焼き肉屋にて

最終更新日 1999.1.30
"思い出は常に過去形で語られる"

---おじさんの愚痴は常に「最近の若い者は」で始まる


ろいろ一段落して知人と焼き肉屋へ。実は私、牛肉はあまり好きではありません。むしろ鶏肉、それもササミが好物だったりして。それからエビやカニも、たくさん食べたいとは思いません(イカは好きっ)。いわゆる高級食材は苦手なほうです。刺し身は一切受け付けませんから寿司もダメ。我ながら安上がりですな。とはいえ年に一度くらいは元気を出すために脂っこいものも食べるわけですが、頼むものは大体決まっています。
「ロースとカルビとサンチュとご飯」
ま、笑われますね、普通。知人は得体の知れないグニュグニュした内蔵肉をバンバン食べておりますが、それを横目に、しっかり焼いたロース肉をセッセとサンチュで巻いて口に運びます。ああビールが不味い。

「だからあいつは...プロ意識が...俺だったら...」
とてつもなく大きい声で隣の席の客が話をしています。缶コーヒーのCMか?みると男性一人に女性二人の三人組み。怒鳴っているのは男性で、かなり酒がまわっている模様。
「それなら自分で...書けないなら俺が...読めないレセプトを...」
なるほど。近所の大病院の皆さんですな。この三十代前半の殿方が医者で他は看護婦といったところでしょうか。余談ですが、これが薬剤師と看護婦の場合、立場は逆転します。看護婦というお仕事はキツく、お金を使う時間もないので、飲むときは豪快(らしい)。いっぽう薬剤師は職場でのコミュニケーションを円滑にするためお金がなくても酒席には付き合う。ヘタすると月収の半分が酒代に消えることもあるそうです。ひ〜。それはともかく「声がでかいな」と向かいの知人にアイコンタクト。ニヤリと笑って正体不明の半生肉を口に押し込む知人。そういう噛み切れない肉を、よく食べられるね。飲み込んじまえって、そりゃそうだが、ダメなのだよ、わたしは、脂身とかも気持ち悪いし、長く噛んでられるから得?うげえ、鳥皮?げろげろぉ、はいはい、子供ですとも。
有意義な会話も終わり、ベルトの穴も移動したところで店を後に。

「それにしてもプロはスゴイよな」と私。
「ん?」と知人。
「あの看護婦たちは、男のグチを聞くとき相手の目をじっと見てたじゃない。で、相づちを打ちながら、合間にタイミングよく、石焼きビビンバとかユッケとかキムチとかバンバン頼んでたでしょ。実際、我々が入店する前から食べてて、テーブルは肉で一杯。話の合間にモリモリ食べて、こちらが出て行くときも、まだ食べてた。男のほうは酒ばっかりで、あんまり食べてなかったよね。でも気分を害した様子はない」
「ほう」
「携帯電話が鳴って男が席を立ったときなんて、お互いに話をする間を惜しんでパクパク食べて、追加注文してさ。で、戻ってきたら、ひたすら聞き役にまわり、じっと目を見ながら箸を動かす。御勘定は医者が持つわけでしょ?さすがだよ。おごってくれる相手に対する礼節を知っている。おごられるプロ」
「つまらんプロだな」
医者は愚痴って、看護婦は食べてストレスを解消しているんですね。体を大切にね。


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