パソコン的宗教戦争と技術者の黄昏 |
最終更新日 1998.6.7 |
"思い出は常に過去形で語られる"
---おじさんの愚痴は常に「最近の若い者は」で始まる
そんな中で私が個人的に心配しているのがインテル。あそこの技術者は「笑ってお仕事」してるんですかね、最近。たしかに、知名度もシェアもトップで(おそらく)収入も滅茶苦茶良くって何不自由なく働いておられることでしょうとも。いえいえご謙遜。でも最近変じゃないですか?なんだかカスな石(CPU)ばかり作ってませんか?気のせいかな。いやそんなことはない。自分の作った石が情けないことぐらい、私のような素人に指摘されるまでもなく彼ら技術者はイヤというほど感じているに違いない。原因も、86系の資産を引き継ぐという足かせにあり、技術者の能力不足ではないことも間違いない。
実際問題として、彼等は頑張ってると思うんですよ。とっくに限界が来ている86ファミリをここまで引っ張ってきた点は、消費電力分を差し引いても神業です。CPUの設計は勉強すれば誰でも出来るなんて仕事じゃないわけで、そこは職人さんの世界。それも限りなく神に近い天才職人のみが携わる最先端の仕事。86の命令が動いて早いチップという、単純だけど無茶な要求に、あの手この手の裏技を駆使して今のPentiumファミリができたわけですから、たいしたもんです、でかいけどね。しかし、だからこそ私は同情してしまう。たとえばMMXテクノロジやセレロン。マーケティングの要望や次世代(?)チップまでの時間稼ぎとはいえ、あんなインチキな汚れ仕事をさせられるなんて技術者としてはたまったもんじゃないっすよ。セールストークのために設計するなんて職人としてのプライドはズタズタです。地位が高くても収入が良くても、彼等が本当に欲しいのは「インテルは良い石を作ったなぁ」という賞賛の筈。技術には門外漢であるジョブスの「G3はPentium IIの2倍速い」という言葉は、彼等にとって相当ショックだったに違いないんです。「アプリケーションレベルでは動作速度に大差はない」なんて次元ではなく、CPUという作品としてのレベル、美しさ、スマートさ、そして速さにおいて差を付けられたことを、彼等は知識があるだけに深刻に受け止めたでしょう。「86のコードなんてOSがエミュレートしてくれれば」「PowerPCはファミリ内でも非互換な命令があるのにOSが面倒見てるじゃないか」「コンパイラが腐ってるんだよ」「新技術の恩恵は過去の資産とタコなOSが帳消しにするし」「同じ技術で一から作れるなら俺達だって」。最先端の技術屋ってのは、過去の資産の継承や改良よりも、まったく新しい技術で新しいモノを作ることに喜びを感じる人種です。たとえば彼等はIBMのAS/400eを見て何を思ってるんでしょうね。やっぱりワクワクするし、これ以上の作品を作りたいと思うし、自分ならもっと凄いものを作れると燃えるのがプロってもんでしょう。しかも彼等なら技術的には(OSはともかくとして)不可能ではない筈。問題は彼等以外のところにあるわけだし。
もちろんインテルのシェアは、そう簡単に崩れるもんじゃありません。Wndowsと同様に過去の資産ってものもありますから。しかし格下の互換CPUメーカーに猛追され、次世代チップも先行き不透明、隣ではエンドユーザーまでが「G3って速いよね」と噂し、そのチップが乗った「iMac欲しいようコール」が響けば、営業にとっては吹けば飛ぶよなシェアでも技術者としてはたまらないのでは。だからインテルさん。しょーもないビジネスゲームでこのまま技術者を使い潰してしまう前に、なんとかしてあげてよ。度肝を抜くような新型チップでも作ってさ。じゃないと彼等が可哀想だし、ハイエンドはIBMの一人勝ちになっちゃうぞ。でも無理だろうなぁ、独禁法違反で営業方針が変わるまではなぁ。みんな大変だよなぁ。