夢見る頃を過ぎて・・・
羊水に浸かりながら、ぼくは大きな期待を持っていた。
今度こそ、すてきな家庭に生まれたいな。
かっこいいパパと、きれいなママの子供に生まれたいな。
お金持ちの家庭の子供に生まれたいな。
すてきな人生を送りたいな。
ぼくは大きな期待に胸を膨らませていた。
やがて、ついにその時が来た。
夢と希望を持って、ちょっとドキドキしながら僕は生まれた。
ぼくが生まれて最初に見たのは、
けっして美人ではないママの顔だった。
ぼくがその次に見たのは、
さえないパパの顔だった。
最後に、ぼくは辺りを見渡した。
そこはお金持ちなら使わないであろう、寂れた町医者の病室だった。
人生最大の企みは、みごとに打ち砕かれた。
平凡な家の、平凡な子供として、これからの長い人生を過ごさなければならないのだ。
悲しくて、悔しくて、ぼくは泣いた。
誰はばかることなく、大きな声で泣いた。
おぎゃぁ、おぎゃぁ、おぎゃぁ。
失意のどん底で生きていくのはあまりにも辛いことだから、
ぼくははじめ抱いていた希望を全て忘れることにした。
それは骨の折れる作業だったが、
なんとか記憶を消し去るのに成功した。
片づけた後、疲れたぼくは一眠りすることにした。
なにも考えていない、無邪気な寝顔で。
すやすや、すやすや。
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ぼくは生まれたときに泣いた理由をもう覚えていない。
君だってそうでしょう?
2003.7.9 表参道FABにて