これは、実際にわたしの体験した話です。
それは飲み会での帰り道のことであった。そう、あれは深夜零時を若干まわった頃だと思う。
不景気のせいだろうか、週末にもかかわらずタクシー乗り場に行列はない。タクシーの方が行列をつくって客を待っている。
わたしはすぐにタクシーに乗ることができ、友人たちと別れ、すぐに帰路につくことができた。
道路は空いていた。静かだった。
やがてタクシーは踏切に近づいた。そのとき、突如遮断器が降り始めた。
おかしいな、こんな深夜に.このローカル線の終電は終わっているはずだ。貨物かな。
わたしはいい気持ちで酔っていたので、ぼうっとしながらその様子を見ていた。
やがて列車がやってきた。意外にも、通常の列車であった。各車両には、灯りがこうこうと照らされていく。無人の車両が次から次へ通り過ぎていき、やがて列車は通り過ぎていった。
すると、ずっと無口だったタクシーの運ちゃんがこっちを興奮した様子で振り向いた。
「いっ、今の列車、誰も乗ってなかったですよねぇ !」
「そうですね。」
そうわたしは答えた後、
「でも今の列車 "回送" と書いてありましたよ。」
そういうと、運ちゃんは気恥ずかしそうに前を向き、アクセルを踏んだ。