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[ 豊かな人生のための四つの法則 ]

好きな食べ物

Sukina Tabemono

結城 浩


好きな食べ物について書く。

風邪をひいて熱があるときに、すりおろしたリンゴを食べるのが好きだ。

熱があってぼうっとして、のどが痛く、何度も寝返りを打っている。
背中が痛い、関節も痛い、体の向きをいくら変えても眠り込むことができない。
そんなときにおかあさんが持ってきてくれるリンゴが好きだ。

透明なガラスの器に盛ったリンゴ。
白いプラスチックのおろし金ですったリンゴ。
皮をむいて、おろし金でリンゴをすったものをガラスの器に盛って、
小さなスプーンをさして持ってきてくれるリンゴ。
その冷たさが好きだ。
冷たいリンゴ。

食べているうちにおかあさんが手を額にあててくれる。
「熱は下がった?」

食べおわるころにおかあさんが体温計を振りながら持ってくる。
「じゃあ、ちょっと熱を計ってみましょう。」

僕は学校を休んでいる。
窓から明るい光が差し込んでくる。
こんな時間に家にいるのは、風邪で学校を休んだときだけだ。
テレビをつけてもらうけれど(教育テレビだ)、
一人で寝ているのはさびしい。
ガラスの器に盛られたすりリンゴを食べおわると、
僕はこたつの上に器を返す。
少し赤黒くなったリンゴのカスがガラスの器にへばりついている。

アラジンのダルマストーブが静かに燃えている。
ストーブの上にはやかんが乗っている。
アルミのやかんで、黒いプラスチックの取っ手がついている。
その上にはおばあちゃんが干した靴下と下着が下がっていて、
ゆっくりと回っている。
ほっぺたが火照るくらいに部屋の中はあたたかい。

口の中にはリンゴの香りが広がっている。

僕は眠くなって目を閉じる。

(最終更新:1997年9月8日)


[結城浩]

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