悪魔のパラドックス

 僕が無鉄砲だって?
 自分でも気付いてるんだよ。
 でもね、性格でね。
 今までいろんな失敗をしてきたよ。
 やっぱり今までで一番の失敗というとあれかな?
 地下室で見つけた祖父の本に書かれていた呪文を興味本位で唱えてしまったことかな。
 後で分かったんだけどその本は『悪魔降臨の書』だったのさ。
 ああ、悪魔が現れたときはびっくりしたねえ。
 そいつは霞から現れるなりこう言ったんだ。
「我は悪魔なり。汝の魂と引換えに願いを一つだけかなえて進ぜよう。」
 古今東西どのおとぎ話を見てもこの手の願いは悪魔に盲点を衝かれてうまくいかないに決まってるしね。
 とりあえずうっかり願い事をしてしまわないように注意しながらしゃべったんだ。
「あー、いくつか質問してもいいかな?」
「質問という行為自体が相手に対する影響力の行使である。よって本来は答える義務はないのだがその質問にだけは答えてあげよう。答えはノーだ。」
 妙に論理的な悪魔だと思ったよ。
 もっとも相手の願い事の盲点を衝くということ自体論理のあら捜しみたいなものだから何千年もそんなことをやっていれば理屈臭くなるものかもしれないね。
 なんにしてもこんな奴を相手にしていたらまさしく命がいくつあっても足りないと思ったね。
 僕は無鉄砲だけど思い切りもいいほうなんだ。
「えーと、申し訳ない。君を呼んだのはちょっとした間違いなんだ。願い事はなかったことにしてくれ。」
 そうそう、僕もね、言った瞬間にしまったと思ったよ。
 ついね、うっかり願い事をしちゃったんだよ。
 で、どうなったかって?
 魂は大丈夫だと思うよ、多分。
 何故なら悪魔はいまだに僕の家の地下室でパラドックスに悩んでるんだから。