◇◇なぜコバルト(II)錯体の研究をしているのか◇◇


なぜコバルト?
 なぜコバルトの研究をしているのかと尋ねられることがあります。一言でいえば、コバルト化合物の中に、一筋縄では解釈できない磁性を示すものが多いからです。(特に正八面体の形をした「高スピン」状態のコバルト(II)錯体が難しいです。)

ニッケル化合物と比べると?
 銅やニッケルの化合物の多くは、主に「スピン(角運動量)」だけを考えて磁性を解釈することができます。上記のコバルト(II)錯体に比べると、はるかに解釈しやすいと思います。

コバルト(II)錯体の難しさ
 上記の正八面体型高スピンコバルト(II)錯体には、「スピン(角運動量)」に加えて「軌道角運動量」の影響が大きく出るため、両者間の「スピン軌道相互作用」を考えて磁性を解釈する必要が出てきます。
 二核銅(II)錯体や二核マンガン(II)錯体の磁化率の理論式は一、二行で記述できますが、私が導いた二核コバルト(II)錯体の磁化率の理論式を記述するとA4用紙7、8ページにもなってしまいます。


◇◇正八面体型コバルト(II)錯体の磁性研究の歴史◇◇


1963年
 M. E. Lines先生が、スピン軌道相互作用とコバルト周りのわずかなひずみの効果を考えて、正八面体型高スピンコバルト(II)錯体の磁性(磁化率と有効磁気モーメントの温度変化)をシミュレーションすることに成功しました。
 注:「正八面体型金属錯体」といっても、金属周りの環境が厳密に正八面体になっているわけではなく、だいたい正八面体の形に近ければ、「正八面体型」と呼ぶことになっています。実際のコバルト(II)錯体はわずかにひずんでいるため、ひずみの効果を考えたことが成功の鍵でした。

1971年
 M. E. Lines先生は、さらに二核正八面体型高スピンコバルト(II)錯体(二つのコバルト(II)イオンを含んだ錯体)の磁化率の式を導きました。(二核錯体の場合には、二つのコバルト(II)イオン間の交換相互作用が考慮されます。)この式ではスピン軌道相互作用については考慮されていましたが、コバルト周りのひずみの効果については考慮されていませんでした。そのため、この式が使えるのはコバルト周りのひずみがほとんどない場合に限定されていました。

2001年
 崎山博史が二核正八面体型高スピンコバルト(II)錯体について、交換相互作用スピン軌道相互作用に加え、これまで考慮されていなかったコバルト周りのひずみの効果についても考慮した磁化率の式を導出しました。この式を用いることで、それまで解釈できなかった多くの二核コバルト(II)錯体の磁気的性質が解釈できるようになりました。

<<つづく>>
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