みどり日記 2001/04/05 NHKの報道によって出産はどう変わるか

日記インディックスへ

昨日(4月4日)のNHKのクローズアップ現代で、「お産が変わる−母子に優しく−」というタイトルの番組が放映された。その番組の内容を簡単にまとめた上で、感想をのべたい。

出産に関する意識調査(厚生労働省研究班)

 先ほど発表された、厚生労働省による「出産に関する意識調査」によると、6割以上の出産経験者が、会陰切開、点滴、陣痛促進剤の投与の医療行為を受けていた。さらに、そうした医療行為が彼女たちにとって苦痛となっていたことが明らかになったという。出産の満足度については、助産院出産経験者は96%もの人が満足と答えたのに対し、大病院になるほど満足度が低下し、大学病院での出産経験者の満足度は70%と低かった。

助産院での自由体位での出産の取り組み

助産院の例として東京都杉並区の黄助産院があげられた。ここは、年間200件もの出産があるほど人気が高い。その理由は、経験豊かな助産婦の時間をかけた診察、自由な体位での出産ができるがあるという。ふつう、このような長時間の診察を受けたり、自由体位で出産することができないからだろう。

病院での新しい取り組み その1(自由体位での出産・医療行為を減らす試み)

そのような中でも、自由な体位での出産に踏み切った病院もある。湘南鎌倉病院(年間の出産件数750)が一例だ。ここでは、十年前から医療行為をなるべく減らす試みがなされ、その結果、今までの医療行為は、分娩時間を短縮するために行われていたことがわかったそうだ。そして分娩時間が仮に2時間を超えても、安全なお産が可能であることが明らかになったという。このため会陰切開率は33.2%から0.3%にまで減り、陣痛促進剤の投与も9.2%から5.6%にまで減ったという。さらに畳の部屋を用意し、正常分娩が予想される妊婦は、畳の部屋で自由な体位で分娩できるようにした。

病院での新しい取り組み その2(カンガルーケア・母子同室)

もう一つの病院の例が、渋谷の日赤医療センター(年間出産件数1.600以上)である。ここではカンガルーケアを実施しはじめた。赤ちゃんが生まれると、沐浴や体重測定などの行う前に、母親のお腹の上に皮膚と皮膚が触れ合うように赤ちゃんを抱かせ、さらに出産後一時間で赤ちゃんにおっぱいを吸わせる。肌と肌が触れ合うことで、赤ちゃんは安心し、おっぱいを吸われることでお母さんはプロラクチンというホルモンが分泌して母乳が出るようになる。また体温が上昇しているお母さんの肌に触れることで、赤ちゃんの体温低下が防げると、日赤医療センターではカンガルーケアの効果を分析している。ここでは、完全母子同室で、一時も赤ちゃんとお母さんが離れることはない。以前のように赤ちゃんを新生児室で集中管理するよりも、母子同室で母子が密着している方が、入院中に母親は赤ちゃんの世話に慣れ、退院後も安心して育児ができるようになるという。助産婦が二十四時間体制で授乳室におり、そこに行けば母親は様々なアドバイスを助産婦から受けることができるという。

なぜ今、出産が変化しているのか

なぜこれらの変化が今起きているのか。NHKの飯野奈津子解説委員は、WHOによる正常出産のケアに関する実践ガイドの発表(1996年)、欧米の病院出産の変化などの流れ、そして母親たちの意識の変化をあげた。WHOの実践ガイドでは、ルーチンケアの剃毛や点滴は効果がないのでやめるようにと勧告している。また会陰切開や分娩監視装置も、母子の急変などが予測される場合以外は、使用しないように勧告している。これらの動きに伴って、欧米ではすでに出産の場で変化が起こっているそうだ。これらの情報を得ることによって、日本の母親たちも、病院で日常的に行われる医療行為を批判することができるようになったという。病院側も少子化の影響で分娩数が減り、母親のニーズに合わせる必要が生じてきたと考えられるという。なおWHOによる正常出産のケアに関する実践ガイドは、日本では、戸田律子訳(1997)『WHOの59ヵ条お産のケア実践ガイド』(農文協)として出版されている。

WHOは助産院出産を勧めている−その安全性を保証するためには−

これらの病院での新しい出産の試みは、数多くの助産院ではすでに行われてきたものである。もちろん、赤ちゃんの誕生の瞬間まで、自由な体位で出産ができる助産院は、まだ限られているようだが、助産院の多くは入院室は母子同室(あるいは同床)で、24時間母子が密着できる。また会陰切開や陣痛促進剤の投与や点滴という医療行為は、助産院では基本的には行わない。(但し、助産院によっては、緊急の場合にそれらの医療行為を行うこともある。またクリステレル、人工破膜、胎盤の用手剥離などの実施状況は、助産院によって差がある。すべての助産院が医療行為を行わない、という思いこみは危険だ。)
どこまでが必要な医療行為なのか。本当に必要な時に医療を受ける権利は、誰にでも保証されているのか。助産院や小さな診療所で出産をした場合に、必要な医療は受けられるのか。助産院によっては、医療機関との提携がとれている所ももちろんあるが、提携がとれていない所もある。飯野奈津子解説委員の言うように、今、緊急医療体制の整備が求められている。WHOの実践ガイドは、正常であれば助産院で出産することを勧めているが、真の安全性を保証するためには、緊急医療体制の整備が不可欠である。

キーワード


mailto:midori.iga@nifty.ne.jp
Last modified: $Date: 2008/05/24 06:22:47 $