これは今 (2006 年 5 月現在) より,およそ十年ほど前,わたしの知人が体験した話しである.
あれは静かな夏の夜のこと.
知人の女性は,自分のアパートの一室で本を読んでいた.彼女のアパートは,川の近くにあるのだが,その川沿いには道がありる.地元の人がよく抜け道に使うような道である.その道とわたしのアパートとの間には,田圃があり,そのあぜ道を行けば川沿いの道に行くことができる.あぜ道の横には,大家さんの家があった.
テレビをつけずに本を読んでいたが,その夜はとても静かな夜でした.
それが突然,キキーというブレーキ音の後,ドンッという鈍い音がした.彼女はちょっと気になったが,面倒なのでそのまま本を読み続けていた.しばらくすると,
ドンドン,ドンドン !!
彼女の部屋は一階にあったのだが,その窓を誰かが叩く.無視していると,
ドンドン,ドンドン !!
「誰 ?」
そう聞いても返事がない.窓を開けると,川沿いの道に向かうあぜ道を誰かが駆けていくであった.そこで彼女は,大家さんの家の横を抜け,川沿いの道に向かった.
そこには一台の車が停車していた.そのすぐ側には,一人の少女が血塗れになって倒れていた.車の運転手らしき男は,おろおろし動揺していた.また,倒れている少女の友達らしき少女も同じように,ショックでどうしたらよいか分からない様子であった.
わたしはまず,倒れている少女の様子を見てみる.目をつむっていて,完全に意識はないようだ.少女の鼻に,指をかざす.まだ,息はある.
「生きているんでしょうか?」
若い男がようやく話しかけてくる.
「まだ息はあるよ.あんた何やってんの ? そこに明かりがついている家があるでしょ.そこに行って救急車を呼んできなさい.」
男は指示されたとおり,明かりに向かって走っていく.
「助かりますよねぇ?」
今度は友達の少女が話しかけてくる.
「あんたも,また車が来るといけないから,あの辺で車が来たらよけてもらうように指示して.」
少女もまたこちらを気にしながらも,指示した場所まで離れていく.
しばらくすると,救急車が現れた.
翌日,結局少女は助からなかったという連絡を受けた.
また翌日,わたしが訪ねて,前の晩のことを立ち話をしていると,大家さんが近づいてきた.
「昨夜は大変でしたね.」
「えぇ.」
曖昧な返事をした彼女.でも,気になることもあった.
「昨夜,誰かがわたしの部屋の窓をノックしたんです.それで行ったんですけど.」
「えぇ.」
「でも,誰がノックしたのが分からないんです.」
「でもわたし,あなたがあの道に行く前にわたしの家の前を通っていく人を見ましたよ.」
大家が,前の晩,彼女より先にあぜ道を通った人の特徴を言った.これこれこういう服装をした人でしたよ.それを聞いて,彼女は一瞬,奇妙な表情をした.
大家さんが話したその服装の特徴は,倒れていた少女の特徴と同じものだった.彼女に助けを求めに来たのは,死にかけた少女本人だったのだ.
後日,彼女の知人に看護婦の方がいるが,職業柄,血を流した方の看病しなえければならないが,仕事以外だったら,やっぱり血を流している人の様子を見るのなんて絶対やだ,と言われたそうだ.