「乳もみさん」をご存じですか。いつ頃から始まったのかは分かりませんが、地域によって差はありますが昭和30年代頃までは、「乳もみ」(あるいは「ちちもみ」「乳揉み」という看板を掲げた店が各地にあったようです。『婦人世界』や『主婦の友』といった婦人雑誌にも、「乳もみさん」による母乳を出す方法が記載されており、母乳が出ない時や乳が張って痛い時には「乳もみさん」に揉んでもらうことが一般的に知られていました。ミルクの普及が進んでいない時代には、子どもに母乳を飲ませることは必要不可欠だったのです。
「乳もみさん」とは、あん摩師(マッサージ)の資格を持つ人のうち「乳もみ」を専業とした人や、免許は持たないが手技に長けた人だったようです。その中にはいわゆる「取り上げ婆さん」もいました。そして「乳もみさん」は、「乳もみ婆さん」と言われるように女性がなることが多かったようですが、男性も「乳もみ」を行う人が少なからずいました。全身あん摩に比べ、「乳もみ」は短時間で治療がすむ上、患者が三回ほど続けて通ってくれるということで、営業面でもいい商売だったそうです。そして「乳もみさん」は、産婦個人に治療するだけでなく、病院出産が主流となった1960年代以降にも、病院や診療所へも出張して治療する者もいました。
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