透視メガネ

 今も昔も"怪しい"グッズのパワーは衰えることを知らない。

 例えば、中学時代に私を魅了した"透視メガネ"。宣伝文句を読むといかにも、それを掛けると洋服が透けて見えると思わせる、巧みなコピーが並んでいる。

 "見たくても見えなかったものが、はっきりと!"

 "街や海岸で大活躍!!"

 田舎の中学生だった私は、そのメガネを買ったらどこで使おうかとか、でも男も見えちゃうんだよなー、それは見たくないよなーなどと、さわやかな妄想をふくらませていた。それに、"この商品は決して悪用しないで下さい"という念を入れた注意書きは、純朴だった私の信用を勝ち取るのに十分だった。

 しかし、そんなものを通販で買ったら、自分が手にするより先に親にみつかって、こっぴどく叱られるか、あまりの情けなさに大泣きされることは目に見えている。

 そこで、当時から口だけは達者だった私は、両親が共働きだった友人の佐々木(仮名)に全知全能を傾けたセールストークを繰り広げ、ついに、購入させることに成功した。この辺の卑怯さは、ちびまるこちゃんの藤木君に一歩も引けを取らないと自負している。

 2週間ほど経って商品が届いたと電話があったので、チャリンコに跨り全力で佐々木(仮名)の家へ駆けつけた。

 二人で期待に胸を躍らせながら包装をあけると、黒ぶちのメガネと、潜望鏡のような形状をした四角柱が2本出てきた。説明書によると、メガネにその四角柱を取り付けろということなので、その通りにした。

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 下手な絵で申し訳無いが、もし街中で掛けて歩いていたら、警邏中の巡査に職務質問されるのが確実な感じは、お伝えできただろうか。

 しかし、なにしろ見たくても見えなかったものが、はっきりと!見えるのである。使用する場所とタイミングにさえ気をつければ、こんなに素晴らしいものは無い。

 組み立て後、購入者である佐々木(仮名)が、自宅2階の自室の窓を開けると、ちょうど高校が終わる時間で、女子高校生が帰宅しているところが見えた。佐々木(仮名)は震える手でメガネをかけて窓の外を凝視した。

 佐々木(仮名)は2〜3分の間、窓の外を見ながらメガネの角度を調節したり、左右をきょろきょろ見渡したりした後、無言でそのメガネを私に渡した。

 見たくても見えなかったものも、実際に見てしまうと、それほどの感動は無いのだろうか、などと思いながら、そのメガネをかけて同じように窓の外を見てみた。

 私の視界に1人の女の子が飛び込んできた。しかし、その女の子はメガネをかける前と、なんら変わることなく、きちんと服を着て微笑んでいた。それに、どこかで見たことのある顔だ。

 メガネを外し、後ろを振り返って見ると、そこに同じ顔があった。

 それは当時、佐々木(仮名)がファンだった小泉今日子のポスターだった。

 見たくても見えなかったものとは自分の後ろだということはわかったが、それを街や海岸で大活躍させる方法については、それから17年経った今でも、わからない。

 

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