Yamanaka Lake
山中湖
山中湖というところは，湖があり，周辺に道路が走り，さらにその周りに鬱蒼とした林がある．その中に別荘が点在している．今からもう，20年ほど前だろうか．それはそれは，昔からの立派な別荘があったそうだ．その別荘の庭にはやはり古い井戸があった．
わたしの知人の女性が，その別荘のすぐ側に投宿することになった．当時20歳前後の女同士．また，その例の別荘には，まだ10代の女子高生が家族と一緒に利用していた．夏休みの家族との楽しい旅行ではあったが，親戚も混じっての旅行とあっては，世代間のギャップもあってうちとけなかったのか，彼女はすぐにわたしの知人の女性たちと仲良くなった．自分より少し大人の女性たちに混じって，夜遅くまでトランプをしたり，話をしたりして過ごした．
周りの観光地山中湖．シーズン中には，夜遅くまで若者たちを見かけることができるが，一歩外れた場所では，異様な雰囲気を感じる．
その日もその美しい光景に魅せられ，多くの人々がボートで湖に漕ぎ出していた．あの少女もその一人だった．わたしの知人の女性たちもボートで湖に漕ぎ出していた．景色は美しく，海ほど暑くはないし，視界には霊峰富士が大きく映り，何とも言えない貫禄を漂わせていたはずだ．
少女がわたしの知人の女性たちに気づき，「お姐さーん」と，立ち上がって手を振った．その時だった，穏やかだった湖に突風が吹き，ボートは転覆した．そして少女は，もう帰らぬ人となった．
バブル経済期を経て，その別荘がまだあるとは思えない．ただ位置としては，甲府側からの街道と湖岸の道路との合流地点，そのちょうど反対側ということは聞いている．今まで場所の特定を試みてきたが，いまだ確定していない．そして，山中湖の夏の夕方．一度は見て欲しい．湖の小さな波の頭が，次々に夕日に照らされ，黄金色にきらめく様を．海の夕焼けの雄大さとは違う，こぢんまりとした，だがとても秩序正しい美しさを．
ボート乗り場を作るような地形では、水の流れの悪戯か、長い間発見されなかった死体が流れ着いたりするそうである。そしてその死体は、まずその別荘へ運ばれる、そういう場所でもあったそうである。
