが諸悪の根元かっ。

原因が分かったところで冷蔵庫はたちまち元通りに組みあがり、氷塊の発生原因や今後の注意点、今回の修理の保証期間、これ以外に故障原因が存在した場合の返金保証などの説明が続きます。終始笑顔を絶やさず、相手を不愉快にすることもなく、技術者特有の傲慢さなどカケラも示さずに、修理代と技術料4000円を受け取った修理担当者は春風のように去っていったのでした。

結論から言えば、コンセントを抜いて数日放置しておけば氷塊は溶け元どおりになったハズです。しかし、素人である私がそれに気が付く可能性は低かったわけで(気が付いても実行できないでしょうし)、4000円というのは安かったと思うんですよ。それに、この担当者の親切丁寧なこと!いわゆるマニュアル通りの対応というより、手に技術を持っている人ならではの余裕が感じられるのです。どうせ素人は無知だからと馬鹿にした様子もないし、「ちゃんと冷蔵庫の構造を理解しておけば、こうした問題も自力で解決できるのです。その努力を怠った無知なあなたは、こうして優秀な私にお金を払うしかないのです。私は後悔したくないから冷蔵庫の構造を勉強したのです」などという超ムカつく説教を垂れるわけでもない。それでいて費用は4000円。出張費込みですよ。もっと高くてイイ、とは言わないけれど、技術の割に法外なカネを受け取り、他人をバカアホ呼ばわりして喜んでいるお子様連中は爪のアカを煎じて飲んでほしいと本気で思いましたね。自戒を込めていってるんですけど(笑)。

そういえばオープンソースとかいうモノが猛威をふるっているようで、ソフトはタダじゃないとダメだとか、ソース付きでないとダメだとか、まるで文化大革命前夜のような賑わいです。商用ソフトをパクッたものを無料で配るのも文化だそうですし。自腹でインターネットに接続し、税金を払っている側の私としては、ちょっと学術関係への補助金に関して真剣に考える時期がきたのかもしれません。個人的には、Linuxが注目されたのに便乗して妙な思想を吹聴する声の大きい奴が増えてきたなぁと憂鬱なわけですが、百歩ゆずってソフトを売るというビジネスが衰退しメンテなどのサービス中心の世の中になったとしましょうか。そのときに必要とされる資質は、もちろん技術力なわけです。しかし、それだけですか?今回の冷蔵庫を例に取ると、デジタルに説明すれば「冷蔵庫が壊れ、修理屋が来て、直して帰った」だけです。しかし、あちらもこちらも人間なわけで、そこにはどうしてもメンタルな部分が存在します。同じお金を払うにしても心から感謝して払う場合と、床に叩き付けたくなる場合があるでしょう。サービス中心のビジネスモデルを声高に主張している人たちは、どちらのタイプでしょうね?

(1999.5.26 補足)
この駄文を読んだ方から、「猫の非常食みたいだ」と指摘されました。ごもっとも(笑)。


タイトル一覧へ

TOPへ

ご意見ご感想などはakiran@moon.email.ne.jpまで