わたしの名はハナ.咲いた咲いたのハナ・・・.
これは,松本清張作 天城越え の一説である.
旧天城トンネルと言えば,心霊の名所としても有名な場所である.生首が追いかけてきたとか,噂は絶えない.
三島大社の大鳥居を起点に,天城の峻険を越えて下田に至る通計十七里十四町二十一歩の大道を下田街道という.その中でも,天城越えは最大の難所であった.
天城と言えば,川端康成作 伊豆の踊子 が有名である."伊豆の踊り子" の名を冠したハイキングコースもある.夏には,ハイキングを楽しむ観光客を多く見かける.しかし,"難所" と言われただけであって,壮大な自然が広がっている.ロマンチックな名前とは裏腹に一種暴力的でもある.
ハイキングコースの一つに "なまこ岩" に至る道がある.なまこ岩は一枚の巨大な岩である.鬱蒼と広がる緑.その中を小さな清らかな川が流れている.その脇に,その岩はゆったりと横たわっていた.
これより少し下には "氷室" 跡がある.夏の日中においても,木々に光は遮られ,薄暗い.また,氷室があるくらいだから,夜ともなれば,夏といえども気温はぐっと下がるだろう.
天城トンネルが造られたのは,それほど古い話ではない (明治 38 年).江戸時代は,下田を経由しての海路がよく用いられた.天城トンネル建設の際,地元出身の国会議員が,日本刀を持ってのぞんだという.地元の民にとってそれほどの悲願であったという.
先日初めて旧天城トンネルを徒歩で通り抜けた。非常に寒いのに驚いた。
水滴が垂れていて、雰囲気たっぷり。しばらく前から、トンネル内では、灯りがともり始めたが、それだけでは十分ではなく、足下が見えない。壁や天井のあちこちから、水滴が湧いて出て、測道の水にポトポトと落ちる。
車やバイクが通ると、静寂を破り、トンネル内にもの凄い音が響く。わたしが、ここで眠る霊であっととしても、これでは苛立ってしまう。それでも、車やバイクの灯りが点ると、歩行者は何となく安心してしまう。
所々、壁、天井、水滴のたまった測道と、フラッシュをたき、写真を撮る。それを見る、観光客のおばさん達が囁く。(聞こえてるいるぞ (^^;)
「何を撮っているかしら ?」
「幽霊よ、幽霊。」
「まぁ、やだ怖い。」
余りにも寒かったので、踊り子姿の方から、温かいお茶をもらって温まってから帰ったのよのさ。