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夢空間への招待状

バージョンワンのウインドウズ
− MS-Windows −

結城 浩


(この文章は1993年に書かれたものです。)

MS-Windows 3.1 が出て、 どうも Windows の流れがより一段と強くなったようである。 DOS 好きの私も、 自宅でのメインOSとして Windows の検討を考え始めている。

そんなある日、自宅のフロッピーの整理をしていたら、 本棚の隅の箱の奥から一枚のディスクが出てきた。 ラベルにはこう書いてある。

MS-Windows version 1.03
Copyright (C) 1985 Microsoft

おやおや、このフロッピーは、 現在騒がれている MS-Windows の初期バージョンのシステムディスクではないか。 3.1 というバージョン番号に慣れてしまった目には 1.03 の数字がういういしく感じられる。 私のディスクの中にあったのだから、これは98への移植版に違いない。

おそるおそるフロッピーを98に入れてリセットキーを押す。 カチャカチャ。 …しばし待つと、 画面の中央に砂時計が表示され、 見事にウインドウズが起動しはじめた。

バージョンワンのウインドウズだ。


起動直後に開かれるアプリケーションは 今でいうプログラムマネージャであろう。 しかし表示されるのはファイル名のみ。 アイコンは表示されない。 ちょっと出来のよくないファイル管理ソフトを見ているような感じだ。

ウインドウの基本的なデザインは変わっていないが、 受ける印象はまったく違う。なにしろ、 ウインドウが全然立体的ではない。ひらべったいウインドウが並んでいる感じだ。クリックするボタンも単なる四角が描いてあるだけで、 クリックしてもボタンがへこむようなアニメーションはない。ソフトウェアに対する画面デザイナーの力、 ということをチラリと考える。メニューはあるが、 キーボードのショートカットはないようである。

色もずいぶん貧弱である。8色のデジタルRGBを基準にしているらしく、 中間色は、 点描画のように違う色の画素を 混ぜることによって実現しようと努力している。 頑張ってはいるけれど、 現在のアナログディスプレイに慣れた目には8色のみの画面は汚く見える。

マルチフォントにもなっていないようだ。 98のROMと同じ自体のフォントとそれを二重表示して作成した太字のフォントだけがある。

時計、ノートパッド、 クリップボード、カレンダー、 計算機などのアクセサリは現在のWindowsと同じファイル名を持っている。 しかし、ファイルの大きさは全く異なる。 時計が8K弱、ノートパッドが19K、 計算機が25Kという小ささである。 なにしろ100Kを越しているファイルはウインドウズ本体と端末ソフトの二つだけなのである。 フロッピー一枚にシステムが収まり、 それだけで起動できるのも納得がいく。 最近のOSやアプリケーションが当然のように数メガの単位でディスクを食っていくのに慣れていると、 フロッピー一枚でウインドウズが動くなどどいうのはなんだか新鮮である。

ウインドウズ本体は WIN.COM と WIN100.BIN と WIN100.OVL という3つのファイルから成っているようだ。 たぶん、.COM が .BIN を起動し、 OVL をオーバーレイとして動作しているのだろう。 また、 このころからすでに WIN.INI という初期化ファイルが使われている。 内部のフォーマットはあまり変わっていない。


カチャカチャとフロッピーにアクセスしながら動作するバージョンワンのウインドウズを見ていると隔世の感がある。 タイムスタンプは 86-11-20 になっていたから今からおよそ7年前だ。 当時はウインドウズに対してOSという意識はあまりなかった。 MS-Windows とマルチウインドウ型の統合環境ソフトとの比較などがなされていたように記憶している。 第一当時は「ウインドウズ」などという言い方もしなかったのだ。

もちろん、 このバージョンワンのウインドウズ上で動作するソフトなど皆無に等しかったはずである。 現在、 世界中に Windows が浸透していき、 次々に対応アプリケーションが登場する状況と比較すると、 なんとも不思議な気分になるのである。

(Oh!PC、1993年07月15日)


[結城浩]

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