白雪姫

 むかし、むかし、あるところに白雪姫という、どうしようもないほどのブスのお姫さまがいました。ほんっとーに、どうしようもないブスでした。世界中の醜いものを、全て集めたような醜さでした。もちろん、どんなにブスだとしても、優しい心の持ち主ですとか、何かしらいいところを持っているのなら、それはそれでいいでしょう。けれども、彼女は性格まで、すくいようのないブスでした。

 白雪姫のお母さんは、姫を産んだあと、すぐ亡くなってしまいました。一年たつと、王様は新しいお后様を迎えました。この新しいお后様は、ものすごい美人でした。世界中の美しいものを、全て集めたような美しさでした。

 さて、このお后様は、不思議なかがみを持っていました。彼女はかがみの前に立ってこう言います。「かがみよ、かがみよ、かがみさん、この世で一番美しい人はだあれ?」
するとかがみはこう答えます。
「それはあなた、あなたです。」
そう、それは魔法のかがみだったのでした。

 お城には、たくさんの召使いがいました。召使いたちは白雪姫におべっかを使い、かわいい、かわいいを連発しました。本当のことを口にして、首をはねられた仲間たちを、何人も見てきましたから。つまらないことで死にたくはないですからね。そのためだけだというわけではありませんが、白雪姫は全く自分の醜さを自覚していませんでした。ある時、白雪姫は召使いの一人に、真顔でこう尋ねました。
「ねえ、お義母さまって、私と同じくらい、美人よねえ」と。
召使いは心の中で、ぎゃぁぁぁーーーっと叫んでしまいました。世界一の美人と、世界一のブスを、同じくらい美人だなんて訊かれてしまったのですから。思っている答えはたった一つですが、言うことを許される回答例もまた別の一つです。なぜって、人は嘘無しでは、生きられない動物ですから。悲しいことですけれども。
「ええ、そうですね。お后様もお美しい方ですが、やっぱり姫様のかわいらしさには、勝てないかもしれませんねえ。」

 このやりとりを、一部始終見ている者がいました。それはお后様です。彼女の魔法のかがみは、全ての事実を見せてくれるからです。彼女は気が狂いそうになりました。自分のことをどうこう言われたからではありません。権力をかさに、真実を冒涜するということが、許せなかったからです。彼女は狩人に、白雪姫を森に追放するよう命じました。

 お后様のたくらみは見事に成功、白雪姫は暗い森へと追いやられました。いやな奴がいなくなったので、お城のみんなは大喜びです。王様でさえ、喜んでいました。みんながみんな、彼女のことを、内心毛嫌いしていたのです。心優しいお后様は白雪姫がかわいそうになりました。誰も彼女のことを愛していないのに、愛しているふりをしていたのです。確かに彼女は容姿も性格も、まさに最悪でした。しかし、本当の醜さとは、もっと違うものではないだろうか。王妃様はそう思い、自分のしたことを後悔しました。また、王妃様は、王様を含め、男たちの自分への愛というのが、自分の美しさ、それだけに対して向けられているという事を、知っていました。そして彼女はそれが悲しいということも、知っていたのです。
 彼女は誰からも愛されていない白雪姫が気がかりになりました。そこでかがみを使い、彼女が今どうしているのか、調べてみることにしました。

(つづく)

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